センサーサイズによって、ボケ量はどの程度違うのか?
各社の85mm F1.2相当レンズを比較する

2016/5: Issue
2016/9: Renewal

目次



1. はじめに


写真の楽しさを知ってくると、次に挑戦したくなるのが背景のボケたポートレートではないでしょうか。


SONY α7S, FE 85mm F1.4 GM, F1.7, 1/2000秒, ISO100

となると明るい望遠系レンズを使えば良いのは分かっていても、撮像素子の大きさはどの程度ボケに影響するのでしょうか?

レンズは後で買い足せるとしても、新たにカメラを購入しようとする方にとっては、少々悩ましい問題です。

例えばフルサイズのカメラとAPS-Cサイズのカメラでしたら、ボケはどの程度違うのでしょうか?

また4/3サイズや1インチサイズのミラーレス機では、ボケないのでしょうか?

ネットで調べても似た様な記事は山ほどあるのですが、実際に同じ条件でボケを比較した写真が見当たりません。

と、そんな事を考えていたら、上手い具合に各撮像素子毎に比較しやすい明るい単焦点レンズ4本が各社から発売されました。

それが以下のフルサイズ換算で85mm F1.2のポートレート用レンズです


Canon

フルサイズ
85mm F1.2
Fuji Film

APS-Cサイズ
56mm F1.2
Fuji Film

APS-Cサイズ
56mm F1.2
Panasonic

4/3サイズ
42.5mm F1.2
Nikon

1インチサイズ
32mm F1.2

これで従来からあったフルサイズ用の85m F1.2共に、APS-Cサイズ用、4/3サイズ用、1インチ(CXサイズ)用の4本が一気に揃いました。

いずれも近年台頭が目覚ましいミラーレス一眼用で、売れ筋のズームレンズ等が一通り揃った所で、一眼レフの牙城を崩すために満を持して各社から発売されたのでしょう。

これら4本のレンズを使って同じ条件でポートレートを撮ったら、背景のボケの程度はどのくらい違うのか比べてみたくなるのは誰でも同じだと思います。

生憎全てのレンズを一式揃えて撮り比べるには弱小サイトとしては不可能なのですが、それよりももっと分かり易い写真とグラフを取り揃えて、皆様の疑問に100%お応えしたいと思います。

これを読んで頂ければ、自分の目的と予算に合ったカメラはどの機種か、撮像素子とボケにはどんな関係があるのか、そして自分のカメラで最大限ボケを表現するにはどうすれば良いか完璧に分かって頂けると思います。

少々長くて途中に難しい数式まで入っていますが、中にはプロと呼ばれている方々も知らない興味深い情報も含んでいますので、是非とも最後までお付き合い頂ければ幸いです。


2. 事前情報


それでは詳細をお伝えする前に、事前情報として定量的にボケを大きくする方法をお伝えしておきたいと思います。

定量的と言うと、少々難しく思われるかもしれませんが、以下の様に非常に簡単です。

背景を定量的にボカす方法
  1. 絞りを1段開けると、ボケは1.4倍になる。
  2. 焦点距離が2倍になると、ボケは2倍になる。
  3. 撮像素子の大きさが2倍になると、ボケは2倍になる。
  4. 被写体までの距離を半分にすると、ボケは2倍になる。
  5. 背景を無限遠にすると、ボケは最大になる。

ではなぜこう言えるかについては、こちらを見て頂くとして、ここではそんなものかと眺めておいて頂ければと思います。


3. 85mm F1.2レンズの紹介


それでは次に、各レンズの特徴を一通り眺めておきたいと思います。

これを見て頂くだけで、このタイプのレンズに対する各社の力の入れ方を分かって頂けると思います。

そんなのは不要なので、早く4本のレンズのボケ量が知りたい方がありましたら、本項を飛ばして次の4. ショルダーアップの場合に進んで頂ければと思います。

1) EF85mm F1.2L II USM

トップバッターは、フルサイズ用レンズの中でもポートレートの代表格と言っても良い、キヤノンのEF85mm F1.2L II USMです。


CANON EF85mm F1.2L II USM (for Full Size)
2006/3 1,025g \235,000

このレンズの歴史は古く、1980年に発売されたNew FD 85mm F1.2Lからの流れを汲んでおり、年配の方でしたら高級レンズ(当時珍しかった非球面ガラス搭載)の証である鏡胴前部の赤いラインとLの文字に憧れた方も多かったのではないでしょうか。


