ネットでは語られないEOS Rの実力

2018/9/16:発行
2019/10/21:更新

目次


  1. はじめに
  2. ボディー内手ブレ補正が搭載されていない
  3. 連写速度が遅い
  4. 瞳AFがシングルAFしか使用できない
  5. 高解像度モデルがない
  6. ローパスフィルター搭載
  7. まとめ


1. はじめに


2018/9/9、長い間噂になっていたキヤノンフのルサイズ対応ミラーレス一眼、EOS Rが発表されました。


EOS RとRF50mm F1.2 L USM

期待が大きかったせいもあるのでしょうが、以下の様にいくつかガッカリしたとの指摘もあります。

ボディー内手ブレ補正が搭載されていない。

連写速度が遅い。

瞳AFがシングルAFしか使用できない。

高解像度モデルがない。

依然ローパスフィルターが搭載されている。

ですが、本当にそうなのでしょうか。

もっと正確に言うと、本当にそれが正しい評価なのでしょうか?

本書はキヤノンとは一切何の関係もありませんが、これらの指摘がはたして正当な評価なのかどうか、じっくり検証してみたいと思います。


2. ボディー内手ブレ補正が搭載されていない


今どきのミラーレス機でしたら、殆どの機種に5軸のボディー内手ブレ補正が搭載されています。



ですので、EOS Rにボディー内手ブレ補正が搭載されていない事から、ガッカリされる方が多いのは無理かなる事だと思います。

ですが、ミラーレス一眼にとって、ボディー内手ブレ補正は本当に必須条件なのでしょうか?

という訳で、先ずは5軸と呼ばれる手ブレ補正が、どんな場合に有効かについてお伝えしたいと思います。

静止画に5軸手ブレ補正は必要か?

詳細はこちらをご覧頂くとして、結論を述べますと以下の様になります。

①一般的な風景や人物の撮影においては、実の所角度振れのYawとPitchの2軸しか役に立っていない。

②だったら残りの3軸は何をしているかと言えば、シフト振れ(XとY)の2軸は0.1倍以上の接写のときしか役に立たないし、回転振れ(Roll)の1軸は手持ちで夜景撮影(長時間露光)を行う場合しか効果は無い。

③さらに一般撮影に有効な角度補正においては、ボディー内手ブレ補正より、補正角を大きく取れるレンズ内手ブレ補正の方が断然有利である。



レンズ内手ブレ補正の場合、光軸を大きくずらせる

実際フルサイズミラーレス機の先駆モデルとなったα7シリーズのファインダーの覗いてみると、最大5段分(CIPA準拠)の手ブレ補正効果と謳いながら、よほど注意してファインダーを覗かないと、手ブレ補正が働いているかどうか分からない程の効果しかありません。

それはあくまでもチャンピオンデータであって、全てのレンズで5段分の効果がある訳ではないからです。


キヤノンの合理性

それをしっかり認識しているのがキヤノンです。

何故ならば、通常の撮影で殆ど効果の無いシフト振れ補正と回転振れ補正ができ、尚且つ補正幅が狭い角度手ブレ補正のできるボディー内5軸手ブレ補正より、角度手ブレ補正しかできないものの補正幅の広いレンズ内手ブレ補正の方が、断然ユーザーへの貢献度が高いと認識しているからです。

このため、EOS Rにおいて、レンズ内手ブレ補正があれば殆ど意味の無いボディー内手ブレ補正を搭載しなかったのは、極めて理に叶った対応と言えます。

実際、今までに0.1倍以上のマクロ撮影(単焦点レンズでの最短撮影距離以下なのでマクロレンズが無ければ撮影できず)を何度したか、或いは三脚を使わずに何度夜景撮影をしたかを思い出して頂ければ、その妥当性をご納得頂けると思います。

なおこう言うと、だったら単焦点レンズの標準や中望遠レンズにもレンズ内手ブレ補正を搭載するべきだと思われるかもしれません。

ですが、これらのレンズはどれも口径が大きく明るいのです。

もしこれらのレンズを使って晴れた日中に写真を撮ると、ISO100でF1.4の場合、シャッタースピードは1/8000秒になってしまうのです。

よしんばF5.6に絞ったとしても、シャッタースピードは1/500秒ですし、多少暗ければISO感度を上げればいくらでもシャッタースピードを上げられます。

にも関わらず、どうしても手ブレ補正が必要なのでしょうか?


動画に5軸手ブレ補正は必要だ!

