撮像素子の大きさと被写界深度と感度の関係
(星空と人物撮影に最適なカメラはどれか?)

2020/03/20:発行

はじめに


スマホで写真を撮ると、大きな撮像素子を搭載したカメラと比べて被写界深度が深くなるのはご存知の通りでしょう。

一方スマホと比べて、大きな撮像素子を搭載したカメラの方が感度が高くなるのも、これまたご存知の通りです。

この二つは密接に関係していますので、一目で分かるリストを作成してみました。

このリストを見れば、なるべく被写界深度を深く且つ画質を良くして撮りたい、或いは星空を背景にした人物撮影の様に感度が高くて且つ被写界深度を深くして撮りたい場合に、どんなカメラが有効か分かりますので、是非参考にして頂ければと思います。



撮像素子の大きさと被写界深度と感度の関係


お伝えしました様に、撮像素子の大きさと被写界深度と感度の関係を表にすると、以下の様になります。

サイズ\項目 縦横比
mm

mm
面積
mm2
画素数 被写界
深度段数
感度
段数
段数
の和
ISO
感度
Full 3:2 36 24 864 1200 0.0 0.0 0 6400
2000 -0.7 -0.7 3840
2400 -1.0 -1 3200
2600 -1.1 -1.1 2954
3200 -1.4 -1.4 2400
4800 -2.0 -2 1600
APS-C 3:2 23.6 15.6 368.2 2000 1.2 -2.0 -0.8 1636
2400 -2.2 -1 1364
2600 -2.3 -1.1 1259
APS-C
(canon)
3:2 22.2 14.8 328.6 2000 1.4 -2.1 -0.7 1460
2400 -2.4 -1 1217
Micro4/3 4:3 17.3 13.0 224.9 1000 2.0 -1.7 0.3 1999
1600 -2.4 -0.4 1249
2000 -2.7 -0.7 1000
1型 3:2 13.2 8.8 116.2 2000 2.9 -3.6 -0.7 516
1/1.7型 4:3 7.6 5.7 43.3 1200 4.4 -4.3 -1.4 321
1/2.3型 6.3 4.7 29.6 1200 4.9 -4.9 -0.5 219
1/3型 4.8 3.6 17.3 1200 5.7 -5.6 -0.7 128
1/3.2型 4.4 3.3 14.5 1200 6.0 -5.9 -0.2 108
1/3.6型 4.0 3.0 12 1200 6.2 -6.2 -0.2 89
1/4.6型 3.1 2.3 7.1 1200 7.0 -6.9 -0.7 53
撮像素子の大きさと被写界深度と感度の関係

この表の見方は以下の通りです。

①被写界深度段数

先ず被写界深度段数ですが、これはフルサイズを基準として、絞りの段数でどれだけ被写界深度が深いかを示しています。

例えば、フルサイズに対して1/2.3型の撮像素子は、絞りの段数で4.9段も被写界深度が深い事を示しています。


フルサイズのISO100 F2.8            1/2.3型のISO100 F2.8 

具体的には、フルサイズと1/2.3型の撮像素子を搭載したカメラで、同じ画角の絞りF2.8で撮ったとすると、1/2.3型の撮像素子を搭載したカメラは、フルサイズのカメラの絞りを更に4.9段(F16まで)絞ったのと同じ被写界深度になるという訳です。

これは(次にお話する感度と違って)画素数には一切関係なく、撮像素子の大きさだけで決まります。


②感度段数

次に感度段数ですが、これはフルサイズを基準として、撮像素子の大きさの違いによって、どれだけ感度が低下するかを示しています。

例えば、同じ1200万画素のフルサイズと1/2.3型の撮像素子を搭載した2台のカメラであったとすると、両者の1画素の大きさは29倍も違いますので、フルサイズの方が29倍高感度だと言えます。

これを段数で言うと4.9段(エクセル風に記すと4.9=LOG(29,2)になります)違う事になりますので、暗い所で撮影する場合、フルサイズは1/2.3型に対して、ISO感度を4.9段上げる事ができます。

また同じ明るさの所で撮影する場合は、フルサイズは1/2.3型に対して、ISO感度を上げて絞りを更に4.9段絞る事ができます。

先ほどお伝えしました様に、1/2.3型のカメラはフルサイズより4.9段被写界深度が深くなりますので、この場合フルサイズと1/2.3型の撮像素子を搭載した2台のカメラの被写界深度は、同じになるのです。


フルサイズのISO3200 F16            1/2.3型のISO100 F2.8  

すなわち、ISO100の絞りF2.8で1/2.3型の撮像素子で撮った写真と、フルサイズの撮像素子を搭載したカメラのISO感度を3200まで上げ、絞りをF16まで絞ったのと同じ被写界深度になるという訳です。

更にこの場合の両者の画像(画質)は、1画素が受ける光量が同じになので、理論上同じになります。

少々ややこしいのですが、ご理解頂けましたでしょうか?


