ISO感度を上げるとダイナミックレンジは狭くなる
2020/08/22:発行
目次
1. はじめに
動画対応の影響でしょうか?
最近カメラメーカーにおいて、ダイナミックレンジの値を公表する事が多くなってきました。
ちなみに本書が認識している限りでは、以下の様になっています。
メーカー | 機種 | 撮像素子 | 画素数 | ダイナミックレンジ |
ソニー | α7S III | フルサイズ | 1200万画素 | 15+ストップ (S-Log3動画撮影時。 ソニー内部測定) |
パナソニック | Lumix S1 | フルサイズ | 2400万画素 | 14ストップ |
ソニー | SONY α7 III | フルサイズ | 2400万画素 | 15ストップ |
フジフィルム | GFX 50S | 中判 | 5000万画素 | 14段 |
ハッセルブラッド | X1D-50c | 中判 | 5000万画素 | 14ストップ |
概ね14~15段になっていますが、単位をストップとしているのは、英語圏の影響でしょうか?
それはともかく、これを見ればこの機種を使えば、常に15段(もしくは16段)のダイナミックレンジがあると思ってしまいますが、実はそんな事は全くないのです。
またこのダイナミックレンジは、撮像素子の大きさと画素数に密接に関係しているのです。
そんな訳で、今回はISO感度とダイナミックレンジの関係についてお話ししてみたいと思います。
ダイナミックレンジと1画素の大きさの関係
それでは早速ISO感度とダイナミックレンジの関係についてお話ししたい所ですが、話を分かり易くするため、先ずはダイナミックレンジと1画素の大きさの関係について述べたいと思います。
ご存知の様に1画素のサイズが大きいほど、カメラの受光量が多くなります。
撮像素子上にある1個のフォトダイオードが1画素
具体的には、1画素の大きさが2倍になれば受光量は2倍になります。
という事は、同じ露出設定で写真を撮ったとしても、1画素が2倍大きなカメラの場合、1段暗い光でも真黒とならずに画像として認識できます。
という事は、ダイナミックレンジは1段拡がる事になります。
そんな訳で、理論上1画素が2倍の大きさになればダイナミックレンジは1段拡がり、半分になれば1段狭くなるという訳です。
ですので、2400万画素のフルサイズ機のダイナミックレンジが15段だとすると、1200万画素だとダイナミックレンジは16段に拡がり、4800万画素だと14段に狭くなるという訳です。
同じ様に計算すると、APS-Cサイズ機で一般的な2400万画素のダイナミックレンジは14段(正確には13.8段)マイクロ4/3のダイナミックレンジは13段(正確には13.3段)になります。
ついでに言えば、スマホの撮像素子が1/2.3型で1200万画素だとすると、スマホのダイナミックレンジは11段(正確には11.1段)になります。
ダイナミックレンジとISO感度の関係
さて1画素が大きくなれば、ダイナミックレンジが大きくなるのは、何となく感覚的にも分かり易いのではないでしょうか。
問題は、ダイナミックレンジとISO感度の関係です。
既にお伝えしまし様に、何方もダイナミックレンジが15段のカメラを使う限り、常に15段だと思われる事でしょう。
実はそんな事はないのです。
何とISO感度を上げると、ダイナミックレンジはどんどん狭くなっていくのです。
具体的にはISO感度を1段上げると、ダイナミックレンジも1段狭くなってしまうのです。
という事は、ダイナミックレンジが15段のカメラのISO感度を100から4段上げて1600にすると、計算上そのダイナミックレンジはスマホやコンデジと同じ11段程度になってしまうのです。
そんなバカな、と思われるかもしれませんが事実なのです。
その証拠という訳ではないのですが、下はDxOMark Photographicが測定したα7 IIIのISO感度とダイナミックレンジの関係を示したチャートです。
これをご覧いただきます様に、ISO感度とダイナミックレンジは見事に反比例の関係になっているのが分かります。
すなわち、ISO感度を1段上げると、それに伴ってダイナミックレンジは1段狭くなるのです。
この理由ですが、先ほどの1画素と大きさとダイナミックレンジの関係と同じ様に、ISO感度を1段上げるという事は、絞りなりシャッタースピードを1段上げて撮像素子に届く光の量を1段減らす事になりますので、その分ダイナミックレンジも低下する(狭くなる)という訳です。
ちなみにソニーの公表値は15段であるのに関わらず、上のチャートのISO100のダイナミックレンジが12段に届いていないのは、ダイナミックレンジの測定方法がISO(世界標準)等で統一されていないため、甘く見るか、辛く見るかの差だと思って頂ければ良いと思います。
また上の棒グラフの3か所に段があるのは、ここで増幅回路の切り替えが行われているためです。
ですので、α7 IIIには4種類の増幅回路(正確には3個の増幅回路と1個の減衰回路)がある事が分かります。
そんな訳で、ISO感度をどんどん上げると、ダイナミックレンジもどんどん低下していくことをご理解頂けたのではないでしょうか。
ダイナミックレンジとJEPGファイルとは関係ない
さて、それを知ってしまうと、中には何が何でもISO100で撮ろうと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか?