さんざん不要だと言った5軸手ブレ補正ですが、実はとてもつもなく効果を発揮するときがあります。

それが動画撮影なのです。

ファインダーを覗かず背面モニターを使って動画撮影をすると、あらゆる方向にカメラが揺れますので、この5軸手ブレ補正があればスタビライザーを使って撮ったほどとは言わないものの、かなり安定した撮影が行えます。

だったらEOS Rは他社機に比べて動画性能が著しく劣るのかと言われれば、そんな事はありません。

何故ならば、EOS Rは以下の様にレンズ内手ブレ補正と電子式の手ブレ補正を協調させて動画の手ブレを抑えているからです。


EOS Rの動画用手ブレ補正解説図(本体側は電子式の手ブレ補正)

この電子式手ブレ補正は、当然ながら動画のときしか働きませんが、ハードの追加が一切必要ないので、この方がよっぽど合理的な方式ではないでしょうか?

特にEOS Rは3千万画素と他社の標準機より高画素ですので、電子式の手ブレ補正で外側の画素を使っても十分余裕があります。

ただし恐らく営業上の理由で、いつかボディー内手ブレ補正を搭載する事になるのでしょうが、本サイトとしては(レンズ内手ブレ補正があれば)無用の長物と言いたい所です。


被写体振れは絶対に防げない
2018/12/22:追記

最後に余計なお世話だと言われるかもしれませんが、もう一言だけ付け加えさせて下さい。

よくカメラの新製品レビューで、手ブレ補正のお蔭で手持ちで1/30秒で撮れた、はたまた1/15秒でブレずに撮れたと書かれています。

ですが、うっかりその様な記事に釣られて、間違ってもそんな遅いシャッタースピードで人物を撮ったりしないで下さい。

なぜなら、ボディー内手ブレ補正にしろレンズ内手ブレ補正にしろ、はたまた手ブレ補正効果が5段分だとしても、(カメラブレは防げても)被写体ブレは決して防げないからです。

ですので、プロのモデルさんの様にしっかりポーズ(一時停止)してくれない普通の人物撮影の場合、1/250秒以下のシャッタースピードは間違っても使ってはいけません。

という事は、被写体ブレを高い確率で防ぐには、1/500秒以上のシャッタースピードが必要で、そうなると折角の手ブレ補正機能は殆ど役に立たなくなるという訳です。

キヤノンの明るい中望遠レンズに手ブレ補正機能が無いのは、こういう所にも理由があると言えます。


大口径ズームレンズ3本に手振れ補正が付いている
2019/10/21:追記

これでもうダメ押しでしょう。

その後大三元とも呼ばれる3種類の大口径ズームレンズが発売されました。



驚く事にそれら全てのレンズに手振れ補正が搭載されたのです。(下表参照)

ソニーEマウントレンズ キヤノンRFマウントレンズ キヤノンEFマウントレンズ
FE 16-35mm F2.8 GM RF15-35mm F2.8 L IS USM EF16-35mm F2.8L III USM
FE 24-70mm F2.8 GM RF24-70mm F2.8 L IS USM EF24-70mm F2.8L II USM
FE 70-200mm F2.8 GM OSS RF70-200mm F2.8L IS USM EF70-200mm F2.8L IS III USM
FE 35mm F1.8 RF35mm F1.8 MACRO IS STM EF35mm F2 IS USM
OSSとISが手振れ補正を示す

ご存知かもしれませんが、上の表にあります様に従来のキヤノンEFマウント及びソニーのEマウントレンズにおいては、70-200mmの中望遠ズームレンズにしか手振れ補正は搭載されていませんでした。

ついでに言えば、広角単焦点レンズのRF35mm F1.8 MACRO STMにまで手振れ補正を搭載しているのです。

恐らくキヤノンとしては、今後RFマウントレンズには従来以上に手振れ補正を搭載していくのでしょう。

これでもなお、ボディー内手振れ補正に拘(こだわ)りますか?

なお手振れ補正が搭載された事によって、値段が気になると思いますので、アマゾン広告を以下に張っておきます。



FE 16-35mm F2.8 GM 

FE 24-70mm F2.8 GM 

FE 70-200mm F2.8 GM OSS

FE 35mm F1.8



RF15-35mm F2.8 L IS USM

RF24-70mm F2.8 L IS USM

RF70-200mm F2.8L IS USM

RF35mm F1.8 MACRO IS STM



EF16-35mm F2.8L III USM

EF24-70mm F2.8L II USM

EF70-200mm F2.8L IS III USM

EF35mm F2 IS USM

これをご覧頂きます様に、発売間もない事もあるでしょうが、他の手振れ補正無しレンズと比べて、数万円お高いのは間違いない様です。


3. 連写速度が遅い


次に言われているのが、EOS Rの連写速度がAF固定で8コマ/秒、AF/AE追従で5.5コマ/秒と競合機より遅い、という事です。

具体的には下の表にあります様に、明らかにEOS Rの連写速度は競合機のSONY α7 IIIやNIKON Z 6より見劣りします。

SONY α7 III
(2400万画素)
EOS R
(3000万画素)
NIKON Z 6
(2400万画素)
AF固定 10コマ/秒 8コマ/秒 12コマ/秒
AF/AE追従 10コマ/秒 5.5コマ/秒 5.5コマ/秒
フルサイズミラーレス機(標準画素)における連写速度の比較

