2017/07
はじめに当たり前過ぎて言葉にするのも躊躇(ためら)いますが、ストロボを使う上での最重要課題は、光量とか影とかホワイトバランスとか言う前に、先ずはストロボを落とさない事でしょう。 特に高価で大光量のストロボほど、大きく重く、重心も上になり不安定になりますので、落下には十分気を付けなければなりません。 α7S+HVL-F43M(左) α7R II+HVL-F60M(右) ところがSONYのストロボは本当に良く、落下するのです。 そして、その問題が顕著に表面化したのは、2012年以降なのです。 では2012年に何があったのでしょうか? 実は2012年にα99が発売され、それと同時にアクセサリーシューの形状が、従来のミノルタ式のオートロックアクセサリーシューから、SONY式のマルチインターフェースシューに変更されたのです。 ミノルタ式(左)とSONY式(右)のアクセサリーシュー これに伴ってストロボのロック方式が、普及モデルでは一般的なネジ式に、そして上位モデルではレバー式に変更になりました。 実はネジ式も心配があるのですが、この凝った機構のレバー式においても、何とストロボがカメラから簡単に外れて落下する事があるのです。 HVL-F43Mのロックレバー 実際筆者の場合、2度も落下させた事があります。 また落下には至らなかったものの、カメラとの接続が途切れて、見たらストロボが抜けかかっていた事がしばしばあります。 という訳で、今回はこのレバー式ロック機構における問題点と脱落防止策についてお伝えしたいと思います。 レバー式ロック機構のメカニズムそれでは先ず、SONYのレバー式ロック機構がどうなっているか見ていきたいと思います。 先ほどお伝えした様に、このレバー式はかなり凝った作りになっており、これをロック方向に倒すと、ストロボから圧着板が降りてきて、アクセサリーシューを上から押さえつける構造になっています。 レバーをロック方向に倒すと、圧着板がアクセサリーシューを上から押さえつける 上の写真において、レバーを解除位置からロック位置にスライドすると、圧着板が下がっているのが分かりますでしょうか。 更にこのレバーの先端にはロック解除用のツマミが付いており、このツマミを押さないとレバーを解除方向に動かせない様になっています。 レバー先端のロック解除用ツマミ 以前はこの圧着板だけでストロボを固定しているにかと思っていたのですが、そうではありませんでした。 さらにカメラ側のアクセサリーシューを上から見ると、手前側に二つのエクボがあります。 ロックピン用の嵌合穴(エクボ) またストロボ側のアクセサリーシューへの差し込み部を見ると、二つの突起があり、先ほどのエクボに嵌合する様になっています。 ストロボのレバーと連動して飛び出すロックピン なおこのロックピンは先ほどのレバーと連動していて、ロック位置にすると飛び出す様になっています。 ですので、SONYのレバー式ロック機構においては、ストロボの圧着板でアクセサリーシューを押さえ付けると同時に、2本のロックピンでストロボが抜けない構造になっているのです。 そしてレバー先端のツマミを押さない限り、このレバーは不用意に解除方向にはいかに様になっているのです。 もう完璧ではないですか。 でも、落下するのです。 何故? どんな時に脱落したのかそれではどんな時にストロボが脱落したのか、事例を上げてご紹介したいと思います。 先ず一度目は、カメラにストロボ装着して、その状態で三脚にセットしていた時です。 その際、三脚に付いた砂を払おうと、三脚を持ってタオルで砂をはたいていた所、突然ストロボが脱落しました。 もしかしたらレバーをロック位置にしていなかったのではないかと思い、落下したストロボを見た所、しっかりロック位置にセットされていました。 その際、電源は入ったものの、テストボタンを押しても発光せず、調べたら発光チューブが端子部で折れていました。 2度目は、ストロボ単独を同梱のミニスタンドを介して照明スタンドに固定していたのですが、差し込み方向を下にして持ち上げた途端に、見事に脱落しました。 このときはストロボ正面に小型のディフューザーを付けていたお蔭で、幸い大事には至りませんでした。 ただし内蔵ワイドパネルが壊れてしまいた。 