α9は期待したほどではなかった13の理由
2015/06:発行
目次
1. はじめに
長い間噂になっていた、SONYのα9がついにベールを脱ぎました。
SONY α9(2017/5発売)
そして、見事に予想を外してしまいました。
実は本サイトでもα9のスペック予想を行ったのですが、恐らくα9は(α99 IIと同じ様な)高画素/高速対応のミラーレス一眼に違いないと、基本コンセプトの時点で完全に読み間違えていました。
何と実際のα9は、EOS-D1 X IIやNikon D5をターゲットとした、高速対応に特化したモデルだったのです。
EOS-D1 X II |
α9 |
Nikon D5 |
そしてその価格と完成度たるや、それらのライバル機達を完全に凌駕していると言っても言い過ぎではない程の出来栄えです。
と一瞬思ったものの、冷静に考えてみれば、それほど画期的と言えるものではありませんでした。
一体何故そう言えるのか、ライバル機と見比べながら述べたいと思います。
2. 実は動画だった秒速20コマの連写性能
誰もが同じだと思いますが、先ず驚かされたのは、その連写性能です。
今までのフルサイズカメラにおける最速の連写性能は、EOS-D1 X IIの秒速16コマで、次がNIKON D5の秒速14コマだったのですが、α9は何といきなり脅威の秒速20コマを達成したのです。
機種 | 最高速 | AF追随 |
α9 | 20コマ | 20コマ |
EOS-1D X II | 16コマ | 14コマ |
NIKON D5 | 14コマ | 12コマ |
EOS-1D X | 14コマ | 12コマ |
α99 II | 12コマ | 12コマ |
α77 (APS-C) | 12コマ | 12コマ |
NIKON D4S | 11コマ | 11コマ |
EOS 5D III | 6コマ | 6コマ |
α99 | 6コマ | 6コマ |
D810 | 5コマ | 5コマ |
α7 | 5コマ | 2.5コマ |
α7R II | 5コマ | 2.5コマ |
EOS 5Ds | 5コマ | 5コマ |
またEOS-D1 X IIの場合、AF/AE追従では秒速14コマに落ちるのですが、α9では秒速20コマでもAF/AE追従可能なのです。
EOS-D1 X IIが発表されたのが、昨年のブラジルオリンピック直前である2016/4でしたが、そのスペックを見た当時α9を開発中のソニー開発陣が、こう言ってほくそ笑んだのは間違いありません。
「2000万画素でたったの秒速16コマか、こっちは2400万画素で20コマだぜ」
「ミラーをパタパタさせる一眼レフで、ミラーレスを超える事は、金輪際できないぜ」
と。
「ミラーをパタパタさせる一眼レフで、ミラーレスを超える事は、金輪際できないぜ」
と。
スポーツの報道関係者以外で秒速20コマを必要とするシーンがどれだけあるかという話もありますが、いざとなったときに使えるのは確かに魅力です。
身近な例であれば、ビーチでのジャンプシーンでも、或いはテニスのラリーシーンでも、今までは捉えきれなかった奇跡の1枚が撮れるかもしれません。
高速連写が有効なビーチのジャンプシーン
さて、ここまでですと良い事づくめで画期的な性能の様に思えるのですが、じっくり考えるとそうでもありません。
そう思う理由の一つは、この高速連写は電子シャッターを使っているからです。
ミラーレス機ですので、当然ミラーの上下動作は無いのですが、電子シャッターとなると、メカシャッターも動かないので連写中は全く無音なのです。
そして、この無音の連写と聞いて、何か頭を過(よぎ)る事がありませんでしょうか?
