標準出力感度と推奨露光指数の違い
2021/05/26:発行
1. はじめに
標準出力感度(Standard Output Sensitivity)と推奨露光指数(Recommended Exposure Index)をご存知でしょうか?
さほどメジャーな話ではないのですが、デジタルカメラのISO感度の表示方法にはこの2種類があり、カメラメーカーによって表示方法が異なるのです。
この件については、(面倒な事になりそうな予感がして)以前から深入りしない様に心がけていたのですが、とうとう首を突っ込まざるを得なくなってしまいました。
と言いますのは、APS-Cサイズ機以下の小サイズ機において、どれが一番高感度かを調べるために下にありますISO感度スパンのチャートを作成したのですが、奇妙な事に気付きました。
小サイズ機のISO感度スパン
それはペンタックスとフジフィルムのカメラで、他社機と明らかに異なる特徴が見られる事です。
どうやらそれが、この標準出力感度と推奨露光指数の違いに関連していそうなので、止む無く両者の違いを調べてみる事にしました。
その上で、果たしてカメラの高感度性能を、最大常用ISO感度の大小で判断しても良いかどうかについて考えてみたいと思います。
ペンタックスとフジフィルム
それでは早速、先ほどのチャートの気になる2点についてお話ししましょう。
チャートを見れば一目瞭然ですが、先ず1点目はどこのメーカーもISO感度については、減感と常用と増感の3種類に分けていながら、ペンタックスのカメラ(PENTAX K-3 Mark III等)は全てを常用ISO感度として扱っている事です。
ペンタックスにおけるAPS-Cサイズのフラッグシップ機となるPENTAX K-3 Mark III
それはまだ分かり易いのですが、2点目はフジフィルムのカメラ(FUJIFILM X-S10等)に至っては、APS-Cサイズ機でありながらマイクロ4/3機より最大常用ISO感度が劣る事です。
いくら何でも、そんな事は有り得ないでしょう。
もしかしたらフジフィルムは、X-Trans CMOS 4センサーと呼ばれる独特の配列のカラーフィルターを採用しているせいかと思われるかもしれませんが、一般的なベイヤー配列であるX-A7も同じく最大常用ISO感度は小さくなっています。
どうしてなのでしょう。
メーカー別の表示方法
それが、標準出力感度と推奨露光指数の違いに関係するかどうか、先ずはどのカメラメーカーがどちらのISO表示方法を採用しているのかを調べてみます。
気が付かれて方もいらっしゃるかもしれませんが、それはカメラの仕様書にしっかり明記されているのです。
これをメーカー毎にまとめると、以下の様になります。
ISO感度表示方法 | メーカー |
推奨露光指数 | キヤノン、ニコン、ソニー、シグマ |
標準出力感度 | リコー(ペンタックス)、フジフィルム、オリンパス、パナソニック |
当初はペンタックスとフジフィルムだけが異なると思っていたのですが、上の表の様にマイクロ4/3陣営のオリンパスとパナソニックも同じ標準出力感度を採用していいます。
ただしこの2社のISO感度を見る限り、特に不自然な事はありません。
標準出力感度と推奨露光指数の違い
そこまで分かった所で、いよいよ標準出力感度と推奨露光指数の違いです。
ネットで検索して早速ヒットしたのが、CIPA(カメラ映像機器工業会)のデジタルカメラの感度規定の概要書です。
何とも古めかしい書体ですが、これによると標準出力感度とはカメラの光感応性に基づいて規定される物理的な測定量で、推奨露光指数とはカメラの提供者による画質官能評価に基づく露出の推奨設定指標とあります。
となれば、両者は異なるものですので、単純に両者のISO感度を比べてはいけない事になります。
折角主要カメラメーカーが一堂に会して審議しながら、なぜどちらか一方に統一しなかったのでしょうか。
そもそも標準(standard)とは、相応の困難覚悟で複数ある規格を一つにまとめものなのですから。
そしてどうしても複数の規格を採用するのであれば、複数の規格に基づいた2種類のISO感度を表示しなければなりません。
ところが、仕様書には表示方法を明記すればどちらか一方のISO感度を表示すれば良いとありますので、これではユーザーが混乱してしまいます。
そう訝(いぶか)っていると、概要書は以下の様に続きます。
(両者は)概念的には異なるものであるが、カメラを使用する上ではその露出制御に関して大略類似の機能を果たし、いずれもそのカメラに必要な光量を示す実用感度を表す指標として相応(ふさわ)しいものである。
文中にある大略類似とは、”おおよそ同じ”という意味で間違いないでしょう。
すなわち、二つの規格は概念的には異なるものの両者は同じものとして扱っても良い、とCIPAは言いたいのです。
そんな訳で、確かにISO感度の表示方法は2種類あるものの、実用上は気にしないで両者を比較しても良い、と言えそうです。
標準出力感度と推奨露光指数の違いは違う?