この2件の事例から、以下の2点が言えます。 ①ストロボを付けた状態では、決して振動を与えてはいけない。 ②ストロボが抜ける方向で、カメラやスタンドを持ち上げではいけない。 脱落の原因ストロボのロック機構と、落下した状況が分かった所で、ではその原因を探ってみましょう。 当初は、前述した圧着板の力が弱いのと、同じくロックピンの嵌合が弱いので、振動等で脱落したのだろうと安易に思っていました。 なにしろレバーをロックした状態で、圧着板を持ち上げてやると、簡単に動くほど圧着力は弱いものです。 大きなストロボを付けてカメラを前後に振れば、簡単に浮いてしまうのは間違いないでしょう。 またロックピンも、突出した状態で指で押すと、簡単にへこます事ができます。 ですがこのロックピンを良く見るとテーパーが付いていて、差し込み方向には進むものの、抜け方向にはガッチリ引っ掛かる様になっています。 横から見たテーパーの付いたロックピン ロックピンはプラスチックですが、長さは1mm以上もあり、おまけに2本も付いていますので、これが嵌合穴から簡単に外れるとも思えません。 原因が特定できないため、参考で他社のストロボがどうなっているか調べてみる事にします。
他社のストロボ脱落防止方法先ずキヤノンのストロボですが、SONYと同様にレバーをロック位置に移動すると、ロックピンが飛び出して、アクセサリーシューの穴に嵌合する方式です。 キヤノン430EXⅢ-RTの金属製ロックピン ロックピンは1本ですが、金属製でピンの長さは2mmほどありますので、嵌合すればストロボが抜け落ちる事はないでしょう。 またSONYと同様に、上部からの圧着機構も付いている感じです。 またネットで検索しても、目立って落下の報告はありません。 次にニコンですが、これも背面のレバーでロックピンが上下する機構になっています。 ニコンSB-5000の金属製ロックピン(一番上のピン) キヤノンより短めですが、先端が丸まっているのは評価できます。 ニコンも特に落下したとの報告は見当たりません。 となると思い当たるのは一つです。 写真をご覧の様にキヤノンもニコンも、ストロボの台座部分が金属になっています。 このため、SONYのストロボよりアクセサリーシューに差し込み易いのかもしれません。 真の原因ここまで分かれば、導き出される結論は2つです。 ①ストロボの差し込みが不十分な状態で、レバーをロック位置にしていた。 実際試しにストロボを完全に奥まで差し込む直前で止めても、レバーをロック位置にセットする事が可能でした。 またこの位置でもカメラとストロボは電気的に接触している様で、正常に発光までできてしまいました。 そしてもう一つ考えられるのが、以下のケースです。 ②ストロボの差し込みが十分であっても、ロックピンが嵌合穴に入っていない。 これはかなり確率は低いかもしれませんが、マルチインターフェースシューはストロボの台座先端がコネクターになっていますので、他社のアクセサリーシューほど位置決めの精度を出し難いのかもしれません。 またロックピンがモールドで、尚且つ先端がテーパ形状ですので、ロックピンと嵌合穴が僅かでもずれていると嵌合しない可能性もあります。 対策原因が分かれば対策は簡単です。 1つ目は、とにかくストロボを確実に奥まで差し込んで、レバーをロック位置にセットする事です。 とは言え、そんな事は誰でも知っていながら、落下させているのです。 特に慌ただしい現場では、確実に差し込んだつもりでも、奥まで達していないときがあるのでしょう。 そのためには、レバーをロックしたら、ロックが掛かっているかどうか、ストロボを引き抜き方向にひっぱって確認する事です。 これだけでかなり不完全装着を防げる様に思います。 もし本格的にロック機構に手を入れられるのでしたら、いくつか手はあるのですが、ユーザーの立場ではできる事は限られます。 手っ取り早い手としては、アクセサリーシュー内部にグリスを塗布して、ストロボの挿入を容易にする手もありますが、それでは他の機材にグリスが付いたり、マルチインターフェースの端子を汚してしまう事になります。 と言う訳で、2つ目は(多少気休め的ではありますが)、アクセサリーシューの端部が確実に奥まで差し込まれているかどうか目視で確認できる様に印を付ける事です。 