CANON New FD 85mm F1.2L

その後1989年にAFに対応したEF85mm F1.2L USMが発売され、更にデジタルカメラに対応したEF85mm F1.2L II USMが2006年に発売されました。

そのEF85mm F1.2L II USMはそれまでのI型に対して、フィルムより光が反射し易い撮像素子に対応するため、内面反射を大幅に抑えると共に、リングUSM駆動をはじめ、高速CPUの搭載とAFアルゴリズムの最適化により、従来機種と比べて最大約1.8倍というAFスピードの高速化を図っています。

また円形絞りを採用したEMD(電磁駆動絞りユニット)の搭載により背景の美しいボケ味を実現し、環境問題にも配慮し鉛フリーにも対応しています。


MTFを見ると、絞り開放で中心部のコントラスト比70%(10本/mm)は少々物足りない気もしますが、他にライバルもなくF1.2の明るさである事を考えると、むしろ立派と言えるのかもしれません。

とは言え、基本設計が今から1980年と今から37年前となると、さすがに設計の古さは隠せません。

ただしこのレンズだけ、距離と被写界深度の表示があるのは高く評価できます。


EF85mm F1.2L IIの被写界深度目盛は高く評価できる

なお本レンズを使える本体についてはこちらをご覧下さい。


2) FIJINON XF56mmF1.2 R

2番手はフジフィルムのXF56mmF1.2 Rです。

発売は2014/2で、自社のミラーレス一眼であるX-T1(APS-Cサイズ)と同時期に発売されました。


FUJINON XF56mmF1.2 R
2014/2 405g Open price

光学系はもとより、今では見られなくなった絞り環(レンズ名称のRの文字は絞り環を示す)に思わず惹かれてしまいます。

この絞りリングは小径で1/2ステップのクリックが付いていますので、大径で1/3ステップより遥かに使い易くなっています。

これで被写界深度が分かれば言う事はないのですが、できない事ではないのでしょうが、そこまではやっては貰えない様です。

レンズの口径がフルサイズより小さいので、解像度がキヤノンの85mmより優れているのは当然なのですが、MTFを見ると空間周波数(使用解像度チャート)が15本/mmとフルサイズの10本/mmより細かいにも関わらずキヤノンより優れているのは立派です。


FIJINON XF56mmF1.2 RのMTF

なお本レンズを使える本体についてはこちらをご覧下さい。


3) FUJINON XF 56mm F1.2 R APD

ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、フジノンの56mm F1.2にはもう1本あります。

それが下のXF 56mm F1.2 R APDです。


FIJINON XF56mm F1.2 R APD

このレンズの特徴は、レンズ内にAPD(アポダイゼーション)フィルターを搭載しており、それによってボケのエッジを抑えた玉の様に見えるボケを表現してくれる事です


APDフィルター無し         APDフィルター有り

APDフィルターを分かり易く言えば、中心部が明るくて周辺部が徐々に暗くなるフィルターの事です。

ですので、このレンズを覗けば周辺部か暗く見えます。


APDフィルター無し APDフィルター有り

このため、前出の写真の様にボケの外側が徐々に暗くなり、ボケが立体的に見えるという訳です。

ただしこれに伴ってボケも若干小さく見えますので、どちらが良いかについては、好みが分かれるところです。

ちなみにこの様なフィルターをレンズ前面に付けると、画像周辺の光量が低下してしまいます(画像の四隅が暗くなる)ので、どうしてもレンズ内部の絞りに近い位置に付ける必要があります。

