決して買ってはいけない中国製フィルター
(知られざるピンボケ画像の原因)
2019/10:発行
はじめに
よもやこんなにも画像に影響するとは、今の今まで全く知りませんでした。
先ずは下の写真をご覧頂けますでしょうか。
EOS R + RF85mm F1.2 L USM + ND4(F1.2/1/500秒/ISO100)
これはキヤノンのEOS RにRF85mm F1.2 L USMを装着して、屋外で人物を撮影した際の瞳部分の等倍写真です。
撮影に使ったEOS R + RF85mm F1.2 L USM + ND4フィルター
折角高いレンズを使ったのにも関わらず、これは明らかにピンボケした失敗写真です。
おまけに、瞳に写った点光源が線状になっている事から、どうやら手ブレ(もしくは被写体ブレ)まで起こしています。
と誰でも思うでしょうが、調べてみると原因は何と別の所にあったのです。
もしかしたら貴方も気付かずに同じ様な間違いをしている可能性がありますので、是非最後までお読み頂ければと思います。
再現試験
先ほどの失敗写真を見て先ず疑問に思ったのが、なぜ1/500秒のシャッタースピードで撮っていながらこんなにもブレているかです。
いくら85mmの中望遠と言えども、これだけブレが発生するのが解(げ)せません。
ちなみにこの瞳の中に見られる点光源のブレに気が付かなければ、恐らく今回の真の原因には辿(たど)り着けなかったでしょう。
また全画素をAFセンサーとして使用できるEOS RのデュアルピクセルCMOS AF性能が、F1.2の開放とは言えこんなにもピントを外すとも思えません。
と言う訳で、どうすればこのブレを抑えられるのかをメインに、早速調査を開始します。
被写体は屋内のテストチャートが良いのかもしれませんが、太陽光と同じ明るさの照明もありませんし、極力人物と同じ条件で尚且つ被写体ブレも考慮したいと思い、屋外の風に揺れる花を絞りとシャッタースピードを変えて手持ちで撮ってみる事にしました。
EOS R + RF85mm F1.2 L USM + ND4フィルター
上の写真は約3m先にある花(ハイビスカス)をファインダーの中央に捕えて、前述の人物と同様にAFで撮影した写真を等倍にして抜き出したものです。
するとどうでしょう。
何と一番左側にあるF1.2の写真を見ると、1/8000秒でも画像がブレているではありませんか。
このブレによってF1.2の画像はとんでもなく不鮮明な画像で、絞ると多少良化するもののF8.0でもまだすっきりしません。
そしてもう一つ特徴的な事があります。
それは、ブレ方向がどれも同じ斜め45度という事です。
気付かれたかもしれませんが、最初にお見せした瞳に映った点光源のブレとも同じ方向です。
瞳に映った点光源も斜め45度方向にブレている
本来ブレはランダムに発生する筈なのに、どれもブレ方向が同じという事は原因は一つです。
すなわちこのレンズが、点光源が斜め45度方向に流れる特性を持っているという事です。
でも本当にそうなのでしょうか?
