Apple ProRAWの実力
2020/12/26:発行
はじめに
既にご存知かもしれませんが、iPhone 12からAppleの純正カメラアプリにおいて、写真のRAW出力が可能になりました。
Apple ProRAWの出力が可能になったiPhone 12
以前からサードパーティー製のカメラアプリを使用すれば、iPhoneでもRAW出力はできていたのですが、今回はAppleの純正カメラソフトでもRAW出力が可能になったという訳です。
その名もApple ProRAW。
となると、カメラファンの方もAppleファンの方も、俄然iPhoneのRAWファイルに興味を持たれるのではないでしょうか?
どんなに綺麗な写真が撮れるのだろうかと。
そんな訳で、今回はiPhoneのRAWファイルについて、フルサイズカメラのRAWファイルと比べながらお話ししてみたいと思います。
RAWファイルとJPEGファイルの違い
初めに誤解の無い様にお伝えしておきますと、iPhone 12のRAWモードで撮った写真と、同じくJPEGモードで撮った写真を見比べても、当然ながら何の差もありません。
なぜならば、JPEGモードで撮影した場合は、カメラで撮った画像をそのままJEPGファイルに変換してモニターに映し出しているからです。
モード | 撮影からモニター出力までの流れ | ||||||
JPEG | カメラ | → | → | → | JPEGファイル | → | モニター |
RAW | カメラ | → | RAWファイル | → | JPEGファイル | → | モニター |
一方RAWモードで撮影した場合、カメラが撮った画像は一旦RAWファイルに保存されます。
ところがRAWファイルには、カメラが読み込んだ光の量をA/D変換しただけのデータが入っていますので、そのままでは画像として表示できません。
このため、上の図の様にカメラ撮った画像を一旦RAWファイルに保存した後、それをさらにiPhoneがJPEGファイルに変換してモニターに表示しているのです。
このため、RAWモードで撮った写真とJPEGモードで撮った写真が、同じになるのは当然の事です。
ちなみにこのRAWファイルをJPEGファイルに変換する事を、現像と呼んだりもします。
ならば、JPEGファイルに対するRAWファイルの優位性は何かと言いますと、後ほど詳しくご説明しますがRAWファイルにはJPEGファイルでは使われなかった明るい部分と暗い部分のデータが残っているという事です。
そしてこのカメラが撮る事ができる明るい部分から暗い部分までの範囲(すなわちRAWファイルが持っている明るさの範囲)を、ダイナミックレンジと呼びます。
このため、JPEGファイルは後で明るさや色味を変えるどんどん画質が劣化しいくのに対して、RAWファイルを現像して明るさや色味を変えても、変換後のJPEGファイルの画質は劣化しないという事です。
まとめますと、RAWファイルは後で画像を調整する場合においてのみ、JPEGファイルより優位性であり、更にRAWファイルが持っているダイナミックレンジの幅が広いほど、画像の調整代が大きくなるという訳です。
ここまで知って頂いた所で、次に進みます。
ダイナミックレンジ
それでは、iPhoneのRAWファイルとフルサイズのカメラのRAWファイルが持っている明るさの範囲、すなわちダイナミックレンジの違いをお伝えしたいと思います。
下がそれぞれのダイナミックレンジを表したチャートになります。
これをご覧頂きます様に、フルサイズのカメラのダイナミックレンジが15段だとしますと、iPhoneのダイナミックレンジは11段ほどになります。
この11段分の明るさの情報が、iPhoneのRAWファイルの中に入っているという訳です。
一方JPEGファイルの中には、モニターに自然に表示できる様に7段分のダイナミックレンジのデータが入っています。
ここで以前お伝えしました、RAWファイルにはJPEGファイルでは使われなかった明るい部分と暗い部分のデータが入っている、というのを思い出して頂きたいと思います。
iPhoneのRAWファイルのダイナミックレンジが11段なのに対して、JPEGファイルのダイナミックレンジは7段ですので、差し引き4段のダイナミックレンジは使われていなかった事になります。
ところがRAWファイルの中には、11段分のダイナミックレンジが入っていますので、後でRAWファイルを現像する事によって、使われなかった4段分のダイナミックレンジを使って画像を調整できるのです。
もっと正確に述べますと、RAWファイルを現像する事によって、JPEG画像を明部側に2段階、暗部側に2段階、画像を劣化させる事なく調整できるという訳です。
一方フルサイズのカメラのRAWファイルには、15段分のダイナミックレンジの情報が入っていますので、明部側に4段、暗部側に4段の調整ができる事になります。
更に専門的なお話をさせて頂くと、ダイナミックレンジの上下両端のデータは、リニアリティーが中央部分より劣るので、1段程度は差し引いて考えておいた方が良いかもしれません。
すなわち、現実的な所ではフルサイズのカメラでしたら±3段、iPhoneでしたら±1段の明るさ調整代しかできないと思った方が無難です。
これでApple ProRAWの実力をご理解頂けましたでしょうか?
まとめ
それではまとめです。
①iPhone 12からRAWファイルを出力できる様になったが、後で明るさ等を調整しなければ、モニターに表示される画像はJPEGモードで撮ったのと同じになる。
②フルサイズカメラのRAWファイルを調整して明るさを調整できる範囲は±3段程であるのに対して、iPhoneの調整代は±1段程度である。
③RAWファイルはJPEGファイルより数倍容量が大きくなるので、もし後で画像を調整するのでなければ、JPEGモードのままにしておいた方が無難である。
以上ですが、少しはお役に立ちましたでしょうか。
Apple ProRAWの実力