(電子先幕シャッターの幣害を克服する)
EOS RPにおけるボケ欠け回避策
2019/05/17: 発行
2020/11/26: 更新
2020/11/26: 更新
はじめに
ご存知の様に2019年3月に発売されたEOS RPは、低価格を実現するため、従来のメカ式先幕を電子的な読み取り方式に変えた電子先幕シャッターを採用しました。
EOS RP ゴールドとブラック
早い話がメカ式先幕を削除したという事です。
電子先幕シャッターとは、レリーズ開始時は電子シャッターで、レリーズ終了時のみメカシャッターを閉じます。
これによって撮影直前にメカ式の先幕を一旦閉じる必要が無いため、シャッターのタイムラグを短くできます。
また1枚撮影、もしくは連続撮影時の1枚目の撮影において、メカ式先幕によるのシャッターショックを完全になくす事ができます。
更に電子シャッター特有の、動体画像のゆがみも防止できます。
そんな訳で、ミラーレス一眼にとっては理想的なシャッター機構なのですが、残念な事に一つだけ幣害があるのです。
それは、高速シャッターで絞り開放で撮影すると、ボケ像が欠ける事になるのです。
実際EOS RPの使用説明書にもその旨記載されています。
EOS RPの使用説明書(232頁)
ですが、これを読んでもどの位シャッタースピードを遅くしたり、絞りを絞ったりすればボケ欠けを回避できるかが全く分かりません。
このため実際にEOS RPに明るいRF 50mm F1.2Lのレンズを取り付け、ボケ欠けの程度と発生条件を調べてみましたので、その結果とボケ欠けの回避策をお伝えしたいと思います。
ボケ欠けの発生し易いEOS RPとRF50mm F1.2L USMの組み合わせ
検証したのはあくまでもEOS RPですが、恐らく他社機も似た様なものだと思いますますので、是非参考にして頂ければと思います。
後ボケ(背景ボケ)
先ずは後ボケから確認してみます。
この場合、光源をカメラの1.5m先に置き、一番手前にピントを合わせた状態で撮影します。
そして、絞りをF1.2に固定したまま、ISO感度を変えてシャッタースピードを1段ずつ遅くした場合のボケ欠けの程度は以下の通りです。
上の写真をご覧頂きます様に、1/4000秒の場合かなり顕著なボケ欠けが発生しているのが分かります。
この状態で普通の写真を撮ったらどうなるかについては、後ほどお見せします。
また1/2000秒においては、ボケ欠けは無いものの、ボケの下部が暗くなっているのが分かります。
更に1/1000秒においては、かなり良化するもの、まだ下部に僅かながら暗い部分が残っているのが確認でき、1/500秒でほぼOKレベルになります。
まとめますと、ボケ欠けはシャッタースピードが速くなればなるほど発生し易く、50mm F1.2レンズの場合1/500秒でOKレベルになる、と言えます。
前ボケ
次に前ボケです。
先程は後ボケだったのですが、今回は光源をカメラの数十cm手前に置き、無限遠にピントを合わせた状態で撮影してみます。
するとご覧の様に、この場合は後ボケとは反対にボケの上側が欠けます。
ボケが小さくて恐縮ですが、ボケ欠けのレベルは後ボケとほぼ同じで、1/1250秒でまだ僅かに上部が暗い傾向があり、1/640秒でOKレベルになると言った感じです。
後ボケ大
次は後ボケをもっと大きくして撮影してみました。
先ほどは光源までの距離が1.5mだったのですが、今回は約4mにまで遠ざけた結果が以下になります。
これをご覧頂きます様に、前回とほぼ同じ様に1/640秒がOKレベルとなり、光源までの距離を変えてボケを大きくしても、絞りが同じならボケ欠けのレベルは変わらない感じです。
推測ですが、ボケの大きさを変えても傾向が同じという事は、どうやら焦点距離の異なるレンズであっても傾向は同じになると思われます。
すなわち、仮に85mm F1.2のレンズで同じ検証を行っても、1/4000秒で同じ程度のボケ欠けが発生し、1/500秒程度でそれがOKレベルになるという事です。
絞りF2.0の後ボケ大
