EOS Rは何だったのか

2020/10/22:発行

はじめに


EOS R6を使い初めて約1カ月。

 
従来の標準機の常識を塗り替えたEOS R6

期待以上に良いカメラです。

弱小サイトにとっては、夢の様なカメラと言っても過言ではないでしょう。

特にAF性能の高さは、従来機と比べて格段の進歩です。

そうなるとEOS Rは一体何だったのでしょうか?

 
2018/11に発売されたEOS R

以前からEOS Rはどんな開発コンセプトで作られたのかが疑問に思っていたのですが、EOS R5やR6が発表されてから、更に分からなくなってしまいました。

EOS Rの発売された当時(2018年)は、まだまだ売れ筋は一眼レフなので、直接これらと競合する訳にはいかないものの、これ以上フルサイズミラーレス一眼の投入を遅らせる訳にもいかないという時期でした。

このため性能を控え目にしつつも、新しい操作性を実験的に投入した市場調査機だったのでしょうか?

それとも、あくまでもこんな凄いレンズを作ってますよと、キヤノンユーザーに誇示するためのデモ機だったのでしょうか?

或いは、超ド級のEOS R5とR6を一層引き立てるための、露払い役だったのでしょうか?

在り得ない話ではないにしても、キヤノンの商品企画がそんなコンセプトのカメラを企画する筈もありませんし、よしんばそんなカメラを企画されたとしても、現場が気合を入れて作る訳もありません。

となるとEOS Rにも、何かしら明確な開発コンセプトがあった筈です。

それが一体何か、長い間疑問だったのですが、EOS R6を使ってようやくその謎が解けました。

推測とは言え、かなり確度は高いと思うのですが、いかがでしょうか。


瞳AFの精度が高くなるとどうなるのか


既にお伝えしました様に、EOS R6のAF性能の高さは驚愕ものです。

キヤノンの説明によれば、EOS R5とR6にはデュアルピクセルCMOS AFの第二世代(デュアルピクセルCMOS AF II)が搭載されたとの事です。


動物おも検知するデュアルピクセルCMOS AF II

これによって高速・高精度・広範囲に加え、ディープラーニングを活用したアルゴリズムEOS iTRAF Xにより、高性能な被写体検出が可能との事です。

EOS Rでは逆光や前景、はては服の模様によって、あらぬ方向にフォーカスポイントが飛んでいったのと比べれば、確かに格段の差です。(EOS Rの瞳AFの性能についてはこちらへ)

もっと言わせて頂けるのならば、初代α7Sの名ばかりの瞳AFと比べると、月とスッポン、天と地ほどの差があります。(詳細はこちら


大口径レンズでは全くピントが合わなかった初代α7Sの瞳AF

6年前の機種と比較するのも酷でしょうが、ようやくまともに使える瞳AFといった感じです。

被写体検出精度の向上は、当然ながらディープラーニングの効果が大きいのでしょうが、AF精度と速度に関するハード系もかなり進歩した感じです。

従来でしたら、瞳AFを使って大口径レンズを絞り開放で撮るのは恐る恐る(多少ピントが甘いのは覚悟の上)だったのですが、EOS R6でしたら安心して使えます。


大口径レンズでも安心して瞳AFが使えるEOS R6

ですので、人物撮影におけるピント合わせは、ほぼカメラ任せにできると断言しても良さそうです。

すると、どうなると思われるでしょうか?


使わないマルチコントローラ


すると、巷で高評価のマルチコントローラを、全くというほど使わなくなるという事です。


EOS R6の帰ってきたマルチコントローラ

実際マルチコントローラを使うのは、メニュー枠を上下左右に移動するときぐらいです。(他の三つダイヤルでは1方向にしか動かない)

という事は、もしEOS RのAF性能がEOS R6並みであったら、EOS Rのマルチコントローラの無い操作部は実に理に適った仕様だという事になります。

そんな事を思っていたら、もう一つ気付いた事があります。


背面ダイヤルVSマルチファンクションバー


これまた巷で高評価のEOS R6の背面ダイヤルですが、早い話がただ回転させるだけなので、数値を変えるか、カーソルを上下(もしくは左右)に動かす事しかできません。


EOS R6の帰ってきた背面ダイヤル

一方巷で評判の悪かったマルチファンクションバーでしたら、タップ機能まで入れれば、下の表にあります様に豊富な機能を音もなく駆使できるのです。


となると(よくよく考えてみると)、背面ダイヤルよりマルチファンクションバーの方が、明らかに機能は優れているのです。

もしかしたらマルチファンクションバーの誤操作を心配する声もあるかもしれませんが、それなら背面ダイヤルも同じ事です。(詳細はこちら

むしろ音がしないで操作できるのは、動画ファンにはかなり魅力ではないでしょうか。

ちなみに、レンズに付いているコントロールリングを音なし変更できますが、有料(6500円~17000円)です。


有償で音無し(クリック無し)にもできるRFレンズのコントロールリング

更に、もしこのマルチファンクションバーを操作する事によって、電動でフォーカス調整もできる様になったら、それだけでEOS Rの魅力倍増です。


デュアルスロットは本当に必要なのか


更にもう一つ付け加えさせて頂きますと、これまた巷で高評価のEOS R6に搭載されたデュアルスロットですが、併サイトでは常々述べています様に無用の長物です。(シングルスロットとデュアルスロットの信頼性の差についてはこちらへ)