そうです。
動画です。
ご存じの様に、電子シャッターを使って1秒間に20~120枚の静止画を集めたのが動画です。
ですので、α9の電子シャッターによる秒速20コマの高速連写とは、言い換えれば20fpsでフルサイズ2400万画素の全画素読み出し動画撮影と同じ事なのです。
恐らくSONYとしては、今後この新撮像素子を使った6K(1800万画素)対応のビデオカメラを作るのは間違いないでしょう。
α9の新撮像素子は6Kビデオカムにも使われるかもしれない
となると、α9の高速連写機能は(画素数は上回りますが)この6Kビデオの簡易版(短時間版)とも言えない事はないのです。
キヤノンやニコンのフラグシップ機の様にスチールカメラの超高速連写機能だと思ったら、実はビデオカメラの動画切り出し機能だったと聞くと、かなりがっかりではないでしょうか?
ついでにお伝えすると、先ほど金輪際一眼レフでミラーレスの連写性能を超えられないと書きましたが、これも大間違いです。
例え一眼レフであっても、ミラーアップしてライブビューモードにすれば、同じ様に電子シャッターを使って秒速20コマを達成する事は可能です。
一眼レフであってもライビューモードにすれば秒速20コマは可能
恐らく東京オリンピックに登場する次期キヤノンとニコンのフラッグシップ機は、ミラーアップ(ライブビューモード)での高速連写機能を搭載するのは間違いないでしょう。
そしてこの時、ファインダーでもモニター画像を見れる様にしたいと色々苦労している最中なのでしょう。
3. 実は最速ではない秒速20コマ
そこまで知って頂いた所で、次はその連写速度自体も大した事ではない、とお伝えしなければなりません。
ご存じだったでしょうか?
実は前述のEOS-1D X IIにおいても、既に秒速60コマの4Kフォト(4K動画切り出し)が可能なのです。
それでも4Kフォトは所詮800万画素程度ですので、2400万画素であるα9のアドバンテージはかなり高いと思われるでしょう。
ですが、画素数が1600万画素になるものの、下のルミックスのDMC-GH4においては既に秒速40コマ(AF追随で7コマ)の高速連写が可能なのです。
秒速40コマの連写可能なルミックスDMC-GH4
それで驚いてはいけません。
パナソニックと同じ4/3陣営のオリンパスOM-D E-M1 Mark IIは、AF固定ながら2000万画素で何と秒速60コマ(AF追随で18コマ)を既に達成しているのです。
OM-D E-M1 Mark IIはAF固定で秒速60コマ、AF追随で秒速18コマに対応
まだあります。
今までは高級カメララでしたが、1インチ撮像素子を搭載したニコンのJ5は、初心者向けでありながら1800万画素で秒速60コマを達成しているのです。
秒速60コマのNikon 1 J5
フルサイズという縛りを除けば、α9以上に連写速度の早い機種は、下の表の様に既にいくらでも存在しているのです。
機種 | 撮像素子サイズ | 画素数 | 最高速 | AF追随 |
OM-D E-M1 II | 4/3 | 2000万画素 | 60コマ | 18コマ |
Nikon 1 J5 | 1インチ | 1800万画素 | 60コマ | 20コマ |
EOS-1D X II | 27x14mm領域 | 800万画素 | 60コマ | 60コマ |
DMC-GH4等 | 4/3 | 1600万画素 | 40コマ | 7コマ |
α9 | フルサイズ | 2400万画素 | 20コマ | 20コマ |
EOS-1D X II | フルサイズ | 2000万画素 | 16コマ | 14コマ |
NIKON D5 | フルサイズ | 2000万画素 | 14コマ | 12コマ |
これを知ってしまうと、α9の秒速20コマも一気に霞んでしまうのではないでしょうか?