ですが、それもまた間違いとまでは言わないまでも、無用の心配と言えます。
実はこれも勘違いされている方が多いのですが、カメラのダイナミックレンジとJPEGファイルとは直接関係しないのです。
もっと分かり易く言えば、カメラのダイナミックレンジが12段だろうと15段だろうと、JPEGファイルをモニターに映したり紙にプリントした写真を見ても何の差もないのです。
では何に関係するかと言えば、RAWファイルです。
RAWファイルでしたら、しっかり15段のダイナミックレンジの情報が入っています。
ではJPEGファイルはというと、普通のモニターで見れる用にするため、せいぜい7段分程度のダイナミックレンジの情報しか入っていないのです。
ならば残りのダイナミックレンジはどこへ行ったのかと言えば、捨てられてしまっているのです。
ですので、先ほどお伝えしました様に、ダイナミックレンジが12段だろうと15段だろう全く関係ないのです。
そんな訳で、適正露出で撮っていて、RAWファイルを現像して飛んでもなく明るさを変更するのではなければ、何もISO100にこだわる必要は全くないと言えます。
RAWファイルとJPEGファイルの関係
以上でカメラのダイナミックレンジとISO感度の関係、及びRAWファイルとJPEGファイルの関係をご理解頂けたと思いますので、それらを網羅した図をお見せしたいと思います。
RAWファイルとJPEGファイルのダイナミックレンジの関係
これをご覧頂きます様に、JPEGファイルには、RAWファイルの中央7段分のダイナミックレンジが入っていると思えば、大きな間違いではないでしょう。
またRAWファイルのダイナミックレンジは、ISO100(最低常用ISO感度)のとき最も広く、上の場合でしたら15段になります。
という事は、JPEGファイルよりダイナミックレンジが8段広い事になりますので、RAWファイルを現像すれば(理論上)明側と暗側にそれぞれ4段分もの露出補正が行える事になります。
ただしISO感度を上げると、ダイナミックレンジはどんどん狭くなりますので、計算上はISO25600でRAWファイルのダイナミックレンジはJPEGファイルと同じになってしまいますので、RAWファイルの調整代は無くなってしまいます。
ISO25600でRAW現像をやる方もいらっしゃらないでしょうが、いずれにしろRAW現像を頻繁にやられている方でしたら、ISO感度を上げると調整代が狭くなるという感触は、何方もお持ちではないでしょうか。
また図の一番右にあります撮像獅子の種類は、フルサイズのISO感度を1段上げるとAPS-Cサイズ機と同じになり、2段上げるとマイクロ4/3機と同じになり、3段上げると1インチサイズ機と同じになるという事を表しています。
まとめ
それではまとめです。
①理論上、カメラの1画素の大きさが2倍になると、ダイナミックレンジは1段広くなる。
②理論上、カメラのISO感度を1段上げると、ダイナミックレンジは1段狭くなる。
③このため、フルサイズ機のISO感度を1段上げるとAPS-Cサイズ機のダイナミックレンジと同じになり、2段上げると2段上げるとマイクロ4/3機と同じになる。
③JPEGファイルは、カメラのダイナミックレンジの一部しか使っていないので、カメラのダイナミックレンジが広くても狭くても、何の影響も受けない。
④ただしRAWファイルを現像する際、カメラのダイナミックレンジが広い方が調整代は多くなる。
ご納得頂けましたでしょうか?