ですが、忘れてはならないのがEOS Rの画素数は、競合機より25%も画素数が多い3000万画素という事です。

これに伴う画像の読み取り時間から考えれば、連写速度が多少遅くなるのは無理からぬ事とも言えます。

と言いたい所ですが、4200万画素のSONY α7R IIIや、4500万画素のNIKON Z 7と比べても、確かに見劣りします。

SONY α7R III
(4200万画素)
EOS R
(3000万画素)
NIKON Z 7
(4500万画素)
AF固定 10コマ/秒 8コマ/秒 9コマ/秒
AF/AE追従 10コマ/秒 5.5コマ/秒 5.5コマ/秒
フルサイズミラーレス機(高画素)における連写速度の比較

ですが、ここにも殆ど語られない秘密が隠されているのです。

ご存じとは思いますが、EOS Rは撮像素子全域をAFセンサーとして使えるデュアルピクセルCMOS AFを採用しています。


EOS RのデュアルピクセルCMOS AF

ですので、画素数は3000万ですが、受光素子自体は何とのその2倍の6000万素子もあるのです。

さすがに6000万画素のカメラと同じとは言わないものの、画素数4000万代の他社機より多少連写速度が遅くなるのは当然の事と言えるのではないでしょうか。

なおこのデュアルピクセルCMOS AFの優位性は、この後じっくりお伝えしたいと思います。


4. 瞳AFがシングルAFしか使用できない


そして次なる指摘が、瞳AFがシングルAFしか使用できない、という事です。


EOS Rの瞳AF

確かにSONY α7シリーズ、或いはα9においては、既にコンティニュアスAFモードにおいても、瞳AFが使用可能です。

ですが、EOS Rを舐めてはいけません。

と言うより、EOS Rと比べれば、他社の瞳AFははっきり言ってまだオモチャのレベルと言わざるを得ません。

先程お伝えした様に、EOS RはデュアルピクセルCMOS AFを採用しています。

これは、全画素を像面位相差AFセンサーとして使えるという、とんでもない代物なのです。


デュアルピクセルCMOS AF(左)と一般的な像面位相差AF(右)

一方、他社の一般的な像面位相差AFは、撮像素子上に僅か数万個のAFセンサーを乗せただけでしかなのです。

像面位相差AFの場合、絞り開口径が大きくなるほど基線長が長くなるという特徴(優位性)がありますが、一番輝度が高くて測距し易い光束の中心部分にAFセンサーが無ければ、近くの薄暗い部分でピントを合わせるしかないのです。


一般的な像面位相差AFにおける光束とAFセンサーの位置関係

上のイラストは多少誇張して描いていますが、一般的な像面位相差AFの場合、AFセンサーが少ないため光束の中心とAFセンサーが一致しない事が多々あり、測距精度が劣ると言うのは、凡そ分かって頂けるのではないか思います。

それ故他社機では、最後に更にコントラストAFでピントを追いこんでいるのです。

ただし、このコントラストAFにおいても、期待するほどの精度は無いのは、コントラストAFだけしか搭載していないα7Sで確認済みです。(詳細はこちら

ですので、ファインダーを覗くと瞳に合焦マークは出るものの。そこに確実にピントが合っているかどうかは甚だ疑わしいのです。


瞳に合焦マークが出ているからといって瞳にピントが合っている訳ではない

またネットを検索すると以下の様にα7シリーズで瞳を検知する動画が無数にアップされているのですが、これは瞳AFに関する動画ではなく、単に瞳認識を示す動画でしかありません。


瞳AFではなく瞳認識を示すだけの動画

恐らくα7シリーズで瞳AFを褒めちぎっている方は、F2.0以上の明るい絞り値で瞳AFをじっくり使った事がないのでしょう。

はっきり言って、F2.0より暗いレンズでしたら、瞳AFではなく顔認識があれば十分なのです。

それに対してEOS RのデュアルピクセルCMOS AFは、全画素がAFセンサーの機能を持っていますので、大口径レンズほど被写体までの距離を正確に把握する事ができるのです。