③ISO感度

表の一番右にあるISO感度は、フルサイズの1200万画素のカメラをISO6400だとして、他のカメラのISO感度がどれくらいになるかを、1画素の大きさから求めたものです。

ですので、この表においてISO6400とISO100で撮った写真は、1画素の受ける光量は同じですので、画質も同じだと言えます。


応用方法


ここまで分かって頂いた所で、この表を使ってはじめにでお伝えした、以下の二つの事について考えてみたいと思います。

①被写界深度を深く、且つ画質を良くして撮りたい場合はどんなカメラが良いか?

②星空と人物撮影の様に、感度が高くて且つ被写界深度を深くして撮りたい場合はどんなカメラが良いか?

①被写界深度を深く且つ画質を良く撮れるカメラはどれか?

既にお伝えしました様に、同じ画素数であれば、被写界深度を同じにすれば、撮像素子が大きかろうが小さかろうが、画質は結局同じになります。

このため、被写界深度を深く且つ画質を良くして撮りたい場合は、お察しの通り(撮像素子が大きさには一切関係なく)画素数を減らすしかないのです。

一般的には撮像素子が大きければ画質は常に良いと思いがちですが、それは(小さな撮像素子のカメラより)被写界深度が浅い場合のときだけだったのです。

②星空と人物撮影に最適なカメラはどれか?

それでは次に、星空と人物の同時撮影の様に感度を高くして、且つ被写界深度を深くして撮りたい場合を考えてみましょう。


SONY α7S/F2.8/6秒/ISO12,800(高感度でも被写界深度が浅いと星がボケる)

この場合、同じ大きさの撮像素子であれば、(被写界深度は同じなので)当然ながら画素数の少ない方が高感度な分、有利になります。

一方画素数が同じであれば、(被写界深度と感度が相殺されるので)撮像素子の大きさに関わらずどれも同じと言えます。

ですが、ここにフルサイズの2600万画素とAPS-Cサイズの2400万画素のカメラが2台あったとすると、どちらが有利でしょうか?

この場合、じっくり考えないと簡単には判断できません。

そこで登場するのが、上の表の右側にある段数の和です。

これは、被写界深度の段数と感度の段数を足したものです。

これが何を意味するかと言えば、被写界深度の段数はフルサイズに対するアドバンテージ(有利なポイント)であるのに対して、感度の段数はフルサイズに対するディスアドバンテージ(不利なポイント)と言えます。

ですので、これを足したものが大きいほど、被写界深度が深くて感度が高いと言えます。

そこでフルサイズの2600万画素とAPS-Cの2400万画素の段数の和を見てみると、前者が-1.1なのに対して後者が-1.0ですので、APS-Cの2400万画素の方が0.1段分有利と言えます。

具体的には、APS-Cの2400万画素の方は、同じ被写界深度で同じ画質の状態から、更に0.1段絞りを絞って被写界深度を深くしたり、0.1段シャッタースピードを上げてブレを防いだり、0.1段ISO感度を上げて画像を明るくする事が可能になるという訳です。