アクセサリーシュー端部とストロボ台座端部に目視用の印を付ける ストロボを使うのは暗い場所が多いため、嵌合部が少しでも目立つ方が奥まで差し込まれているかどうか常時確認し易くなりますし、印が付いていれば撮影中でも多少気にして見る事になります。 そして3つ目の手は、アクセサリーシューの上にビニールテープを貼る事です。 これも気休めと言えない事もないのですが、万一ロックピンがずれていた場合でも、圧着板の力を少しでも強めて、脱落の可能性を少しでも減らそうという魂胆です。 そして4つ目は、とにかくストロボが抜け落ちる方向を下に向けない事です。 少なくともストロボの主面が下を向いている状態であれば、ストロボは決して脱落しないので、ストロボを移動する場合は、正面が下(レンズ面が下)になる様に運ぶ事です。 抜本対策これは余計なお世話かもしれませんが、折角ですので抜本的な対策を書いておきましょう。 先ず真っ先に思い付くのは、ロックピンがカメラ側の穴に入らなければ、レバーをロック位置に移動できない様にする事です。 そうすれば、差し込みが不十分である事を気が付きます。 ですが、この場合嵌合穴の無い他社製のカメラにSONY製ストロボを装着できなくなるので、没です。 恐らく他社製ストロボも、ロックピンが突出した状態でも指で押せばへこむのでしょう。 そしてもう一つの手は、ロックピンの入る穴を、もう一つ後方に追加する事です。 そうすれば、万一ロックピンが正規の穴位置から外れていても、落下する直前で二つ目の穴に嵌合して、脱落を防ぐ事ができます。 とは言え、正規嵌合穴の後ろには殆どスペースが無いので、これも没でした。 簡単にできる抜本対策は無いので、恐らくこのままなのでしょう。 実際本年(2017)4月に発売されたHVL-F45RMも写真で見る限り同じ機構の様です。 HVL-F45RMも同じロック機構の模様 ミノルタのアクセサリーシューでは最後に、ミノルタのオートロックアクセサリーシューがどうだったか見てみましょう。 α-7のオートロックアクセサリーシュー これはストロの台座もアクセサリーシューもプラスチックでありながら、差し込みもスムーズで、尚且つ差し込むだけでロックが自動的に掛かり、その際カチッとロック音までして、外す時にはロック解除ボタンを押すだけと、夢の様なアクセサリーシューだったと言えます。 ミノルタストロボ(3500xi)のロック爪と端子部 マルチインターフェースシューを採用した事で、ビデオ用のマイクやライト、それに電子ビューファインダーを接続できる様になりましたが、今時でしたら端子が4つもあれば高速シリアル通信で、それくらい可能だろうと思ってしまいます。 マルチインターフェースシューにマイク用アダプターを装着 またサードパーティー製のISO規格のアクサリーシュー対応品は、それこそ変換アダプタを介せば良いだけです。 今更ながらですが、せめてフィルムカメラの系譜である一眼レフのα99やα77系はオートロックアクセサリーシューを残してほしかったと言っても、2種類のストロボを用意するのも非現実的です。 まとめ長くなってしまいましたが、まとめです。 1) SONYのレバー式ロック機構は、ロックピンが嵌合穴に収まっている限り、余程のことが無い限りストロボが脱落する事はないと考えられる。 2) ただし完全に奥まで差し込まれない(ロックピンが嵌合穴に入らない)状態でも、レバーをロック位置にセットできるという欠陥を持っている。 3) このため、ストロボの落下を可能な限り防ぐためには、以下の対応を講じる必要がある。 ①ストロボをカメラに装着する場合は、ストロボを確実にアクセサリーシューの奥まで差し込んでからレバーをロック位置にセットし、ロックが掛かっているかどうかストロボをひっぱて確認する。 ②ストロボが完全に奥まで差し込まれている事を確認できる様にするため、アクセサリーシューの端部とストロボの台座端部に目視用の印を付ける。 ③アクセサリーシューの上にビニールテープを貼り、ガタツキを抑える。 ④ストロボの背面(抜け落ちる方向)を下にしない。 本書がお役に立てば幸いです。
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