ですので、それさえ気にしなければ、周辺部が徐々に暗くなるフィルターがあれば、レンズの前面に付けても同じ効果を出す事は可能です。

またピントの合っている箇所については、下のサンプル写真の様に同じですと言いたい所ですが、そこにも実は違いがあります。


ノーマル                    APD 

それをMTFで比べると一目瞭然です。


APDフィルター有りのMTF


APDフィルター無しのMTF

上のMTFチャートご覧の通り、APDフィルター有り(上段)の方が、APDフィルター無し(下段)より、僅かながらMTF良くなっています。

この理由は、周囲が暗いAPDフィルターによって、絞りを絞ったのと同じ効果が出たと思えば分かりますいと思います。

このため仕様書上はF1.2ですが、下の写真にあります様に実質F1.7のMTFとボケだと思えばもっと分かり易いかもしれません。


FIJINON XF56mm F1.2 R APDの絞り環(オレンジが実効F値を示す)

なお本レンズを使える本体についてはこちらをご覧下さい。

また余談ですが、このAPDフィルターを搭載したレンズでは、MF(マニュアルフォーカス)になりますが、ソニーから135mm F2.8 [T4.5] が発売されています。

  
SONY 135mm F2.8 [T4.5]

本レンズを使える本体はSONYのAマウントカメラだけになるのですが、これについてはこちらをご覧下さい。

また最近(2017/4)、SONYのEマウントでもAPDフィルターを搭載したレンズも発売されました。

 
FE 100mm F2.8 STF GM OSS(SEL100F28GM)

はたしてそれほどの需要があるかどうか、興味のあるところです。


3) NOCTICRON 42.5mm / F1.2

次は4/3サイズ用のNOCTICRON 42.5mm / F1.2です。

一応ブランド名はライカになっていますが、設計/製造はパナソニックで、ライカが設計/製造の承認を行っているそうです。


LEICA DG NOCTICRON 42.5mm / F1.2 ASPH. / POWER O.I.S.
2014/2発売 425g \200,000

4/3サイズの撮像素子はフルサイズの1/4程度しかないのですが、手ブレ補正機構内蔵とは言え価格はフルサイズに近い20万円もします。


これも口径がAPS-Cサイズより一回り小さいのでMTFでは有利なのですが、フジノンより細かい20本/mmの解像度チャートを使っていながらフジノンと同じ程度のMTF(90%前後)かそれ以上の値を出しているのは立派です。

なお本レンズを使える本体は、マイクロ4/3マウントを共通にしているパナソニックとオリンパスのミラーレス機になります。

詳細についてはこちらをご覧下さい。


4) 1 NIKKOR 32mm f/1.2

そして最後は1インチサイズ用の1 NIKKOR 32mm f/1.2です。


1 NIKKOR 32mm f/1.2
2013/6 235g \105,000

このレンズも小型の分だけ4/3サイズよりも当然良い筈なのですが、同じ空間周波数でライカより劣っているのは残念です。


なお本レンズを使える本体については、ニコンでCXフォーマットと呼んでいるミラーレス機です。

詳細は、こちらをご覧下さい。

それではいよいよ各レンズとボケの関係を見てみましょう。

どんな結果になるか非常に楽しみです。


4. ショルダーアップの場合


では百聞は一見にしかずです。

早速4本のレンズでモデルの肩から上を撮ったとしたら背景のボケがどうなるか、その写真を見比べてみましょう。


いかがでしょうか?

これをご覧頂きます様に、フルサイズが最もボケが大きく、①~④の順番で徐々にボケが小さくなるのが分かって頂けると思います。

このボケの大きさをグラフで表すと以下の様になります。


チャート1(被写体まで2m、被写体から背景まで4m)

このグラフを見て、おっと思われたかたはいらっしゃいませんでしょうか?

