各社のミラーレス用大口径標準ズーム(24-70mm F2.8)の性能を比べてみた
2019/12:発行
はじめに
一昔前のフィルムカメラ時代でしたら、標準レンズと言えば50mm F1.4レンズではなかったでしょうか。
ですが数十年経った今でしたら、かなりお高いのですが標準レンズと言えば良く言われる大三元ズームレンズの1本である24-70mm F2.8ではないでしょうか。
故に各社ともこの大口径標準ズームレンズには、並々ならぬ力を注いでいます。
更にこの数年、ミラーレス一眼用に最新設計の24-70mm F2.8ズームレンズが投入されましたので、これらのレンズの実力を知れば、各光学メーカーの現時点における技術力を知る事ができるとも言えます。
ブランド名 | レンズ(マウント径) | 発売日 |
SONY | (46mm) FE 24-70mm F2.8 GM |
2016/4/28 |
NIKON | (55mm) NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S |
2019/4/19 |
LUMIX (PANASONIC) |
(52mm) LUMIX S PRO 24-70mm F2.8 |
2019/9/25 |
CANON | (54mm) RF24-70mm F2.8 L IS USM |
2019/9/27 |
という訳で、今回はこれら4本のレンズの特徴とMTFを横並びで比べてみたいと思います。
やっぱりレンズに関しては、口径の大きなマウントを採用した老舗のニコンやキヤノンが上なのか、はたまた小型のマウントながらミラーレス一眼で先行するソニーが上か、それともダークホース的なパナソニックか?
どんな結果になるか、お楽しみに。
SONY FE 24-70mm F2.8 GM
それでは、各社のレンズの特徴とMTFを発売順に見ていきたいと思います。
ソニーのミラーレス一眼用の大口径標準ズームは、他社に先駆けて2016年4月に発売されました。
それが下にありますFE 24-70mm F2.8 GM です。
SONY FE 24-70mm F2.8 GM
初代α7が売り出されたのが2013/11ですので、それから2年半後にようやく発売されたという訳です。
とは言え初代のα7シリーズでは、AF性能やマウントの強度を含めボディー側の性能がこのレンズに追い付いていなかったのは間違いないでしょう。
SONY FE 24-70mm F2.8 GM(2016/4) | |||
---|---|---|---|
最短撮影距離 | フィルター径 | サイズ | 質量 |
0.38m | 82mm | φ88 x 136mm | 886g |
ピント機構 | IF(インターナルフォーカシング)採用 | ||
AFモーター | ダイレクトドライブSSM(超音波モータ) | ||
非球面レンズ | 超高度非球面レンズ「XA(extreme aspherical)レンズ」1枚を 含む計3枚の非球面レンズ |
||
レンズ | ED(特殊低分散)ガラス1枚とスーパーEDガラス1枚 | ||
コーティング | ナノARコーティング | ||
絞り羽根 | 9枚 | ||
操作性 | AF/MF切り替えスイッチ、ズームロックスイッチ フォーカスホールドボタン搭載、防塵防滴を考慮 |
上の表をご覧頂きます様に、さすがに今どきのレンズだけあって、ソニーの最新技術が盛沢山です。
またMTFは以下の通りですが、これはこれから他社レンズと比べてみたいと思います。
SONY FE 24-70mm F2.8 GM
NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S
続いては、それから3年後の2019/4に発売されましたニコンのNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sです。
NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S
このレンズは、ニコン初のフルサイズミラーレス一眼のニコンZシリーズの発売から約半年遅れでの登場です。
NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S(2019/4/19) | ||||
---|---|---|---|---|
最短撮影距離 | フィルター径 | サイズ | 質量 | |
0.38m | 82mm | φ89mm × 126mm | 805g | |
ピント機構 | 収差を改善し高い結像性能を実現するマルチフォーカス方式 を採用 | |||
レンズ | 色収差補正効果が高いEDレンズ2枚 各収差補正効果が高い非球面レンズを4枚 |
|||