4. 決して秀でていない連続撮影可能枚数
α9の連続撮影可能枚数については、バッファメモリーの大容量化等で、秒速20コマにおいても圧縮RAWで241枚、JPEGで362枚の連続撮影が可能との事です。
ですので、圧縮RAWならば秒速20コマで12秒間、JPEGならば18秒間も撮り続ける事ができます。
と聞くと凄いと思われるかもしれませんが、これもそれ程の事ではありません。
例えば2000万画素のEOS-D1 X IIでしたら、秒速16コマながらRAWで170枚(11秒)、JPEGなら無制限で連続撮影が可能です。
また前述のルミックスDMC-G7でしたら、4Kフォト(800万画素の秒速30コマのJPEG)で無制限の連続撮影が可能です。
いずれも画素数はα9より劣るので単純比較はできませんが、α9が断トツに優れている訳ではない事は分かって頂けると思います。
5. 目には優しいブラックアウトフリー
またSONYでは、高速連写中にファインダーが暗くならない事を売りしています。
ですが、これもビデオカメラだと考えれば当然の事です。
確かに一眼レフの場合、連写中にミラーが上下する関係上、どうしてもファインダーが何度も瞬間的に真っ暗になるのですが、目には残像が残るので被写体は追えますし、常時見えた所で何か対処できる訳でもありません。
スチールカメラの場合、狙った瞬間を撮りますが、ビデオカメラの場合、何かが起きる事を期待して撮り続けるだけです。
一瞬暗くならない事は、確かに人体には優しいかもしれませんが、だからと言ってそれでスチール写真にアドバンテージが生じるとは思えません。
SONYのα9発表資料には、ブラックアウトフリーに関して以下の記述がありますが、残念ながらそこまでの価値は見出せません。
被写体の動きが高速かつ不規則なスポーツ撮影に加えて、被写体の表情の変化を一瞬でも見逃したくないポートレート撮影など、様々なプロの現場において、これまでにない撮影体験を提供します。
ブラックアウトフリーについては、ビデオカメラだから当然でしょう、といった感じです。
ついでに言っておきますと、(殆ど知られていませんが)同じSONYのミラーレス機であるα7R IIやα6300においては、メカシャッターの高速連写中にブラックアウトしない仕様になっています。
6. 見方を変えると重い673g
とは言いながら、α9の大きさは確かに魅力的です。
α9を縦位置グリップ一体型のEOS-D1 X IIと比べると、こんなにも小さいのです。
上の写真を見ると、大きさの違いを幾分誇張していると思われるかもしれませんが、マウントの径がほぼ同じである事から、誇張がない事を分かって頂けると思います。
ちなみに寸法と重さ(電池、メモリーを含む)は以下の通りです。
機種 | EOS-1D X II | NIKON D5 | SONY α9 |
サイズ (体積比) |
158 × 167.6 × 82.6mm (3) |
160 × 158.5 × 92mm (3) |
126.9×95.6×63mm (1) |
質量 (重量比) |
1530g (2) |
1415g (2) |
673g (1) |
バッテリー | 185g | 186g | 83g |
上の表をご覧頂きます様に、単純計算による体積比はEOS-1D X IIとNIKON D5が3に対して、α9が1です。
一方、重量比はEOS-1D X IIとNIKON D5が2に対して、α9が1です。
体積比が3:1にも関わらず重量比が2:1と言う事は、密度比は2:3となりα9の密度が最も高いという事になります。
グリップの出っ張り量の違いもあるのですが、従来のデジタル一眼レフには以下に無駄な空洞分(フラジバック)があるかが分かります。
確かにここまでですと、α9の673gが断トツに魅力的です。
ですが、前述の1600万画素で秒速40コマが可能なルミックスDMC-GH4の重さは560gです。
そして数年以内に1800万画素の6Kフォトを搭載してくるのは間違いないでしょう。
更に2000万画素で秒速60コマを達成したオリンパスのOM-D E-M1 Mark IIは、574gです。
スポーツ撮影において背景のボケにこだわる必要は全くありませんので、α9と重さ(673g)を比較するには、これらの機種かもしれません。