ところがここでまた、玉石混合のネットで調べてみると、両者には違いがあるだの、推奨露光指数の方が0.3EV程度感度が高い傾向がある、との記事があります。
ただしこれら記事の信憑性には、甚だ疑問があります。
好意的に見れば、もしかしたらISO表示方法の異なるカメラを数台使って比較したらそんな傾向があったかもしれません。
ですが、本来両者の違いのみをみるのでしたら、同じカメラで標準出力感度と推奨露光指数の違いの両方の測定で比較なければなりません。
それを異なるカメラとレンズで比較したいとしても、その差が個体差か機種間の差か、はたまた表示方法の差かは誰にも分からないのですから。
標準出力感度と推奨露光指数の違いの測定方法の違い
そんな訳で、ようやく重い腰を上げてCIPAの規格書を読んでみました。
色々難しい式が書かれていますが、幣サイトなりに両者の違いを簡単にまとめると、以下の様になります。
標準出力感度とは、カメラをマニュアル設定にして決められた試験方法でISO感度を求める方法で、この通りに試験すれば標準出力感度が求められます。
一方推奨露光指数とは、カメラを自動露出設定してISO感度を求める方法です。
もっと端的に言えば、標準出力感度とは新たにISO感度を求める方法で、推奨露光指数とは従来のISO感度をそのまま使用できる様にしたと言えそうです。
生憎この差がどの程度あるかは不明ですが、恐らく標準出力感度は各メーカーの推奨露光指数に近づく様に規格化したでしょうから、両者はかなり近い値になるのは間違いないでしょう。
すなわち、一般的な使用においては、両者は同じものとして扱って問題ないという事です。
最大常用ISO感度
これで一件落着としたい所ですが、残念ながら本題はこれからです。
ご存知の様にどのカメラがどれくらい高感度かの判断は、どれくらいISO感度を上げてもノイズが許容レベルにあるかです。
このため幣サイトとしては、最大常用ISO感度でそれを判断しようと考えているのですが、では各メーカーは最大常用ISO感度をどうやって決めているのでしょう。
もしかしたら、CIPAが標準出力感度と推奨露光指数の違いと共に規格化しているのではないかと期待したのですが、生憎当該規格書にはそれらしい記述はありません。
そうなると最大常用ISO感度は、各メーカーが独自に判断している様に思われます。
ですが、同じ最大常用ISO感度でありながら他社と比べて明らかにノイズが出ていれば、ユーザーからクレームを受ける事になります。
また逆に、他社より明らかにノイズレベルが良いのを最大常用ISO感度とすれば、メーカーにとって不利になります。
となると自然淘汰で、必然的に似た様なノイズレベルで最大常用ISO感度が設定されるのではないでしょうか。
そんな訳で、幣サイトの結論としましては、カメラの高感度特性の比較は最大常用ISO感度を使って判断しても大きな間違いではないとしたいと思います。
ペンタックスとフジフィルム
ようやく佳境に近付いてきました。
ここまで分かってくると、それではなぜペンタックスとフジフィルムのISO感度は、他社機と異なっているのでしょう。
先ずペンタックスですが、これは以前から常用ISO感度だけしか表示していなかったので、その歴史を踏襲しているだけなのでしょう。
ですからもし最大常用ISO感度で他社機と比べたければ、作例写真を見て最大常用ISO感度を推測すれば比較が可能になります。
またフジフィルム機は、他社より辛めに最大常用ISO感度を設定している可能性もゼロではないものの、既にお伝えしました様に高感度特性は他社のAPS-Cサイズ機より劣るとフジフィルム自体も判断しているとみて良いのではないでしょうか。
まとめ
それではまとめです。
①ISO感度の表示方法には、標準出力感度と推奨露光指数の違いの2種類あるが、一般的な使用において両者は同じものと扱って問題はない。
②最大常用ISO感度は各メーカーが独自で決めている様だが、それを基にして高感度特性を比較しても大きな間違いではない。
③ペンタックスは、他社と異なりISO感度を全て常用ISO感度として扱っているが、作例写真を見れば凡その最大常用ISO感度を推測できる。
④フジフィルムは、他社より最大常用ISO感度が劣る数値になっているが、これはフジフィルム自体も高感度は他社より劣ると認めていると判断できる。
こんなまとめで宜しいでしょうか。