理想の手ブレ補正とは?
(ボディー内手ブレ補正だけでは役に立たない)
2016/05: 発行
2019/07: 更新
2019/07: 更新
目次
1. はじめに
理想の手ブレ補正とはどんなものなのでしょうか?
従来のフィルムカメラでしたら、手ブレ補正はレンズ側にしか搭載されていなかったので、必要ならば手ブレ補正の付いたレンズとそれが使えるカメラを揃えるだけでした。
キヤノンの手ブレ補正(IS)機能を搭載したEFレンズ群
何故ならば、パトレーネまで付いたフィルムを前後左右に動かすのは至難の技だからです。
ところが昨今では、撮像素子を縦横無尽に動かす事で、5軸手ブレ補正を搭載した機種まで現れて、更にはレンズ内手ブレ補正と連動するに至っては、自分に合った理想の手ブレ補正はどれなのか次第に分からなくなってきました。
という訳で、これからカメラを購入する方にとって、レンズ内とボディ内手ブレ補正のどちらが一番合理的な選択なのかを、じっくり見極めてみたいと思います。
またそれに際して、手ブレにはどんな種類があって、その重要度はどれくらいで、その補正方法についてもお伝えしたいと思います。
そして最後に各社の手ブレ補正の思想とご自分にとって最適なカメラをご紹介したいと思います。
なお新しい機種が発売される度に内容を更新しておりますので、これをお読み頂ければ、最新の手ブレ補正事情を知る事ができると確信しております。
2. 手ブレの種類
それでは先ず、手ブレにはどんな種類があるか見てみましょう。
一言に手ブレと呼びますが、下の表にあります様に、実は大きく分ければ3種類、細かく分ければ6種類もあるのです。
大分類 | 小分類 | ||
1 | 角度振れ | 1 | ピッチ方向の角度振れ |
2 | ヨー方向の角度振れ | ||
2 | シフト振れ | 3 | 上下方向のシフト振れ |
4 | 左右方向のシフト振れ | ||
5 | 前後方向のシフト振れ | ||
3 | 回転振れ | 6 | 左右の回転振れ |
これらに関して、以下のソニーα7 IIの5軸手ブレ補正のイラストを使って、ご説明していきたいと思います。
SONY α7 IIの5軸手ブレ補正
①角度振れ
従来手ブレと言えば、この角度振れの事を指していました。
上のイラストで言えば、①と②を指しており、①のピッチ(Pitch)が上下の角度ブレ、②のヨー(Yaw)が左右の角度振れになります。
殆どの方が経験があると思いますが、望遠レンズを付けてファインダーを覗くと、画面が細かく揺れるのはこの角度振れが原因です。
角度ブレの説明画像
特に300mm以上の望遠になると、ピントを合わすのも難しいほど良くブレます。
また余り知られてはいませんが、撮影距離がレンズの焦点距離(フルサイズ換算)の20倍を超えると、上下左右の角度振れが支配的になっていきます。
具体的には下の表にある様に、焦点距離が24mmのレンズでしたら0.5m、焦点距離が50mmのレンズでしたら1m、焦点距離が200mmのレンズでしたら4mを超えたら、角度振れが断トツの手ブレ要因になります。
焦点距離 | 20 mm | 24 mm | 35 mm | 50 mm | 85 mm | 100 mm | 135 mm | 200 mm | 300 mm |
20倍 | 0.4 m | 0.5 m | 0.7 m | 1.0 m | 1.7 m | 2.0 m | 2.7 m | 4.0 m | 6.0 m |
すなわち、風景写真や人物写真、あるいは野鳥撮影の様に一般的な撮影においては、角度振れが全てと思って頂いて間違いありません。
もっと言えば、3軸4軸5軸と言いながら、通常の撮影においてはこのYawとPitchのブレを抑えれば十分事足りるのです。
ところで、先程お見せしたSONY α7 IIの5軸手ブレ補正のイラスト図ですが、YawとPitchの矢印が湾曲して描かれているので、もしかしたら撮像素子も上を向いたり、横に向いたりしていると思われませんでしょうか?