今回使用したRF85mm F1.2 L USMのレンズは、下のMTFチャートを見る様にぶっちぎりの高性能レンズです。(詳細はこちらへ)
Canon RF85mm F1.2 L USMのMTF
おまけにこの花は、レンズの中心部で撮影していますので、どうみても本来の性能からかけ離れています。
という訳で、次にカメラを三脚にセットし、マニュアルフォーカスでピントを合わせ、もうこれ以上良くはできないという条件で同じ花を撮影してみます。
ベスト画像
下の写真がそのベスト画像です。
EOS R + RF85mm F1.2 L USM + ND4フィルター(F1.2 1/8000秒)
やはり斜め45度方向にブレが発生しています。
ちなみにF4.0は以下の通りで、前回の手持ちの写真より多少良くなった様に見えない事もないのですが、F1.2が酷い事を考えればとでも納得できるレベルではありません。
EOS R + RF85mm F1.2 L USM + ND4フィルター(F4.0 1/8000秒)
これで諦め様としたのですが、念のため距離を変えて別の花を撮ってみようと思ったそのときです。
とんでもない事が起きたのです。
劇的な変化
それが以下の写真です。
EOS R + RF85mm F1.2 L USM(F1.2 1/8000秒)
いきなりブレが無くなったのです。
この変化は、(マニュアルフォーカスのため)倍率を上げたファインダーを覗いただけ気が付くほどの劇的な変化でした。
一瞬、画像が良化したのは距離が変わったからだと思ったのですが、違いました。
周囲が多少暗くなってきたので、それまで付いていたNDフィルターを外したからなのです。
ここまでお伝えしたら、もう多くの説明は不要でしょう。
このブレ画像の原因は、全てこのNDフィルターだったのです。
粗悪NDフィルター
正直な所、フィルターは光学系に殆ど影響を与えない単なる板ガラスなので、そんなに大きな差は無いと思い込んでいたのですが、こんなにも画像に影響を与えるとは夢にも思いませんでした。
言い訳になりますが、従来フィルターと言えばケンコーやハクバ等の大手国産メーカー、あるいはニコンやキヤノンの様な純正品しか国内では流通していませんでしたので、フィルターに大きな差はないという認識に大きな間違いではなかったのかもしれません。
ところが最近になって、中国製の格安フィルターが出回ってきているにも関わらず、それらの商品に関する正確な情報が乏しかったのかもしれません。
念のために当該NDフィルターを見ると、Zomeiなる英語名が記されていますが、江蘇省にある中国企業の製品です。
Zomeiの82mm ND4フィルター
また目視で見る限り、ガラス表面が波を打っているとか、ガラス内部に脈理(屈折率の異なる部分)がある様にも見えないのですが、表面を蛍光灯で照らしてみると、下の写真の様に明らかにコーティングのムラが見て取れます。
Zomeiの82mm ND4フィルターに見られるコーティングのムラ
このコーティングがどんなものかは不明ですが、恐らくこのコーティングに光学性能に影響を与える様な方向性があり、前述の写真においては斜め45度方向の点光源をスジ状にする働きがあるのでしょう。
そしてそんな粗悪な製品を、何の評価も検査もすることなく、海外に輸出して暴利を貪(むさぼ)っているのでしょう。
そしてその製造ノウハウだけは、海外メーカーから無償で得ているのです。
大口径レンズほど、フィルターの汚れに気を付けろ
2019/10/23:追記
そして今回もう一つ分かった事があります。
それは大口径レンズ、すなわち開放値の明るいレンズほど、フィルターの汚れが目立ち易いという事です。
本来ならば開放値の明るいレンズほど、被写界深度が浅くなるので、フィルターの汚れは目立たなくなるはずですが、(光学的な理由は不明ですが)何故か逆になる様です。
実はこれに似た経験を以前した事があります。
それが以下の写真です。
85mm F2.8 1/90 ISO2000
これをご覧頂きますと、玉ボケの中にポツポツした汚れがあるのが分かりますが、調べてみるとこれはフィルターに付いた汚れだったのです。
この事からも、どうも近距離にあるフィルターであっても、画像に影響を与えるのは間違いなさそうです。
という訳で、明るい大口径レンズほどフィルターの汚れには気を付けた方が良さそうです。
まとめ
まとめです。
中国製のフィルターは決して購入してはいけません。
特に明るいレンズほど画像に影響を与えますので、決して使ってはいけません
そう言うと、中国製のフィルターを十把一絡げ(じゅっぱひとからげ)に不良と扱うのはいかがなものか、と言われるかもしれません。
ですが、それが嫌なら自国の関連団体でこの様な粗悪品に規制を掛ければ良いのです。
それまでは決して購入してはいけません。
そして明るい大口径レンズほど、フィルターの汚れには気を付けなければないりません。