実際α7 IIIの測距ポイントは位相差693点なのに対して、EOS Rの測距点は位相差5655点もあるのです。

EOS Rの位相差AFフレームの説明

どこにあるか分からない小さな瞳にピンポイントで正確にピントを合わせるには、当然ながらこれくらいの測距点が必要なのです。(詳細はこちら

ただしAFセンサーが余りに多いので、演算処理にどうしても時間が掛かる事から、現状ではシングルAFしか瞳AFが使えないという訳です。

実際初期のα7シーズも、瞳AFはシングルAFでしか使えませんでした。

少ないAFセンサーでピントが合っているかもしれないコンティニュアスAFモード可能の瞳AFと、確実にピントが合うシングルAFモードでの瞳AF。

貴方ならどちらを選びますか?

なおこれも演算処理だけの話なので、いくいくはEOS Rにおいても、コンティニュアスAFモードでも瞳AFが使える様になるのは間違いないでしょう。

ついでに言っておきますと、一般的な像面位相差AFにおけるAFセンサー素子は、画像データを読み込めないので(画像データーが欠損しているので)、デジタル処理で周囲と似た色で塗りつぶしているのです。

キヤノンのデュアルピクセルCMOS AFは、画質面から見ても非常に優れた方式と言えます。


5. 高解像度モデルがない


高解像度モデルが無い事についても、もう説明の必要はないでしょう。

キヤノンのミラーレス機は、他社機と大きく差別化できるこのデュアルピクセルCMOS AF搭載が必須になるでしょう。

だとしますと、もし5000万画素の撮像素子を搭載するとなると、受光素子は1億素子も必要となります。

そう簡単に実現できないのは、当然の事でしょう。


5000万画素のEOS 5Ds R(左)とEOS 5Ds(右)

このため当面は、EOS 5Dsが高解像部門を担い、ミラーレスの高解像度モデルは、あと数年が必要かもしれません。


6. ローパスフィルター搭載


ローパスフィルターと聞くと、誰しも擦りガラスの様な物で、単に偽色やモアレを防ぐものの、できれば無い方が良いと思われている事でしょう。

現象的にはその認識に大きな間違いはないのですが、本質的には大きな間違いです。

詳細はこちらをご覧頂くとして、ベイヤー配列のフィルターを使った単板撮像素子の場合、理論上ローパスフィルターを使う事が前提になっているのです。


SONYのローパスフィルター(複屈折板)の説明図

すなわち単に偽色やモアレが目立たなくするために擦りガラスが付いているのではなく、被写体と極力同じ色を再現させるためには、どうしても一つの光をベイヤー配列の4画素に振り分ける(上図参照)ためにローパスフィルター(複屈折板)が必要なのです。

この点キヤノンには明確なポリシーが有る様で、5000万画素のEOS 5Dsを含めて(EOS 5Ds Rを除く)全機種においてローパスフィルターを搭載しています。

他社においては、本当の色よりむしろ分かり易い解像度に主体を置いているのに対して、キヤノンの本当の色を求める姿にむしろ好感すら覚えます。


7. まとめ


いかがでしたでしょうか。

写真の大敵は、何と言ってもブレとピンボケでしょう。

そして最も重要なのは、被写体に忠実な色を再現した画質でしょう。

この観点からEOS Rをまとめると、以下の様になります。

①手ブレ:キヤノンはレンズ内手ブレ補正が最も有効と考えており、EOS RにおいてはそれにデュアルセンシングISを盛り込んで、更に磨きを掛けてきた。

②ピンボケ:デュアルピクセルCMOS AFの採用により、他社より数段精度の高い像面位相差AFを実現した。(これによりコントラストAFは削除)

③画質:デュアルピクセルCMOS AFの採用により画素欠損のない画質と、ローパスフィルター搭載による極力被写体に忠実な色再現を目指している。


本書としては、

実際には2軸しか役に立たないボディー内手ブレ補正や、
数少ないAFセンサーでピントが合ってるかどうか分からない瞳AFや、
無駄なデュアルスロット搭載機より、


余程潔くて好感が持てるのですが、皆様はいかがお考えでしょうか?

正直な所、発表される前は全く興味の無かったEOS Rですが、仕様を知っていくうちにどうしても使ってみたくなってきました。


EOS R
 

EOS R
+マウントアダプタ

EOS R
+Dマウントアダプタ

特に瞳AFの精度が気になります。


RF24-105mm F4 L
IS USM

RF28-70mm F2 L
USM

RF50mm F1.2 L
USM

RF35mm F1.8
MACRO IS STM

果たして本体と同時に発売された50mm F1.2を開放で使って、正確に瞳にピントが合うでしょうか?




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