ですので、星空と人物撮影に最適なカメラは、APS-Cの2400万画素の方だと言えます。

それが分かると、上の表で段数の和が大きなカメラはどれか知りたくなってくるでしょう。

という訳で、上の表を段数の和の大きい順でソートした結果が以下になります。

サイズ\項目 代表機種 画素数 被写界
深度段数
感度
段数
段数
の和
ISO感度
Micro4/3 Lumix GH5S 1000 2.0 -1.7 0.3 1999
1/1.7型 スマホ
コンデジ
1200 4.4 -4.3 0.1 321
1/2.3型 1200 4.9 -4.9 0.1 219
1/3型 1200 5.7 -5.6 0.1 128
1/3.2型 1200 6.0 -5.9 0.1 108
1/3.6型 1200 6.2 -6.2 0.1 89
1/4.6型 1200 7.0 -6.9 0.1 53
Full SONY α7S 1200 0.0 0.0 0.0 6400
Micro4/3 OLYMPUS PEN 1600 2.0 -2.4 -0.4 1249
Full Nikon D6 2000 0.0 -0.7 -0.7 3840
APS-C SONY α5000 2000 1.2 -2.0 -0.7 1636
APS-CC EOS 7D 2000 1.4 -2.1 -0.7 1460
Micro4/3 Lumix DC-G9 2000 2.0 -2.7 -0.7 1000
1型 SONY RX100 2000 2.9 -3.6 -0.7 516
Full SONY α7III 2400 0.0 -1.0 -1.0 3200
APS-C Nikon Z50 2400 1.2 -2.2 -1.0 1364
APS-CC EOS Kiss 2400 1.4 -2.4 -1.0 1217
Full EOS RP 2600 0.0 -1.1 -1.1 2954
APS-C Fuji X-T3 2600 1.2 -2.3 -1.1 1259
Full EOS 5D IV 3200 0.0 -1.4 -1.4 2400
Full Nikon Z7 4800 0.0 -2.0 -2.0 1600
被写界深度の段数と感度の段数の和(合計)でのソートした表

これをご覧頂きます様に、星空と人物撮影に最適なカメラも、撮像素子の大きさには一切関係なく、画素数が小さいほど良いという事になります。

ですので、トップはマイクロ4/3で画素数1000万画素の撮像素子を搭載したLumix GH5Sが最高峰と言えます。

 
プロ用動画機能を搭載した高感度モデルDC-GH5S

なお上の表で、1200万画素の小サイズ撮像素子(1/3.6型等)における段数の和が0.1で、1200万画素のフルサイズ撮像素子の段数の和が0になっているのは、縦横比の違い(被写界深度は対角線から求め、感度は面積から求めた)によるものですので、両者の差は殆ど無いと思って頂ければと思います。

とは言え、1200万画素のフルサイズと、スマホの1200万画素の1/3.6型とが同じ性能と聞けば、何方もそんな事はないだろうと思われるでしょう。

確かに無限遠の星空だけを撮るのでしたらフルサイズの方が断然有利なのですが、こと人物も一緒に撮るため被写界深度を深くするとなると、どちらも同じ性能で、同じ画質になってしまうのです。


星空と人物を一緒に撮る場合、撮像素子の大きさは関係なくなる

恐らく本書を読まれた方以外は、決して知らない事だと思いますので、是非ともしっかり理解して頂ければと思います。

またスマホに搭載された小さな撮像素子では星空は撮れないと思われるかもしれませんが、星空を撮る事は可能なのです。

実際既に製造中止になってしまいましたが、1/2.3型撮像素子を搭載したペンタックスQはシャッタースピード30秒が可能だったため、星空も簡単に撮る事が可能でした。


ペンタックスQ

スマホで星空を撮れないのは、シャッタースピードを1秒以上に設定できないためで、もし30秒のシャッタースピードを設定できれば、三脚に固定して星空を撮る事は可能なのです。

話はまたペンタックスQに戻りますが、初めて使ったときはどうみても玩具(おもちゃ)の様な外観でありながら、一眼並みの機能を備え意外に良く撮れるので、驚いた記憶があります。(ペンタックスQの詳細についてはこちら

今にして思えば、これがスマホ台頭の予兆だったのかもしれません。


まとめ


それではまとめです。

①フルサイズに対して1/2.3型の撮像素子は、同じ画角の同じ露出設定であれば、絞りの段数で4.9段も被写界深度が深い。

②同じ画素数であれば、フルサイズと1/2.3型の撮像素子を搭載した2台のカメラであったとすると、フルサイズの方が29倍(4.9段)高感度である。

③撮像素子のサイズの違いによる、被写界深度と感度は密接に関係しており、画素数が同じであれば両者は反比例する。

④被写界深度を深く且つ画質を良くして撮りたい場合は、お察しの通り(撮像素子が大きさには一切関係なく)画素数を減らすしかない。

⑤星空と人物撮影に最適なカメラも、撮像素子の大きさには一切関係なく、画素数が小さいほど良い。

⑥現状画素数の最も少ないカメラは、マイクロ4/3で画素数1000万画素の撮像素子を搭載したLumix GH5Sである。


ところで、たった今、画素数の最も少ないカメラはLumix GH5Sであると述べたのですが、実は更に画素数の少ないモデルが存在している事をご存知でしょうか?

正確には画角を同じにして、何と500万画素のカメラにする手があるのです。

それについてはこちらへ。




撮像素子の大きさと被写界深度と感度の関係
(星空と人物撮影に最適なカメラはどれか?)





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