もし気が付かれた方は、かなりカメラに詳しいか、本書をしっかりお読み頂いた方です。

棒グラフの横にフルサイズを基準にしたパーセントが書かれていますが、この値は撮像素子のサイズ比率(正確には対角線比)に極めて近似しているのです。

種類
(mm)

(mm)
面積
(mm^2)
面積比 対角線
(mm)
対角線比
フルサイズ 36 24 864 100% 43.3 100%
APS-Cサイズ 23.6 15.6 368.16 43% 28.3 65%
APS-Cサイズ(Canon) 22.2 14.8 328.56 38% 26.7 62%
4/3サイズ 17.3 13 224.9 26% 21.6 50%
1インチサイズ 13.2 8.8 116.16 13% 15.9 37%

近似していると書きましたが、数値が多少ずれているのは、撮像素子のサイズがフルサイズの様にピッタリ3:2ではないせいですので、理論的にはボケ量は撮像素子のサイズに比例すると思って頂いて構いません。

誤解している方が多いので何度も書きますが、ボケの大きさは撮像素子の大きさに比例するのです。

それでは次に、①のフルサイズと②のAPS-Cサイズの写真をもう一度じっくり見比べてみて下さい。


点光源のボケを見比べると違いが分かりますが、それさえ無ければ背景のボケにそれほど大きな差は無いとも言えます。

続いて③、④の写真を見てみましょう。

上段と比べるとかなりボケが小さくなってきていますが、それでも背景はボケているのが確認できます。

最後に4枚を見渡して頂いていかがでしょうか?

好みの問題もあるでしょうが、一概に一番背景がボケている写真が一番良いという訳ではなく、それぞれに味がある事も分かって頂けると思います。

ここまでをまとめてみると以下の様になります。

①撮影条件が同じであれば、撮像素子が大きいレンズほどボケは大きくなり、その大きさは撮像素子の大きさに比例する。

②撮像素子の大きさが多少違う程度であれば、(点光源が無ければ)さほど大きなボケの差はない。

③ボケが大きいほど一概に良い写真とは言えない。

④1インチサイズ用のレンズであっても、工夫すればボケを表現する事はできる。





5. ボケの大きさの計算方法


さて先ほどグラフで表したボケの大きさですが、単に撮像素子の大きさから比例で求めたのでない事をお伝えしておきましょう。

なおここでは難しい計算が出てきますので、興味が無ければ後半の7. バストアップの場合まで一気に飛ばして頂いて結構です。

ボケの大きさは、以下の式で求める事ができるのです。

ボケの大きさ(直径)=有効口径×焦点距離× |1/被写体までの距離-1/背景までの距離|

なお上の式の有効口径は焦点距離を絞り値で割れば出ますし、2本の縦線(| |)は絶対値(マイナス記号を取った数値)を表しています。

またボケの大きさとは、ピント面すなわち撮像素子上でのボケの直径になります。

フルサイズのボケの大きさ


それではこの式を使って、フルサイズの85mm F1.2のボケの大きさを求めてみましょう。

前の写真の場合、各値は以下の様になります。

有効口径 焦点距離/F値=85mm/1.2=71mm
焦点距離 85mm
被写体までの距離 2m (2,000mm)
背景までの距離 6m (6,000mm)

これを先程の式に入れると以下の様になります。


以上より、フルサイズにおける撮像素子面でのボケの大きさは2.01mmになります。


APS-Cサイズのボケの大きさ


次にAPS-Cサイズにおけるボケの大きさを求めてみます。

この場合の各値は、以下の様になります。

有効口径 : 焦点距離/F値=56mm/1.2=47mm
焦点距離 : 56mm
被写体までの距離 : 2m (2,000mm)
背景までの距離 : 6m (6,000mm)