となると、小型軽量の魅力も一気に色褪せてしまいます。
7. 未知数のAF性能
本書が最も気になったのが、AF性能です。
何故かと言えば、α7SのAF性能が飛んでもなく酷(ひど)かったからです。
詳しい事はこちらを見て頂くとして、理論上コントラストAFは位相差AF以上に合焦精度は高い筈なのですが、α7Sに85mm F1.4 GMレンズを付けて開放で撮ると、AFでまともにピントが合わないのです。
ボケ易い85mm F1.4 GM
もしかしたら、α7Sの開発当時にはボケ易い85mm F1.4 GMレンズの試作品すら無かったのかもしれませんが、それにしても被写界深度の非常に浅いレンズには全く以て対応できない未熟なAFでした。
被写界深度が深いAPS-Cサイズならまだしも、同じ開放値ならそれよりも1段階以上浅くなるフルサイズの場合、コントラスト方式だけのAFの限界だと思ったものです。
それに対して、399点の像面位相差センサーを搭載したα7R IIはかなりまともになりました。
399点の像面位相差センサーを搭載したα7R II
となると4Dフォーカスを謳うα9は、どの程度のAF性能か否が応にも気になります。
ちなみにα9は693点の像面位相差AFセンサーと25点のコントラストAF領域を搭載している様ですが、大事なのはセンサー数や早さよりむしろ精度です。
よもやα7R IIより劣る事はないと思いますが、位相差センサーを搭載したα99 IIとどちらがAF精度が上か気になる所です。
79点位相差センサーと399点像面位相差AFセンサーを搭載したα99 II
これは実際に試してみるしかありませんが、本書の予想はα99 IIと同じ、もしくはα99 IIの方が依然優位ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
何故ならば、α9と同じ4Dフォーカスを売りにして、世界最速0.05秒の高速AFと世界最多となる425点像面位相差AFセンサーを搭載したα6300を暫く使ってみたのですが、これと言った感動は全くありませんでした。
世界最速最多の4Dフォーカスを搭載したα6300
それよりもアップで撮影しようと被写体に近付くと、相変わらずコントラストAFで見られる行ったり来たりのAFが始まって、ガックリしてしまいました。
少なくとも現時点では、ミラーレスの方がAFの潜在力は上だと思っていたのは、大いなる買い被りだった様な気がしています。
8. ストロボが使えない1/32,000秒電子シャッター
そして次の注目が、電子シャッターです。
電子シャッター自体は、時に目新しものではありません。
実際スマートフォンに搭載されているカメララは全て電子シャッターですし、α7シリーズで静音シャッターと呼ばれるのも電子シャッターですし、フジフィルムのミラーレス一眼には既に1/32,000秒の電子シャッターが搭載されています。
1/32,000秒の電子シャッターが搭載されたフジフィルムのX-T2
更に、前述しました秒速20コマ以上の機種は、全て電子シャッターを搭載しており、それを使った場合の連写速度です。
α9の電子シャッターの特筆すべき事は、新開発の積層型撮像素子のお蔭で、読み込みに時間が掛かるフルサイズでありながらローリング歪が抑えられた事です。
α9の電子シャッターはローリング歪が抑えられた
SONY関係者の話によれば、フォーカルプレーンシャッター並みの歪に抑えられたとの事ですので、恐らく全画面の読み出し速度は0.08秒(1/125秒)以下なのでしょう。
なお誤解しているネット記事が散見されますが、ローリング歪が発生しないのは、レンズシャッター(メカシャッター)だけで、フォーカルプレーンシャッター(メカシャッター)においても、ストロボ同調速度を超えれば歪は常に発生しています。
ちなみ左上のスイング写真の場合、恐らくストロボ同調速度(シャッター幕全開速度)が1/15秒程度のフォーカルプレーンシャッターで撮ったのと同じ様な歪みだと思われます。
またこれに伴い、最高シャッタースピードは1/32,000秒との事です。
前述の秒速20コマと同様に、一般的な使用において1/32,000秒のシャッタースピードを使う事は滅多に無いと思われるかもしれませんが、実はそうでもありません。
それは明るい屋外で、明るい大口径レンズを開放で使う場合です。