ここまで分かってくると、次に絞りを変えたらどうなるか知りたくなってきます。
と言う訳で、絞りをF1.2からF2.0にした結果が以下になります。
これをご覧頂きます様に、絞りをF1.2からF2.0へ1.5段絞ったので、先ほどのF1.2のときと比べてボケの大きさは0.6倍(2÷1.2)に小さくなっています。
一方ボケ欠けについては、1/2000秒で良化し、1/1000秒でほぼOKレベルになっています。
どうやら絞りを約1段絞る事によって、シャッタースピードで約1段分ボケ欠けのレベルが良くなっていきそうです。
絞りF2.8の後ボケ大
では、同じ様な良化が絞りをF2.8にして起きるかどうか確認してみます。
その結果が以下です。
これをご覧頂きます様に、予想通り1/4000秒で良化し、1/2000秒でOKレベルになりました。
すなわち絞りを1段絞るのと、シャッタースピード1段遅くすのとは、ボケ欠けに対して同じ程度の効果がありそうです。
絞りF4.0の後ボケ大
ついでなので、絞りF4.0も確認しておきましょう。
この場合、ボケがかなり小さくて見難いのですが、拡大して見ても予想通り1/4000秒でOKレベルになりました。
ここまでで言える事
ここまでの検証結果を、まとめておきたいと思います。
①先幕電子シャッターによるボケ欠けは、シャッタースピードが速くなればなるほど顕著になり、50mm F1.2のレンズの場合1/500秒以下でOKレベルになる。
②絞りが同じであれば、後ボケ、前ボケ、更にはボケの大きさに関わらず、シャッタースピードへの依存度は同じである。
③また上記②の結果から、レンズの焦点距離を変えても同じ様な傾向になると推測される。
④EOS RPの場合、絞り値に対してボケ欠けが許容できるシャッタースピードは以下の通りである。
シャッタースピード | ||
---|---|---|
絞り | OK | 渋々許容 |
F1.2 | 1/500秒 | 1/1000秒 |
F2.0 | 1/1000秒 | 1/2000秒 |
F2.8 | 1/2000秒 | 1/4000秒 |
F4.0 | 1/4000秒 | 1/4000秒 |
⑤故に、例えば開放値F4.0のRF24-105mm F4Lのズームレンズであれば、何も心配しないで電子先幕シャッターが使用可能である。
⑥ただしF2.8以上の明るいレンズを開放近くで使う場合は、上の表にあるシャッタースピード以内で使う必要がある。
F1.2、1/4000秒の写真
それでは次に、ボケ欠けの発生する条件で、普通の写真を撮ってみたらどうなるかを見てみたいと思います。
下の写真は、絞りF1.2、シャッタースピード1/4000秒で撮ったものです。
EOS RP + RF50mm F1.2L (F1.2 1/4000秒 ISO400)
すると、どうでしょう。
色々撮ってみたのですが、どうやってもボケ欠が明確に分かる写真が撮れませんでした。
もしかしたらシャッタースピードを遅くしたボケ欠けの無い写真と比べれば違いが分かるのかもしれませんが、1枚だけで、しかも点光源(玉ボケ)の無い写真をいくら撮ってもボケ欠けを認識するのはかなり難しい感じです。
キヤノンが良くフルサイズのミラーレス一眼においてメカ式先幕を削除したなと思っていたのですが、これが理由だったのかもしれません。
すなわち例えボケ欠けの発生する設定で撮影しても、玉ボケの無い普通の写真を撮る限り、ボケ欠けを認識する事は極めて難しいという事です。
そう思うと、また一つ思い付いた事があります。
恐らくメカ式先幕を削除したフルサイズのミラーレス一眼は本機が世界初だと思うのですが、いきなりキヤノンが市場でボケ欠けを指摘される可能性のあるリスクを冒すとは思えません。
だとしますと、もしかしたらAPS-Cサイズのミラーレズ一眼であるキヤノンのEOS Mシリーズは、既にメカ式先幕を削除していたのではないでしょうか?
EOS MシリーズのU.S.A.モデル
その結果、特に市場クレームが無かった事から、フルサイズのミラーレス一眼においてもある程度自信を持ってメカ式先幕を削除したのではないでしょうか?
