逆光も怖くない
ニコンの純正フィルターARCREST
2020/02/14:発行
目次
- はじめに
- 反射率0.1%以下
- 波長の違いによる透過率のバラつき低減
- 干渉縞1本以下
- 自社レンズと同じ品質の光学ガラス
- フィルターの2枚付け対応
- まとめ
1. はじめに
本サイトでは、フレアーやゴーストの原因はフードだけではなく、フィルターも大きく影響しているとお伝えしております。
さらにこれを防止するためには、レンズメーカーからも自社のレンズ性能を落とさないフィルターを供給するべきではないかと、偉そうに主張しておりました
ところが、ニコンからまさにフレア対策を強く意識した純正フィルターが既に発売されていたのです。
それが下にありますARCRESTです。
従来のNikonフィルターではなく、ARCRESTという専用ブランドまで立ち上げているのですから、その性能には期待が持てます。
フィルムカメラ時代のNikonブランドのフィルター
特徴は以下の通りですが、調べてみると明らかに性能が群を抜いている事と、その性能をしっかりデータで示している所に好感が持てます。
ARCRESTの6大特徴
では、一体どこがどう群を抜いて優れているのかを、これからじっくりご説明したいと思います。
2. 反射率0.1%以下
アクレストの存在を知って、最も驚いたのはその反射率です。
アクレストの宣伝文句にもなっているゼロワンARコートによる0.1%以下というのは、かなり凄い数値で、これならフィルター無しに近いフレアー防止効果があるのではないでしょうか。
何故そう言えるのか、これからご説明したいと思います。
逆光時の目立つフレアはフィルターによって発生する
既にこちら(フレアやゴーストの発生し易い条件とは)でご説明しております様に、逆光時の目立つフレアは、フィルターの裏面にレンズ前面が映る事によって発生します。
安いフィルターを使うと画像にレンズ正面の姿が写る
これを下の図を使って説明すると、①レンズ正面に直射日光が当たる、②その光がフィルターの裏面に当たる、③その光が反射して撮像素子に届くという訳です。
直射日光がレンズ正面に当たるとその光がフィルター内側に反射して目立つフレアになる
ですのでフィルターの反射率が低ければ低い程、フィルターの影響によるフレアは少なくなります。
反射を抑える方法
ではフィルターからの反射を、どうやれば抑える事ができるのでしょう。
普通に思い付くのは、ガラス表面を綺麗に拭く事くらいでしょうか。
ですが、すんなり信じられないかもしれませんが、ガラス表面に極めて薄い(0.0001mm程度)膜を付ける(蒸着する)と、アラ不思議、何とガラスの反射を抑える事ができるのです。
ガラス表面に極めて薄い膜を付けると反射を抑えられる
とは言っても、それでガラスの反射が大幅に抑えられるとは思われないでしょう。
確かに1層くらいでは大した効果はないのですが、この膜を何層も行う(マルチコーディング)事によって、一般的な光学ガラスの反射率が4%程度だとすると、0.5%以下にまで落とす事ができるのです。
4%から0.5%ですので、率にすると何と1/8(87%減)にまで落とす事ができるのです。
こう言ってもなかなかピントこないと思いますので、実際に中国製フィルター(恐らく反射率4%)と反射率0.5%のフィルターの反射がどれくらい違うか見比べてみましょう。
下は以前フレアーの試験で使った3枚のフィルターです。
左の2枚が中国製フィルター、右が日本製フィルター
これを黒いシートに乗せて、さらに屋外の曇り空を反射させて撮ったのがこの画像です。
これをご覧頂きます様に、左2枚の中国製はしっかり曇空が映って白くなっているのに対して、一番右側の日本製フィルターは反射が少なく下の黒いシートが確認できる程です。
これだけコーティングの効果は大きいのです。
ショーウィンドウのガラスには自分の姿が映る
ですので、うっかり街角のショーウィンドウに反射防止のコーティングをしたら、自分の姿が映り難くなるだけでなく、ガラスがある事に気づかず飛び込んでしまうかもしれません。
反射率0.1%以下とは
先ほどお伝えしました様に、一般的なマルチコーティングの反射率は0.5%です。
この反射率のフィルターと、フィルター無しで撮った写真を比べると以下の様になります。