これをまた先程の式に入れます。


するとAPS-Cサイズにおけるボケの大きさは、0.87mmになります。

ボケの大きさの比較方法


2.01mmと0.87mmと聞いてもピンとこないと思いますので、それでは両方の大きさを率にして比較してみましょう。

フルサイズのボケの大きさを100%とすると、APS-Cサイズのボケの大きさは以下の様になります。

0.87/2.01×100%=43%

おや、先程グラフ1にあった66%と異なる値になってしまいました。

この理由は、撮像素子面でのボケの大きさをそのまま比較したからです。

写真で比較する場合、同じ大きさに引き伸ばして比較する必要があります。

APS-Cサイズをフルサイズの当倍まで引き伸ばすとしますと、対角線の長さをを基準にすると1.53倍(43.3mm/28.3mm)しなければなりません。

これで再度計算し直すと、以下の様になります。

0.87×1.53/2.01×100=66%

前述のチャート1でAPS-Cサイズのボケ量を66%としたのは、こうやって求めていたのです。

これでボケの大きさの算出方法とその比較方法をご理解頂けましたでしょうか。

ボケと焦点距離と絞りの関係


ついでにこの話もしておきましょう。

先程お伝えした様に有効口径は焦点距離を絞り値で割れば出ますので、ボケの大きさの式は以下の様に書き直せます。


これが何を表すかと言えば、要点の所でお話した様に、被写体と背景までの距離が同じであれば、ボケの大きさは焦点距離の2乗に比例して、且つ絞り値に反比例するという事です。

これで貴方は、1枚も写真を撮る事なく、ボケの大きさを計算できる様になったという訳です。


6. 種明かし


ここまで飛ばさずに読んで頂いた方は、前述の4本のレンズを使った近接ポートレートの写真はどうやって撮影したか薄々気が付かれたのではないでしょうか。

そうなのです。

下にあります様に、実は全てフルサイズの85mm F1.2のレンズを使用して、同じ場所から絞りを変えて撮影しているだけなのです。


先程絞りが2倍になるとボケが半分になるとお伝えしましたが、上の写真の様に85mm F2.4のボケはF1.2のボケのちょうど半分の大きさになっているのが分かって頂けると思います。

これを応用して、フルサイズのレンズをどのくらい絞れば、APS-Cサイズの F1.2レンズと同じボケになるかも簡単に求める事ができるのです。

それをまとめたのが、以下の表になります。

AV値 絞り値
FULL APS-C APS-C
(Canon)
4/3 CX 1/2.3型 1/1.7型
0.5 1.2 0.78 0.73 0.59 0.44 0.26 0.22
0.6 1.2 0.80 0.76 0.62 0.45 0.27 0.22
0.7 1.3 0.83 0.79 0.64 0.47 0.28 0.23
0.8 1.3 0.86 0.81 0.66 0.48 0.29 0.24
0.9 1.4 0.89 0.84 0.68 0.50 0.30 0.25
1 1.4 0.92 0.87 0.71 0.52 0.31 0.26
1.1 1.5 0.96 0.90 0.73 0.54 0.32 0.27
1.2 1.5 0.99 0.93 0.76 0.56 0.33 0.28
1.3 1.6 1.03 0.97 0.78 0.58 0.34 0.29
1.4 1.6 1.06 1.00 0.81 0.60 0.36 0.30
1.5 1.7 1.10 1.04 0.84 0.62 0.37 0.31
1.6 1.7 1.14 1.07 0.87 0.64 0.38 0.32
1.7 1.8 1.18 1.11 0.90 0.66 0.40 0.33
1.8 1.9 1.22 1.15 0.93 0.68 0.41 0.34
1.9 1.9 1.26 1.19 0.97 0.71 0.42 0.35
2 2.0 1.31 1.23 1.00 0.73 0.44 0.36
2.1 2.1 1.35 1.28 1.04 0.76 0.45 0.38
2.2 2.1 1.40 1.32 1.07 0.79 0.47 0.39
2.3 2.2 1.45 1.37 1.11 0.81 0.49 0.40
2.4 2.3 1.50 1.42 1.15 0.84 0.50 0.42
2.5 2.4 1.56 1.47 1.19 0.87 0.52 0.43
2.6 2.5 1.61 1.52 1.23 0.90 0.54 0.45
2.7 2.5 1.67 1.57 1.27 0.93 0.56 0.46
2.8 2.6 1.73 1.63 1.32 0.97 0.58 0.48
2.9 2.7 1.79 1.68 1.37 1.00 0.60 0.50
3 2.8 1.85 1.74 1.41 1.04 0.62 0.51
3.1 2.9 1.91 1.81 1.46 1.07 0.64 0.53
3.2 3.0 1.98 1.87 1.52 1.11 0.67 0.55
3.3 3.1 2.05 1.94 1.57 1.15 0.69 0.57
3.4 3.2 2.12 2.00 1.63 1.19 0.71 0.59
3.5 3.4 2.20 2.07 1.68 1.23 0.74 0.61
3.6 3.5 2.28 2.15 1.74 1.28 0.76 0.63
3.7 3.6 2.36 2.22 1.80 1.32 0.79 0.65
3.8 3.7 2.44 2.30 1.87 1.37 0.82 0.68
3.9 3.9 2.53 2.38 1.93 1.42 0.85 0.70
4 4.0 2.62 2.47 2.00 1.47 0.88 0.73
ボケ量が同じになる撮像素子と絞りの関係