巷で高評価のEOS R6に搭載されたデュアルスロット

では、幣サイトがこの余分なスロットを何に使っているかと言えば、万一SDカードを入れ忘れたとき用に、予備のSDカードを入れるためだけに使っています。

ですので、当然ながら一切書き込みは行っていません。

何故なら同じ画像を2枚のSDカードに記録したとなると、重複した画像を管理する(消す)のに、飛んでもなく神経を使う事になるからです。

いくら言ってもご納得頂けないかもしれませんが、考えてもみて下さい。

壊れやすいメカ部品を含めて数千点の部品で構成されたカメラと、小さな半導体とそれを包むプラスチックケースと端子だけのSDカードと、どちらの故障し易いのでしょうか。


カメラの中身

単純に考えても、カメラの方が数百倍もしくは数千倍故障し易いのは間違いないでしょう。

もしプロの写真家は万一のためにデュアルスロットが必須だとしたら、ではなぜ常に2台のカメラで撮らないのでしょうか?

誰がどう考えてもおかしいでしょう。

確かに一部の写真家でしたらクライアント用にデュアルスロットを必要とするかもしれませんが、大多数のユーザーはシングルスロットで何の支障もないのです。

また中国製の安くて粗悪なSDカードを使ったり、静電気のバチバチ発生するビニール袋に入れたり、ストレスだらけの財布の中にいれたりしたら、当然トラブルも発生するでしょう。

ですが、そんな電子部品の扱いも知らないプロという名のごく一部のユーザーとその盲目的な信仰者のために、大多数の実ユーザーが使いもしない余分なスロットのコストを払わされるのは甚だ迷惑です。

これに対して、EOS Rのシングルスロット採用は、カメラの信頼性を(感覚ではなく)数値で熟知しているキヤノンの極めて合理的な判断と言えます。

余りご存知ないでしょうが、それなりのSDカードのMTBF(平均故障間隔)は数百万時間(数百年)以上で、更に数十万回の挿抜試験をクリアしていますので、滅多な事でトラブルなど発生しないのです。

ニコンが、Nikon Z6とZ7で同じくシングルスロットを採用したのも、当然ながら同じ理由です。


EOS Rの開発コンセプト


上記につきましては、異論のある方も多々いらっしゃる事でしょうが、もし幣サイトの考えが正しいとしたら、EOS Rはキヤノンが考えた非常に合理的で先進的なフルサイズミラーレス一眼だったと言えるのではないでしょうか?

すなわち、EOS Rの開発コンセプトは、キヤノンにおけるフルサイズミラーレス一眼の先駆けになるべく、静止画と動画の両方を合理的に考慮した次世代のカメラ、だったのです

これでAF性能がEOS R5やR6並みに高ければ、評価は相当変わっていたのでは間違いないでしょう。

何しろ従来の一眼レフEOSには当然の様にあったマルチコントローラと背面ダイヤルを削除しながら、より高機能のマルチファンクションバーを搭載し、更にカードスロットは合理的なシングルタイプを選択したのですから。

とはいえ、民生品は売れてなんぼの世界ですので、恐らく今後EOS Rの操作系が復活する可能性は殆ど無いのでしょう。

ですが、(弱小サイトながら)大企業がここまで冒険をした事は多いに評価したいと思います。

ただし電源スイッチの位置とバリアングルモニターには、多いに不満です。




EOS Rは何だったのか




ご意見、ご感想等ありましたら是非こちらに。
Your response would be highly appreciated.





ホーム頁へ戻る

サイト紹介

写真やカメラに関するコンシューマレポート、テクニカルレポートは各種ありますが、ここでは余り知られていない耳寄りな情報を、小学生にも分かる様に平易にお伝えしたいと思います。

徐々に更新していきますので、もし宜しければ珈琲でも飲みながらお楽しみ下さい。

▶ 0. 過去の新着情報の一覧
▼ 1. カメラ技術講座
▼ 2. 撮影講座
▼ 3. デジタルカメラ便覧
▼ 4. デジタル一眼の最新情報
▼ 5. ストロボ
▼ 6. 星空撮影
▼ 7. 番外編
▼ 8. ボケ易い単焦点レンズのベスト15