トリミングすると被写界深度は深くなる

2021/04/25:発行


目次



1. はじめに


最近のカメラは画素数が大きくなった事に伴い、クロップしたりトリミングをして写真の一部を抜き出す機会が多くなってきました。


  フルサイズの写真をAPS-Cサイズ(1.5倍)にトリミングした写真

これによって、解像度が低下するものの、後で構図を調整したり、被写体を拡大して望遠効果が出したりする事ができます。

ところで、写真をクロップしたりトリミングした場合、被写界深度はどうなるでしょうか。

そう訊かれれば、恐らく100人中100人の方が、被写界深度は変わらないと答えられる事でしょう。

実際、上のトリミングした写真をみても、元の写真と比べてピントの合う範囲が広くなったり狭くなったりはしていません。

ところがクロップすると、被写界深度は深くなるのです。

恐らくそう言っても何方も信じては頂けないと思いますので、これからじっくりご説明させて頂きます。

これを知って頂ければ、クロップしたりトリミングした場合の、知られざるデメリットとメリットを認識できます。


2. なぜトリミングすると被写界深度が深くなるのか


それでは早速その説明をさせて頂きます。

下の写真は、50mm F1.4のレンズで撮った写真を、100mmレンズの画角になる様に2倍(マイクロ4/3サイズ)にトリミングしたものです。


50mm F1.4で撮った写真(左)とそれを2倍(画角100mm相当)にトリミングした写真(右)

この場合、両方の写真が50mm F1.4のレンズで撮られたと考えれば、両方の写真の被写界深度は確かに同じと言えます。

ですが、忘れてはいけないのは右の写真は画角が狭くなっているという事です。

すなわち、(見たままではなく)画角が狭くなった事を考慮して被写界深度を考えなくてはいけないのです。

そんな訳で、それぞれの写真を50mm F1.4と100mm F1.4のレンズで撮ったとしたら、両者の被写界深度はどうなるでしょう。

当然ながら、同じ絞り値で撮るのですから100mmの望遠レンズで撮った写真の方が被写界深度は浅くなるはずです。

ところがご覧の通り、トリミング前も後も両者の被写界深度は同じです。

という事は、本来トリミングしたら望遠レンズで撮る事になるので、被写界深度は浅くなるはずなのに、浅くなっていないのです。

すなわち、トリミングすると被写界深度が深くなると言えるのです。

そう言われると、何だただの屁理屈じゃないかと、がっかりされた方も多いと思いますが、これからが面白い所ですので、もう少しお付き合い願います。


3. トリミングの知られざるデメリット


ご存知の様に、トリミングすると解像度が低下します。

これは、カメラの性能を落とした事になるのは、何方もすんなりご理解頂ける事でしょう。

何しろフルサイズで2400万画素だったのに、APS-Cサイズにトリミングすると1000万画素になり、マイクロ4/3サイズにすれば600万画素になるのですから。

早い話が、フルサイズ機でありながら、小サイズ機を使っている様なものです。

ですがトリミングする事によって、実はレンズの性能も大幅に低下させているという認識は全くないのではないでしょうか。

次はこの話をしたいと思います。

先程2倍にトリミングした写真、すなわち100mm F1.4のレンズで撮った写真は、被写界深度は浅くなるはずなのに、そうなっていないとお伝えしました。

では50mm F1.4と同じ被写界深度になる100mmのレンズのF値はいくつかと言えば、F1.4にトリミングした倍数である2倍したF2.8になります。(詳細についてはこちら


50mm F1.4で撮った写真(左)と100mm F2.8で撮った写真(右)は同じ被写界深度(写真)になる

ご存知の様に、今どきの50mm F1.4の標準レンズは10万円台の高級レンズなのに対して、100mm F2.8の中望遠レンズとなれば初心者クラスのレンズと言って良いでしょう。

更にトリミングを4倍にして、200mmの望遠レンズと同じ画角にしたとしたら、その時のF値はF5.6(F1.4の4倍)になります。

200mm F5.6の暗い望遠レンズとなれば、単焦点レンズでは存在せず、廉価版のズームレンズの範疇です。

何が言いたいかと言えば、折角高いレンズで撮った写真でも、どんどんトリミングしていくと、安い望遠レンズで撮ったのと同じ写真になってしまうという事です。

少々複雑な話で恐縮ですが、ご理解頂けましたでしょうか。

別の言い方をすれば、50mm F1.4レンズの性能をフルに引き出すためには、トリミングせずに全画面を使う事だと言えば、感覚的にもその通りだと思われるのではないでしょうか。

更に言わせて頂ければ、高画素のカメラを買ったからと言って、トリミング前提で安易に写真を撮るという事は、楽ではあるものの小さなカメラに安いレンズを付けて撮っているのと同じ事になるという訳です。

一方、限られた時間の中で1枚1枚後処理無しを目指して撮った写真は、そのカメラとレンズの性能(価値)をフルに引き出していると言えます。

どちらを選ぶかは自由ですが、折角高いカメラとレンズを購入したのですから、多少現場で苦労してでも後者を選ぶべきというのが幣サイトの考えです。


4. トリミングの知られざるメリット


さて今まではトリミングによる知らざるデメリットをお伝えしたのですが、物事には裏があれば表がある様に、トリミングする事によって、知られざるメリットが生まれるのです。

ここではそれをご紹介したいと思います。

前段で、50mm F1.4で撮った写真を2倍にトリミングすると、100mm F1.4ではなく100mm F2.8で撮ったのと同じ被写界深度(写真)になるとお伝えしました。

と言う事は、2倍にクロップするとレンズの明るさは同じF1.4のままでありながら、F2.8の被写界深度の深い写真が撮れる(作れる)という事です。

こんなに美味しい話をご存知でしたでしょうか。

例えば、100mm F2.8のレンズを使ってある被写体を撮ったら、周囲が暗くて露出設定がISO6400の1/60秒になったとします。

一方50mm F1.4のレンズを使って同じ被写体を撮ったとしたら、レンズが2段分明るいので当然ISO1600の1/60秒で撮れます。

そしてそれを2倍にクロップすると、なな何と実際に100mm F2.8のレンズを使って撮った写真と同じ被写界深度(解像度は異なるものの同じ写真)になるのです。

すなわちF値が明るいまま、被写界深度の深い写真をトリミングによって作れるのです。

そんな訳で、例えば闇夜で標準レンズを使った撮影をする場合、少しでもISO感度を下げたい、でも被写界深度はこれ以上浅くできないといった場合には、広角のレンズを使ってトリミングをすればそれが可能という訳です。


5. まとめ


いかがでしたでしょうか。

それではまとめです。

①トリミングしても一見すると被写界深度は変わらないと思えるが、画角が変わっている事を考慮すると、実は被写界深度は深くなっている。

②このため、トリミングをどんどん行なうと、廉価な望遠レンズで撮ったのと同じ写真になり、使用したレンズの価値をどんどん下げる事になる。

③ただし被写界深度を重視した写真の場合、トリミングすると全く同じ被写界深度の写真をISO感度を下げて撮れる事になる。


これで少しはご納得頂けましたでしょうか。

なお本書の著作権は全て幣サイトに帰属しますので、くれぐれも無段で本内容を開示なさらぬ様、お願い致します。




トリミングすると被写界深度は深くなる





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