電子先幕シャッターでボケ欠けを防ぐボーダーライン

2020/12/01:発行
2022/01/16:更新

はじめに


電子先幕シャッターを使って大口径レンズで高速シャッターを切ると、ボケ欠けが発生するのは既にご存知の話でしょう。


ボケ欠けの発生した写真

だったら電子先幕シャッターを使わなければよいのですが、電子先幕シャッターは1枚撮影(単写)時における先幕シャッターの振動を抑え(正確には無くし)、尚且つタイムラグも短くできるので、一概に毛嫌いする訳にもいきません。

何しろEOS R5やR6は、電子先幕シャッターがデフォルトになっているくらいなのですから。

これに伴って、以前”EOS RPにおけるボケ欠け回避策”なる記事を書いたのですが、そのとき使用したカメラは電子先幕シャッターと電子シャッターしかないEOS RPとRF50mmF1.2L USMの組み合わせでした。


前回試験したEOS RPとRF50mm F1.2L USMの組み合わせ

今回RF35mm F1.8を入手したため、それでも電子先幕シャッターでボケ欠けが発生するか、EOS R6に付けて確認してみました。

その結果、レンズの種類に関わらず電子先幕シャッターを問題なく使えるシャッタースピードと絞り値のボーダーラインが見えてきましたので、それをお伝えしたいと思います。


前回までのあらすじ


それでは先ず、前回行いましたEOS RPとRF50mm F1.2L USMにおけるボケ欠け試験のまとめを、以下にお伝えしておきます。

①EOS RPにF1.2レンズを装着して、開放で1/4000秒のシャッタースピードで写真を撮ると、玉ボケに顕著なボケ欠けが発生する。

②ただし点光源の様な目立つ玉ボケがなければ、普通の画像ではボケ欠けを認識するのは難しい。

③電子先幕シャッターによるボケ欠けは、シャッタースピードが速くなればなるほど発生し易く、50mm F1.2レンズの場合1/500秒以下で許容レベルになる。

④背景ボケの場合ボケの下側が欠け、前景ボケの場合ボケの上側が欠ける。

⑤絞りが同じであれば、背景ボケ、前景ボケ、更にはボケの大きさに関わらず、シャッタースピードへの依存度は同じである。

⑥上記結果から、レンズの焦点距離を変えても同じ様な傾向になると推測される。

⑦絞りを1段絞るのと、シャッタースピードを1段遅くするのとは、ほぼ同じ程度ボケ欠けが良化する。

⑧EOS RPの場合、ボケ欠けが許容できる絞りとシャッタースピードの関係は以下の通りである。

シャッタースピード
絞り 許容 渋々許容
F1.2 1/500秒 1/1000秒
F2.0 1/1000秒 1/2000秒
F2.8 1/2000秒 1/4000秒
F4.0 1/4000秒 1/4000秒

⑨故にF4.0より暗いレンズであれば、(ISO感度を不必要に上げない限り)本問題は発生しないと思って良いが、F2.8以上の明るいレンズを開放で使う場合は、上表にあるシャッタースピード以内で使う必要がある。

⑩上記表のシャッタースピードに対応するため、F1.2のレンズであればND8、F2.0のレンズであればND4、F2.8のレンズであればND2のフィルターを付けておけば、取り敢えず本問題は回避できる。

少々長いのですが、要約すれば例え大口径レンズを開放で使っても1/500秒より遅いシャッタースピードであればボケ欠けは回避でき、F4まで絞れば1/4000秒でもボケ欠けは発生しないという事でした。

では今回はどんな結果になるでしょうか?

なお先にお断りしておきますと、前回使用したEOS RPのシャッタースピードは最高速1/4000秒でしたが、今回使用したEOS R6は一般的な1/8000秒という差があり、今回の方がボケ欠けが発生し易くなっています。


RF35mm f1.8の試験結果


それではEOS R6にRF35mm f1.8を付けて、ボケ欠けの試験をやってみます。

前回は遠くにある点光源を、レンズのピントを最短距離にして背景ボケとして撮影したので、かなり奥行のあるスペースが必要でした。

しかしながら前回の試験において、ボケ欠けは前景ボケでも背景ボケでも同じ傾向にある(ただし上下が逆になる)事を確認しているため、今回は思いっきり省スペースでレンズから10cmほど手前にある点光源を(レンズのピントを無限遠にして)前景ボケとして撮影しています。

前置きが長くなってしまいましたが、その結果が以下になります。


EOS R6(電子先幕シャッター)とRF35mm F1.8 MACRO IS STMのボケ欠け確認結果

これをご覧頂きます様に、F1.8の絞り開放においては、1/8000秒のシャッタースピードでは顕著なボケ欠けが発生しますが、1/500秒でほぼ許容レベルになります。

この結果を見て、広角レンズではボケ欠けは発生し難いと思われていた方は、さぞやがっかりされた事でしょう。

ただし後ほどご紹介する手持ち花火の撮影で、この35mmレンズを開放(F1.8)の1/500秒で使う機会があるのですが、この結果から電子先幕シャッターを使っても問題ない事が分かります。

また絞りをF4まで絞れば、1/4000秒のシャッタースピードでもボケ欠けが発生しない事が分かります。

そんな訳で、上の図の赤線が電子先幕シャッターを問題なく使えるボーダーラインになりそうです。

更に(前回と同様に)これを表にすると、以下の様になります。

シャッタースピード
絞り 許容 渋々許容
F1.8 1/500秒 1/1000秒
F2.0 1/1000秒 1/2000秒
F2.8 1/2000秒 1/4000秒
F4.0 1/4000秒 1/8000秒