上の表の見かたですが、APS-CサイズのF1.2のレンズでしたら、APS-CのF1.2(F1.18)を左に辿(たど)って、F1.8がフルサイズ用レンズでボケが同じになる絞値を表しています。

同様に4/3サイズのF1.2レンズでしたら、F1.2(F1.19)を左に辿ってF2.4がフルサイズ用レンズでボケが同じになる絞値になります。

またついでに、上の表の作成方法も以下に示しておきます。

A B C D E F G H
1 AV値 FULL APS-C APS-C (Canon) 4/3 CX 1/1.7型 1/2.3型
2 0 =2^(A2/2) =B2*0.654 =B2*0.617 =B2*0.5 =B2*0.367 =B2*0.211 =B2*0.179
3 0.1 =2^(A3/2) =B3*0.654 =B3*0.617 =B3*0.5 =B3*0.367 =B3*0.211 =B3*0.179

この表をエクセルに貼り付ければ、同じ表が作成できます。

この式の0.654とか0.617というのが、フルサイズを基準とした各撮像素子の対角線比になります。

なおこの表には載せてはいませんが、iPhone6のカメラ(撮像素子: 1/2.3インチ、レンズ: 5.3mm F2.2)をフルサイズに換算すると広角29mmのF19になりますので、さすがにこれでボケを表現するのはほとんど不可能と言わざるを得ません。

ちなみに、主要なレンズのボケ量をグラフ化してみると、以下の様になります。


上のチャートの上段はフルサイズ用のレンズで、下段がそれより小さなサイズ用のレンズになります。

詳細はこちら(お勧めポートレート用レンズ)をご覧下さい。


7. バストアップの場合


先ほどは顔をメインにしたショルダーあっぷのポートレートでしたが、次にバストアップのポートレートはどうなるか見てみましょう。

ちょっとびっくりではないでしょうか。


勿論背景と被写体までの距離は同じなのですが、先ほどの写真と見比べると違いは一目瞭然で、被写体も小さくなると共に、背景のボケも一気に小さくなりました。


最初の写真に対して、ほんの数m後ろに下がっただけで、これだけボケの効果が失われてしまうのです。

特に⑦⑧においては、ほとんどボケと呼べないくらいになっています。

このボケの大きさをグラフで表すと以下の様になります。


チャート2(被写体まで3.4m、被写体から背景まで4m)