試しに国内とUSAのEOS Mシリーズの仕様書を調べてみましたが、国内では”フォーカルプレーンシャッター”、CUSAの仕様書には”Electronically controlled focal-plane shutter”(電子制御ォーカルプレーンシャッター)としか記載されておらず、その裏は取れませんでした。
でも、その可能性は十分あると思われます。
2019/5/18追記
そんな事を思っていた所、2012年に発売された初代EOS Mのカタログに以下の記載がありました。
初代EOS Mのカタログの抜粋
ですので、恐らくEOS Mシリーズは過去から電子先幕シャッター、すなわちメカ式先幕が削除されていたと推測されます。
ただし、EOS Mシリーズの説明書を見てもEOS RPの様なボケ欠けに関する注意書きは一切ありません。
その理由は、APS-Cサイズのボケはフルサイズより小さいのと、キヤノンのEF-MマウントのレンズにF1.2の様な大口径レンズが無いためと思われます。
回避策
そうは言っても、ボケ欠けが発生するのは間違いないので、なんとかそれを回避したいと思われるのは人情でしょう。
その方法はあります。
下の写真は、(本検証を行う前に)EOS RPにRF50mm F1.2 Lレンズを装着して、絞り開放で撮影したものです。
EOS RP + RF50mm F1.2L USM (F1.2 1/1250秒 ISO100)
これを見ても、ボケ欠けは殆ど気になるレベルではありません。
その最大の理由は、ボケ欠けが目立ち易い点光源(玉ボケ)が無いからなのですが、もう一つの理由がシャッタースピードが1/1250秒だからです。
薄曇りの日とは言え、なぜ絞りF1.2でシャッタースピードが1/1250秒になったかと言えば、実はND4フィルター(光量を1/4に減光するフィルター)を付けていたからです。
真夏のビーチであれば、F1.2ですとシャッタースピードは1/8000秒以上にも達しますが、ND8程度のフィルターを付けておけば、晴れた日でもシャッタースピードは(ボケ欠けのOKレベルである)1/500秒程度に抑えられます。
ですので、もし開放値F2.0のレンズでしたらND4フィルター、F2.8のレンズでしたらND2フィルターを付けておえば本問題を回避できるのです。
ご納得頂けますでしょうか?
まとめ
2020/11/24:更新
それではまとめです。
①EOS RPにF1.2レンズを装着して、開放で1/4000秒のシャッタースピードで写真を撮ると、玉ボケに顕著なボケ欠けが発生する。
②ただし点光源の様な目立つ玉ボケがなければ、普通の画像ではボケ欠けを認識するのは難しい。
③電子先幕シャッターによるボケ欠けは、シャッタースピードが速くなればなるほど発生し易く、50mm F1.2レンズの場合1/500秒以下でOKレベルになる。
④後ボケの場合ボケの下側が欠け、前ボケの場合ボケの上側が欠ける。
⑤絞りが同じであれば、後ボケ、前ボケ、更にはボケの大きさに関わらず、シャッタースピードへの依存度は同じである。
⑥上記結果から、レンズの焦点距離を変えても同じ様な傾向になると推測される。
⑦絞りを1段絞るのと、シャッタースピードを1段遅くするのとは、ほぼ同じ程度ボケ欠けが良化する。
⑧EOS RPの場合、ボケ欠けが許容できる絞りとシャッタースピードの関係は以下の通りである。
シャッタースピード | ||
---|---|---|
絞り | 許容 | 渋々許容 |
F1.2 | 1/500秒 | 1/1000秒 |
F2.0 | 1/1000秒 | 1/2000秒 |
F2.8 | 1/2000秒 | 1/4000秒 |
F4.0 | 1/4000秒 | 1/4000秒 |
⑨故にF4.0より暗いレンズであれば、(ISO感度を不必要に上げない限り)本問題は発生しないと思って良いが、F2.8以上の明るいレンズを開放で使う場合は、上表にあるシャッタースピード以内で使う必要がある。
⑩上記表のシャッタースピードに対応するため、F1.2のレンズであればND8、F2.0のレンズであればND4、F2.8のレンズであればND2のフィルターを付けておけば、取り敢えず本問題は回避できる。
こんなまとめで宜しいでしょうか。