それはとんでもない誤解で、実はYawもPitchも撮像素子は上下左右にしか動かないのです。
②シフト振れ
シフト振れとは、前出のイラストの③Xと④Yを指します。
これがどんなときに発生するかと言えば、マクロ撮影のときです。
シフトブレの説明画像
具体的には以下のチャートにあります様に、撮影倍率が大きくなるほど、シフト振れの影響が大きくなります。
なおマクロレンズ以外でしたら、最大撮影倍率は0.2未満ですので、シフト振れは殆ど心配しないでも良いと言えます。
ちなみに一般的な50mm標準レンズの最短撮影距離が0.45mですので、その場合の撮影倍率は0.11倍で、被写体から1m離れると0.05倍になります。
ですので、もっと端的に言ってしまえば、0.1倍以上のマクロ撮影をしない限りシフト振れ補正が付いていても、殆どそのメリットを享受できないという事です。
ですので、マクロレンズを使って高倍率のマクロ撮影をしない限り、シフト振れ補正は必要ないとも言えます。
ちなみに、キヤノンにおいてはマクロレンズに加速度センサーを付けて、シフト振れも補正できる様にしています。
キャノンのシフトブレ補正
なおシフト振れについては、イラストにはありませんが、Z方向も存在します。
ただしこれはカメラが前後に振れた場合ですが、理論的にはコンティニュアスAFと同じになります。
ですので、5軸手ブレ補正にコンティニュアスAFを動作させれば、6軸手ブレ補正と呼べるかもしれません。
③回転振れ
回転振れとは、下のイラストにあります様に、レンズの光軸を中心に左右に回転する振れを指します。
回転振れとは、レンズの光軸を中心に左右に回転する振れを指す
では回転振れがどういうとき発生するかと言えば、主に手持ちで長時間撮影を行った際、シャッターボタンを押した事によってカメラが回転して発生します。
回転ブレの説明画像
なおこの回転振れは、当然ながらレンズを回転しても補正できませんので、撮像素子を回転できるカメラ側でしか補正できません。
またこの回転振れ防止機構を利用して、水平を自動で修正するカメラも出てきました。
ただし手ブレ防止としては、昼間の撮影では殆ど効果はありませんので、夜景を手持ちで撮影しない限り、あまりメリットはないとも言えます。
更にボディー内手ブレ補正を搭載していないEOS Rの場合、シャッターボタンを極力立ててこの回転振れを抑える様にしています。
EOS Rのシャッターボタンは立て気味にして回転振れを抑えている
④動画では有効な5軸補正
今までシフト振れと回転振れについては、まるで無用の長物の様にお伝えしましたが、俄然効果を発揮する場面があります。
それは動画撮影時です。
カメラを手持ちで動画撮影を行う場合、あらゆる方向に振れが生じますので、この5軸補正は大変有効です。
通常動画撮影の場合、電子式の手ブレ補正機能が一般的ですが、撮影範囲が狭まる事を考えると、この5軸補正は動画用と言っても良いほどです。
⑤まとめ
それでは手ブレの種類を一通り見た所で、ここまでのまとめをしておきたいと思います。
大分類 | 小分類 | 説明 | ||
1 | 角度振れ | 1 | ピッチ | 手ブレで一番重要なのは角度ブレであり、通常の撮影においてはこのブレが最も支配的である。 具体的には、撮影距離が焦点距離の20倍を超える場合(50mmレンズであれば、距離1m以上の場合)、他の振れは事実上無視できる。 |
2 | ヨー | |||
2 | シフト振れ | 3 | 上下 | シフト振れ補正は、マクロレンズを使って高倍率(0.1倍以上)のマクロ撮影をしない限り必要ない。 |
4 | 左右 | |||
5 | 前後 | |||
3 | 回転振れ | 6 | 左右 | 回転振れ補正は、手持ちで長時間撮影(夜景撮影)を行なわない限り必要ない。 |
これをご覧頂きます様に、5軸補正と言いながら、実際には角度振れ以外は、静止画撮影においては殆ど重要ではないというのが分かって頂けると思います。
ただし動画においては、5軸補正は非常に有効です。
手ブレの種類が分かった所で、次はレンズ内手ブレ補正とボディー内手ブレ補正のメリットを順に見ていきたと思います。