先程のグラフと比べると、ほぼ半分の大きさになったのが分かります。

さらに被写体までの距離とボケの大きさの関係をグラフで表すと以下の様になります。


チャート3

この場合、被写体までの距離を2m以内にすると、急激にボケが大きくなる事を分かって頂けると思います。

一方、被写体から5m以上離れると、急激にボケの効果が無くなっていきます。

特に小サイズ撮像素子の場合、その傾向が顕著です。

これから言える事は、以下の通りです。

小サイズの撮像素子用レンズの場合、バストアップ以上のポートレートを撮ると、ボケの効果が極端に薄れてしまう。

逆に言えば、小サイズの撮像素子用レンズを使ってボケ効果を出したいのならば、極力被写体に近づかなければならないという訳です。

ですので、上半身以上のポートレートを撮る場合、どうしても大きな撮像素子のカメラとレンズを使う必要があります。

さらにもし全身のポートレートを撮るために5m以上離れると、フルサイズの85mm F1.2レンズでもボケの効果がほとんど無くなってしまいます。

ですが、諦めるのはまだ早過ぎます。

この様な状況でも、背景を更にぼかすことは可能なのです。

その方法を次の項でお伝えしたいと思います。

と、その前に小サイズ撮像素子でボケを表現する丸秘テクニックをお教えしましょう。

それは縦方向で撮影するのです。


縦方向で撮影すると被写体に寄れる分背景のボケを大きくできる

そうするとどう良い事があるかと言いますと、横方向の写真であれば、顔写真になるほど近づいていながら、縦方向で撮ればバストアップの写真になるのです。

すなわち近接ポートレートの背景ボケが、バストアップでも獲得できるのです。

ですので4/3サイズとか1インチサイズの撮像素子を搭載したカメラでポートレートを撮るのでしたら、極力縦方向で撮影すべきです。

少し耳寄りの話ではないでしょうか?


8. 背景を遠ざける


それでは背景をボカスもう一つ手をご紹介しましょう。

それは背景を遠ざける事です。

今回は先にチャートを見てみる事にしましょう。


チャート4( 被写体まで3.4m、被写体から背景まで無限遠)

上のチャートはチャート2と同じ様に被写体までの距離は3.4m(バストアップ狙い)なのですが、ボケ量がかなり回復しています。

前のグラフとどこが違うかと言うと、背景が無限遠にまで遠くなっているのがミソです。

これをまた、被写体までの距離とボケの大きさの関係で表すと以下の様になります。


チャート5

これをチャート3(被写体と背景までの距離が4m)と比べると、ボケ量が2倍近く大きくなっていると共に、カーブがなだらかになっている事が分かります。

という事は、被写体の全体を写すために多少後ろに下がっても、ボケ効果を出す事ができるという訳です。

さて、背景が被写体から離れているほどボケが大きくなると分かった所で、もう一つ面白い事をお教えしましょう。

通常の写真でしたら、奥にある物が小さく写り、手前にある物が大きく写ります。

至極当然の事です。

ところがボケの場合、奥にある点光源ほどボケて大きく写るのです。

ものは試しで、実際にどうなるか写真で見てみましょう。


カメラに近い点光源(赤)より遠い点光源(白)の方がボケは大きくなる。

上の写真は手前が赤い光源、奥が白い光源なので、ピントが合っていれば赤の明かりが大きく見えますが、ボケになると大きさが逆転して奥の白の光が大きくなっているのが分かります。

この場合、赤の光源はカメラから2m、白い光源はカメラから6mほど離れた所にあります。

これから更に白い光源だけ後に下げると、白のボケはもっと大きくなり、計算上では赤いボケの2倍まで大きくなります。

ちなみに以下の写真は、どの点光源も同じ大きさのボケになっています。


点光源が無限遠に近くなるとボケの大きさは変わらない

この理由は、どれもかなり遠方にある光源ですので、ボケの大きさに差がないという訳です。

プロの写真家でしたら、被写体から離れるほど画像はボケるという認識は当然あるでしょうが、遠い点光源ほどボケが大きくなるという認識を持っている方はかなり少ないと思います。