コーティング | 従来のナノクリスタルコートに加え、新開発のアルネオコートを採用 最前面および最後面のレンズ面にフッ素コーティング |
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AFモーター | STM(ステッピングモーター) | |||
絞り羽根 | 9枚 | |||
操作性 | 鏡筒根元にコントロールリングを搭載 絞り値、撮影距離、被写界深度などを確認できるレンズ情報パネル追加 レンズFnボタン搭載 防塵・防滴に配慮した設計 |
このレンズの特徴は、鏡筒根元に絞りリングとしても使えるコントロールリングを搭載し、更に被写界深度等を確認できるレンズ情報パネルやレンズFnボタンまで搭載して、昔ながらのニコンファンの心を鷲掴(わしづか)みにしている事です。
被写界深度を確認できるレンズ情報パネル
ちなみにフルサイズのミラーレス一眼で被写界深度を確認できるのは、今の所ニコンとカールツァイスの一部のレンズだけです。
このレンズのMTFがソニーと比べてどの程度なのか、早速比べてみたくなるのではないでしょうか。
という訳で、 このレンズの空間周波数30本/mmのMTFを、前述のSONY FE 24-70mm F2.8 GMと同じチャート上に載せてみます。
上のチャートは焦点距離24mmにおける比較ですが、同心円方向(チャート右)のMTFはNIKON(黄色)とSONY(オレンジ)ほぼ互角なのですが、放射方向(チャート左)のMTFは明らかにSONYの方が優れいるという結果になりました。
次は焦点距離70mmの場合です。
これもご覧頂きます様に、NIKON(黄色)よりSONY(オレンジ)の方が全体的に優れていると言えます。
という訳で、MTFに関してはNIKONよりSONYの方が上と言えます。
LUMIX S PRO 24-70mm F2.8
続いては、2019/9/25に発売されたパナソニックのLUMIX S PRO 24-70mm F2.8です。
LUMIX S PRO 24-70mm F2.8
16群18枚
レンズの名称にPROと入れるだけあって、パナソニックもかなり気合が入っています。
LUMIX S PRO 24-70mm F2.8(2019/9/25発売) | |||
---|---|---|---|
最短撮影距離 | フィルター径 | サイズ | 質量 |
0.37m | 82mm | Φ91mm×140mm | 935g |
ピント機構 | 超音波アクチュエーターとリニアアクチュエーターのダブルフォーカス | ||
レンズ | 非球面レンズ3枚 色収差を良好に補正するEDレンズ4枚 UHRレンズ1枚 |
||
M/Aモード | フォーカスリングをスライドさせることで距離指標があらわれ、 指標を見ながらのマニュアルフォーカスが可能 |
||
操作性 | 動作環境-10℃、防塵防滴仕様 |
下の写真の様に、フォーカスリングをスライドしてマニュアルフォーカスにすると、距離指標が現れるというサプライズ付きです。
LUMIX S PRO 24-70mm F2.8のAF時(左)とMF時(右)
おまけに他社のレンズは防塵防滴を考慮した設計と謳っているのに対して、本レンズは防塵防滴と断言しています。
本レンズもズーム時に全長が変わるのですが、空気の出入口(通気口)はどう防水処理しているのでしょうか?
おまけに-10℃の動作を保証しているのですから、名前の通り完全にプロ仕様と言って良いでしょう。
となると、MTFのデータが気になります。
LUMIX S PRO 24-70mm F2.8
これを、先ほどのチャート上で載せると以下の様になります。
上は焦点距離24mmの場合ですが、LUMIXのMTF(緑色)は中心部(0近辺)で多少前述の2本のレンズより劣るものの、周辺部では概ねLUMIXが優れている傾向が見て取れます。
次は70mmの場合ですが、これも概ねLUMXが前述の2本より優れているという結果になります。
恐るべきLUMIXではないでしょうか。
RF24-70mm F2.8 L IS USM
最後は、LUMIXに対して2日遅れの2019/9/27に発売されたキヤノンのRF24-70mm F2.8 L IS USMです。
RF24-70mm F2.8 L IS USM
一眼レフ用であるキヤノンの大口径標準ズームEF24-70mm F2.8L II USMは、このクラスの指標とも言えるべきレンズですので、本レンズがどこまで性能を上げたか見ものです。
CANON RF24-70mm F2.8 L IS USM(2019/9/27) | |||
---|---|---|---|
最短撮影距離 | フィルター径 | サイズ | 質量 |
0.21m | 82mm | φ89×126mm | 900g |