この場合、最高シャッタースピードが1/8000秒でも露出がオーバーになるため、レンズに入る光量を1/4程度に抑えるNDフィルターを装着する必要があるのですが、1/32,000秒があればNDフィルター無しで済ませられるという大きなメリットがあります。
ただし、ここに一つ問題があります。
CMOS撮像素子の電子シャッターの場合、全画面を同時に取り込む事ができない(ライン露光順次読み出し)ため、ストロボが使えないのです。(詳細についてはこちら)
α9の電子シャッターを使うとストロボは一切使えない
少しストロボに詳しい方でしたらFP発光(ハイスピードシンクロ)であれば、電子シャッターでも使えるのではと思われるかもしれませんが、電子シャッターはFP発光の高速点滅(50kHz程度)をも拾ってしまうため、常にストロボが使えない仕様になっているのです。
また、もしかしたら明るい屋外で日中シンクロを行うのは稀と思われるかもしれませんが、実は強い影を抑えるためには必須のテクニックとも言えます。
85mm F1.4 日中シンクロ
このため、折角の1/32,000秒の電子シャッターについても、魅力半減といった所です。
ついでにもう一つお伝えしておくと、電子シャッターは蛍光灯のチラつきも拾い易くなりますので、蛍光灯の明かりだけの室内では、電子シャッターの使用を避けた方が無難です。
9. 珍しくもない2400万画素
α9の画素数は2400万画素です。
今どき2400万画素と聞いても、何方も驚かないでしょう。
なにしろ最近のスマホでも、既に2000万画素をオーバーしているのですから。
また下の表の様にキヤノンやニコンの両フラッグシップ機より2割ほど画素数は増えていますが、これ自体も大した差とは言えないでしょう。
機種 | NIKON D4S | NIKON D5 | EOS-1D X | EOS-1D X Mark II |
画素数 | 1,623万画素 | 2,082万画素 | 1,810万画素 | 2,020万画素 |
むしろ2400万画素でありながら、秒速20コマの呼出し速度を実現したという事の方が、立派というべきかもしれません。
ですので、α9の購入動機としては、秒速20コマで2400万画素の画像が必要かどうかがカギになります。
逆に言えば、秒速20コマで2400万画素が必要なければ、α9は無駄と言えます。
10. 極々一般的なISO感度
2400万画素で裏面照射と聞いてISO感度も期待したのですが、これについても驚くほどではありませんでした。
α9の常用ISO感度はISO100〜51200、拡張ISO感度が50〜204800です。
これを他社機を含めて表にすると以下の様になります。
機種 | 撮像素子 | 常用ISO感度 | 拡張ISO感度 |
NIKON D5 | 2,082 万画素 | 100- 102,400 | 30- 3,280,000 |
NIKON D4S | 1,623 万画素 | 100- 25,600 | 30- 409,600 |
α7S | 1,220 万画素 | 100- 102,400 | 50- 409,600 |
EOS-1D X II | 2,020 万画素 | 100- 51,200 | 50- 409,600 |
α9 | 2,420 万画素 | 100- 51,200 | 50- 204,800 |
EOS-1D X | 1,810 万画素 | 100- 51,200 | 50- 204,800 |
α99II | 4,240 万画素 | 100- 25,600 | 50- 102,400 |
EOS 5D III | 2,230 万画素 | 100- 25,600 | 50- 102,400 |
D810 | 3,635 万画素 | 100- 12,800 | 32- 51,200 |
α99 | 2,430 万画素 | 100- 25,600 | 50- 25,600 |
EOS 5Ds | 5,060 万画素 | 100- 6,400 | 50- 12,800 |
数値だけですとピンとこないと思いますので、これをグラフで表すと以下の様になります。
ISO感度のグラフ表示
これを見た感想は、普通といった感じではないでしょうか。