反射率0.5%のフィルター(KenkoのPRO1D)を装着した逆光撮影
フィルター無しの逆光撮影
これをご覧いただきます様に、太陽が直接画像に入らないかぎり、殆ど差は分からないのではないでしょうか。
また他社製の高級フィルターの場合、反射率は0.3~0.2%以下ですが、アクレストは0.1%以下と更に優秀なのです。
0.3%以下 |
0.3%以下 |
0.2%以下 |
0.1%以下 |
ですので、反射率0.1%のフィルターならば、常時装着して問題ないと断言して良いでしょう。
3. 波長の違いによる透過率のバラつき低減
続いては、波長の違いによる透過率のバラつき低減です。
これは、画像の色見に関わってくるのですが、本書が評価したいのは、下のチャートです。
左がARCREST、右が他社フィルターの透過率
一般的なフィルターの宣伝広告でしたら、単に”色の違いによる透過率のバラつきを抑えました”、と言うだけで終わるでしょう。
所が、ARCRESTの場合、きちんと測定結果を出している所が画期的です。
この単に言葉だけの宣伝文句と、データを開示した宣伝文句では、天と地ほどの差があるのです。
何故ならば、万一市場で問題が発生した場合、白黒を数値で判断できるからです。
ニコンも当然ながら出荷時において全波長の透過率チェックは行なってはいないでしょうが、何点かの波長で全数チェックが行なわれているのは間違いないでしょう
ここまでやってくれるのでしたら、高いのも納得できます。
4. 干渉縞1本以下
これも凄い事です。
ARCRESTの平面度は、干渉縞1本以下を保証しているのです。
フィルターの干渉縞(平面性)データ
干渉縞とは、単色光を当てる事によって、密着した二つのガラスの距離に応じて見える模様だと思って頂ければよいと思います。(アクリル2枚を重ねると、虹色に見えるのと同じ原理です)
そして干渉縞1本以下という事は、理論的に測定しうる最高の方法で、真っ平という事です。
それほど厳密な測定方法で平面度を測って、干渉縞1本以下に抑えるのは、並大抵の事ではないでしょう。
特に直径82mmとか95mmなると、殆ど神業の様な気がします。
67mm |
72mm |
77mm |
82mm |
95mm |
どんな加工機を使って、平面度を出しているのでしょうか。
もしかしたら定盤の研磨の様に、3枚のガラスを交互に擦り合わせているのかもしれない、と思ったりします。
5. ニコンレンズと同じ品質の光学ガラス
生憎これについてはデータが添付されていないのですが、自社のレンズと同じ透明性・均質性を持つ光学ガラスを採用しているとの事です。
となれば、検査担当者は百戦錬磨のツワモノですので、ちょっとした脈理くらい簡単に見つけるのでしょう。
やはり光学メーカーがフィルターを作るとなると、専業メーカーより品質は高くなると言えるのではないでしょうか。
6. フィルターの2枚付け対応
これも泣かせるではありませんか。
本書としては快挙と言いたいくらいです。
恐らくどの光学メーカーでも、レンズにストレスが掛かるとか、画像が劣化するからとの理由で、フィルターの2枚付けはご遠慮下さいという立場でしょう。
ですがニコンは、”フィルターの2枚付けを考慮してフレームの厚さを3.4mmにした”と言っているのです。
フィルターフレーム厚さ3.4mmを実現
ここまでフィルターを肯定してくれた光学メーカーは、過去無かったのではないでしょうか。
さらに厚さを3.4mmに抑えながら、強度も保ち、さらにガラスのマウント方法もガラス自体にストレスが掛からない様にとエラストマーで保持する様にしたとの事です。
エラストマーとは、ゴムとプラスチックの中間の様な素材で、弾性もあり剛性もあるので、ガラスの保持材としては最高ではないでしょうか。
先ほどお伝えした様に、折角ガラスの平面度を高めても、フレームに入れて強い圧力を加えれば、その平面度が台無しになってしまいます。
このフィルター、買うしかありません。
7. まとめ
いつもの通り最後にまとめなのですが、細かい事は以下の図で代用させて頂きます。
ARCRESTの6大特徴
その上で、本フィルターは少々お高いのですが、レンズをしっかり守れて、尚且つフレアをほぼ完璧に防げ、フィルターの2枚付けか可能なのですから、常時装着用として断然お勧めです。
高いレンズを購入したら、フィルターはケチらない。
鉄則です。