ピント機構 | リアフォーカス方式、フルタイムマニュアル | ||
AFモーター | 初動速度の優れたナノUSM(超音波モータ)採用 | ||
非球面レンズ | ガラスモールド非球面レンズと3枚のUDレンズ | ||
コーティング | フッ素コーティング ASC(Air Sphere Coating)と呼ばれる特殊コーティング採用 |
||
絞り羽根 | 9枚 | ||
その他 | 最大5段分の光学手ブレ補正、最大撮影倍率0.3倍 レンズ先端にコントロールリング搭載、防塵防滴 |
上の表をご覧頂きます様に本レンズ最大の特徴は、従来では筐体が大きくなり過ぎて無理だと思われていた光学手ブレ補正を内蔵した事でしょう。
光学手ブレ補正の説明図
これはフランジバックが短くなる事によって、以前よりレンズ設計の自由度が上がった事により、レンズの枚数を減らし、且つ手ブレ補正用のレンズ径を小さくできた事が理由の様です。
さらに従来は押しなべて最短撮影距離は0.38mだったのですが、一気に0.21mに縮めたのも注目です。
それでは気になるMTFを見てみましょう。
これを先ほどのチャートに載せてみると、以下の様になります。
上は焦点距離24mmの場合ですが、本レンズのMTF(水色)は全体的に見ると他社より劣り気味と言わざるを得ません。
特に中心部(0近辺)のMTFが、明らかに他社より劣るのが気になります。
また下は焦点距離70mmの場合ですが、これも残念ながら期待した程ではありません。
これもまた、中心部がSONYやLUMIXに劣るのが気になります。
断言はできませんが、駆動レンズが重くなる大口径ズームレンズに手ブレ補正を入れた影響が出ているのでしょうか。
RF24-70mm F2.8 L IS USMのレンズ構成(15群21枚)
関連するかどうか不明ですが、キヤノンから一眼レフ用に同じく手ブレ補正を内蔵した大口径レンズEF85mm F1.4L IS USMが発売されているのですが、本レンズにおいてもMTFが他社より劣るとの結果が出ています。
MTFが今一つだった手ブレ補正内蔵のEF85mm F1.4L IS USM
大口径レンズの場合、手ブレ補正と光学性能の両立はまだまだ難しいのかもしれません。
まとめ
さて、まとめです。
4本のレンズの特徴を、MTFの順に並べると以下の様になります。
項目/メーカー | LUMIX | SONY | CANON | NIKON |
---|---|---|---|---|
MTF順位 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 |
最短撮影距離 | 0.38m | 0.38m | 0.21m | 0.38m |
サイズ | φ88 x 136mm | φ88 x 136mm | φ89 x 126mm | φ89 x 126mm |
質量 | 935g | 886g | 900g | 805g |
防塵防滴 | 断言 | 配慮 | 断言 | 配慮 |
手ブレ補正 | 非 | 非 | 内蔵 | 非 |
その他 | 距離指標表示 -10℃動作 |
フォーカス ホールドボタン |
コントリング | コントリング 情報パネル |
価格(2019末) | 27万円 | 24万円 | 26万円 | 27万円 |
という訳で、もしMTFの良いレンズがほしいのでしたら、一押しがLUMIXで2番目がSONYと言えます。
一方、MTFは多少劣ってでも5段分もの手ブレ補正が必要でしたら、必然的にCANONになります。
なおボディー内手ブレ補正があれば、レンズ内手ブレ補正は必要ないと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、ボディー内手ブレ補正の効果はブレ易い望遠になるほど低下しますので、本レンズの焦点距離70mmにおける5段分の手ブレ補正効果には到底敵(かない)いません。
またNIKONにつきましては、MTFでは今一つでしたが、レンズに被写界深度が表示されるのは、高く評価したいと思います。
なお今回のMTFの比較は、差が出やすい絞り開放(F2.8)の値を使用しましたが、風景等の撮影で絞って撮影する場合は、この差はどんどん少なくなっていく事を念のためお伝えしておきます。
ところで、本書の最後にどうしてもお伝えしたい事がありますので、もう一度まとめの表をご覧頂けますでしょうか。
この表の赤い覧を見て頂くと、LUMIXとSONYの鏡筒のサイズは共にφ88 x 136mmです。
一方、黄色の覧を見て頂くと、CANONとNIKONの鏡筒のサイズは共にφ89 x 126mmです。
太さの違いは無視するとして、この長さ10mmの差は何なのでしょう?
長さ方向にゆとりのある設計にした方が、光学的(MTF)に有利なのでしょうか?
それとも全くの偶然なのでしょうか?
気になります。