まとめとしましては、背景をぼかすには、被写体に寄ると共に、背景を遠ざける事も非常に重要だと分かって頂けましたでしょうか。

ついでに背景までの距離とボケの大きさの関係をグラフで表すと以下の様になります。


チャート6

これをご覧頂きます様に、背景を大きくぼかすためには背景までの距離を10m以上確保するのが望ましいと言えます。

なお2mより前のラインは、前ボケの大きさを表しています。


9. 背景は明るく


最後にボケに関してもう一つ重要な事をお伝えしなければなりません。

それはぼかす背景は、なるべく明るいものでなければいけないという事です。

例えば下の写真の場合、多少明るい部分があるのでボケてもまだ許せるのですが、これが曇り空で暗めの背景になると途端に見苦しいボケになってしまいます。


暗い背景がボケると見苦しい

ですのでもし背景をぼかしたいのでしたら、下の写真の様になりべく明るい背景を選ぶ事をお薦め致します。


明るい背景がボケると美しい

特にボケが大きいと、何気ない風景でも意外にお洒落な背景になったりします。


10. まとめ


いかがでしたでしょうか。

以下にいくつかの観点に分けてまとめをお伝えしたいと思います。

1) ボケの特性

ボケの特性についてまとめると、以下の様になります。

①条件が同じであれば、ボケの大きさは撮像素子の大きさに比例し、レンズの焦点距離の2乗に比例して、絞りに反比例する。

②ボケを大きくしたいのならば、被写体に近づき、背景を遠ざけることが必要である。


2) 撮像素子

次に撮像素子の大きさとボケの観点でまとめると以下の様になります。

①APS-Cサイズはフルサイズに対してボケの大きさが66%に低下するが、点光源でなければ差ほど違いは感じられない。

②4/3サイズと1インチサイズについてはフルサイズに対して52%と37%であるが、被写体に近づいて開放で使うえば、何とかボケを表現する事は可能である。


3) 使い方

ボケを駆使する方法は以下の通りです。

①被写体には可能な限り近付き、背景は可能な限り遠ざける。

このため、ポートレートの場合縦方向で撮影するとより被写体に近づける。

また、被写体までの距離を変えて撮影しておくのも有効である。

②ボケが綺麗に見える様に、背景は明るい場所を選ぶ。



11. お薦めレンズ


それでは最後に本サイトお薦めのレンズと本体を順にお伝えしたいと思います。

No. 1: FUJINON XF56mm F1.2 R

一番はフジノンと言って、どなたも異論は無いでしょう。

これはボケも十分表現できますし、MTFも優れ、重さはEFレンズの半分以下の400gほどで、価格はその1/3の8万円と4拍子揃っています。

カメラ自体も500g以下なので、常時このレンズを装着して、サブカメラとして使うのも十分有りではないでしょうか。


X-T1 + XF56mm F1.2 R =845g

         

なおAPDレンズについては、価格は4万円以上も高く、ボケも小さくなりますので、このボケの形状によほどの魅力を感じない限り、お勧めではありません。

No. 2: CANON EF 85mm F1.2L II USM

第2位はキヤノンのEFレンズです。


EOS 5D III + EF 85mm F1.2L = 1,975g

         

値段は20万円近くもし、重さもレンズだけで1kgもあり、MTFについても今一つではありますが、その大きなボケは魅力です。

No. 3: OCTICRON 42.5mm / F1.2

第3位はパナソニックのOCTICRONです。

本レンズはMTFも優れ、手ブレ補正も組み込まれているとは言え、フジノンよりも重くて高いのは頂けません。


OLYMPUS OM-D E-M1 + OCTICRON 42.5mm / F1.2 =922g

         

なお上の写真は当該レンズをオリンパスのミラーレス一眼に装着していますが、相性から言えばLUMIXに装着した方が、AF性能/手ブレ補正ともベストの性能が引き出せます。

No. 4: 1 NIKKOR 32mm f/1.2

第4位はニコンの1 NIKKORです。


NIKON 1 V3 + 1 NIKKOR 32mm f/1.2 + 電子ファインダー =585g

         

一番の小サイズでありながら値段は10万円以上で、MTFもフジノンより劣るとなると、残念ながら積極的にお勧めする理由はありません。

ただし1インチの撮像素子用にこの様な明るいレンズを開発した事には、敬意を表したいと思います。

本書がお役に立てば幸いです。



各社の85mm F1.2相当レンズを比較する





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