これを前回の試験結果と比べてみると、50mm F1.2のレンズをF2まで絞って許容できたのは1/1000秒、F2.8で1/2000秒と、今回の35mmの試験結果と全く同じ結果になっています。

そんな訳で、ボケ欠けの程度は焦点距離に関係なく、あくまでも絞り値とシャッタースピードのみに関係するのではないかと(前回の試験から)推測しているのですが、それを確認するため、次にRF85mm F1.2を使って同じ試験をやってみたいと思います。


RF85mm f1.2の試験結果


そのEOS R6にRF85mm F1.2を付けて試験した結果が、以下になります。


EOS R6(電子先幕シャッター)とRF85mm F1.2L USMのボケ欠け確認結果

これも先程と同じ様に、レンズの直前に点光源を置いて、前ボケになる様に撮影しています。

これをご覧頂きます様に、この場合もボーダーラインは同じ位置に引けますので、推測通りボケ欠けはレンズの焦点距離には直接関係しないと断言して良さそうです。

また前回の試験のまとめでもお伝えしました様に、絞りを1段絞るのと、シャッタースピードを1段遅くするのとは、ほぼ同じ程度ボケ欠けが良化するのも間違いなさそうです。

となると全域F4通しのRF24-105mm F4L USMでは、1/4000秒より遅いシャッタースピードを使う限りボケ欠けは発生しない事になります。

となれば、この推測が正しいかどうか、実際に試してみるしかありません。

なおその前に、折角ですので上の写真のF1.2とF2.0のボケの大きさを見比べてみて頂けませんでしょうか。

ご存知の様に、現在キヤノンから85mm F1.2と85mm F2.0のレンズが発売されています。


RF85mm F1.2L USM


RF85mm F2 MACRO IS STM

この2本のレンズの開放値の差はEV値で1.5段ですが、開放時におけるボケの大きさ(直径)はこの様に1.7(=2÷1.2)倍も異なる事になるのです。

これをF1.2~F2.0までの絞り値を入れて表にすると、以下の様になります。

絞り値 段数の差 ボケの大きさ
F1.2 1.5段 1.7倍
F1.4 1段 1.4倍
F1.8 0.3段 1.1倍
F2.0 0段 1倍
F2.0を基準にした段数とボケの大きさの差

それを知ると、(ボケ好きの方でしたら)多少無理をしてでもF1.2のレンズを手に入れたいと思われるのではないでしょうか。

ちなみにこの関係は、(85mmに限らず)全ての焦点距離のレンズにおいても、当てはまります。


RF24-105mm F4L USMの試験結果


さて、下が先程お伝えしましたRF24-105mm F4L USMで試験した結果になります。


EOS R6(電子先幕シャッター)とRF24-105mm F1.2L USMのボケ欠け確認結果

今回はF4でボケ欠けが発生するかどうかが主題ですので、全て絞りF4で撮影しています。

これをご覧頂きます様に、今までと同じ様に1/8000秒で僅かながらボケ欠けが発生するものの、1/4000秒でボケ欠けの許容レベルになるのが分かります。

そんな訳で、開放値F4クラスのレンズでは電子先幕シャッターを使えるものの、点光源のある撮影では1/8000秒だけは避けた方が良さそうです。

ところで上記試験では、ズーム操作でレンズの全長が伸びるため、(今までと違って)焦点距離を変える度にレンズに接触する距離に点光源を移動しています。

すなわち、レンズ先端から被写体までの距離は同じながら、撮像素子までの距離は変化しています。

それで興味深いのは、24mm F4にすると点光源がレンズに当たるほど近くにあっても、ボケはこの程度の大きさにしかならない事です。

このため、下の写真の様にどんなに花火の火の粉にレンズを近づいても、24mm F4では下の様な写真は決して撮れないという事になります。


24mm F4では決して撮れない大きな花火ボケ(写真は35mm F1.8 1/500秒で撮影)

もう少し解説しますと、上の写真は35mm F1.8のレンズを開放にして撮っているのですが、人物の上半身しか写せないので、いつか24mmで全身を入れて撮ってみようと思っていたのですが、24mm F4ではこの様には火の粉はボケないと図らずも認識してしまった次第です。

もし24mmで上の写真の様にボカスには、24mm F1.4程度のレンズが必要になりそうです。


まとめ


それではまとめです。

①35mm F1.8や85mm F1.2の様な明るいレンズで高速の電子先幕シャッターを使うと、開放付近で顕著なボケ欠けが発生する。

②ただし1/500秒以下のシャッタースピードであれば、ボケ欠けは許容レベルになる。

③また絞りをF5.6以上に絞れば、1/8000秒であってもボケ欠けは許容レベルになる。

④上記②③については、レンズの焦点距離には依存しない。

そんな訳で、レンズの種類に関わらず1/500秒とF5.6が電子先幕シャッターを使えるボーダーラインだと覚えておけば何かと便利ではないでしょうか。

なお、これはあくまでもEOS R6の場合なのですが、撮像素子とメカシャッターのクリアランス(間隔)はどの機種も大した差はないでしょうから、どれも似た様なものと思って大きな間違いではないでしょう。




電子先幕シャッターを使えるボーダーライン





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