また下の表にあります様に、画素数でα7R IIとα7R IIの間にあるα9は、ISO感度も両者の中間にあるという、極めて順当な結果になっています。
機種 | 画素数 | 常用最大ISO感度 | 拡張最大ISO感度 |
α7S II | 1200万画素 | 102,400 | 409,600 |
α9 | 2400万画素 | 51,200 | 204,800 |
α7R II | 4200万画素 | 25,600 | 102,400 |
まとめとしては、α9のISO感度は普通である、としたいと思います。
11. そそられない追加機能
α9は細かい所にも、色々改良が加えられています。
列記すると以下の様になりますが、残念ながらそれ程そそられる項目はありません。
項目 | 内容 |
デュアルスロット搭載 | 2枚挿入しておけば、うっかりSDカードを入れ忘れる事は無くなります。 |
ファインダー輝度アップ | α7R IIのファインダーに対して2倍の輝度アップとの事です。 SONY側の説明によれば、肉眼とファインダー像の輝度差を抑えることができ、違和感のない撮影が可能との事です。 ですが、何もファインダーの中まで眩しくしなくても、と思わないではありません。 |
LAN端子追加 | 本体側面にLAN端(RJ45)が追加され、ネットワークケーブルで画像を転送できる様になりました。 ですが、1000BASEが一般的な今時に、なぜ100BASEなのでしょうか? 実際EOS-1D X IIもNIKON D5も1000BASEです。 |
タッチパネル搭採用 | SONYのフルサイズデジタルで初めて、背面モニターにタッチパネルが採用されました。 これでフォーカスエリアが自由に選択できる様になりました。 |
シンクロターミナル | EOS-1D X IIやNIKON D5と同様に、シンクロターミナルが追加されました。 これでスタジオのストロボをケーブルで同調できます。 |
それよりNIKON D5やPENTAX K-1に搭載されている、夜間照明をなぜ付けてくれなかったのでしょう。
またα99 IIやPENTAX K-1に搭載されている縦位置可変モニターもありませんし、完全な防塵防滴仕様でもありません。
ここまでくると当初の興味も、かなり萎(しぼ)んできてしまいます。
12. 並みの撮影可能枚数
さて撮影可能枚数ですが、これはびっくりするほどの差があります。
と言って、α9が優れているという話ではありません。逆です。
機種 | 撮影可能枚数 |
SONY α9 | ファインダー使用時:約480 枚、液晶モニター使用時:約650 枚 (CIPA 規格準拠) |
α7R II | ファインダー使用時:約290枚、液晶モニター使用時:約340枚 (CIPA規格準拠) |
α99 II | ファインダー使用時:約390枚、液晶モニター使用時:約490枚 (CIPA規格準拠) |
NIKON D5 | Li-ionリチャージャブルバッテリー EN-EL18aの1回の充電で「1コマ撮影モード」(CIPA規格準拠)で約3780コマ プロフェッショナルの現場を想定した「連続撮影モード」(当社試験条件)では約8160コマ 動画(CIPA規格準拠)は約110分の撮影が可能 |
EOS-1D XMark II | ファインダー撮影:常温(+23℃)約1210枚/低温(0℃)約1020枚 ライブビュー撮影:常温(+23℃)約260枚/低温(0℃)約240枚 ※フル充電のバッテリーパック LP-E19使用時 |
上の表をご覧頂きます様に、撮影可能枚数についてはNIKON D5やEOS-1D XMark IIの面目躍如と言えるでしょう。
電池を消耗しない光学系ファインダーと大容量電池のお蔭で、撮影可能枚数はα9より2.5~7.9倍も優れています。
特にNIKON D5の3780枚は驚異的です。
NIKON D5はα9より2倍以上重いが撮影可能回数は8倍多い
これはα9の約8倍の撮影可能枚数になりますので、本体が2倍以上重い事に対する言い訳の一つになるかもしれません。
α9も従来の電池より容量が2倍になったのですが、それでも依然並みの撮影枚数と言わざるを得ません。
13. 搭載されなかった本体上部の表示パネル
今まではどちらかと言えばα9にとって有利な話、もしくは並みか普通程度かなと思う様な話でしたが、これからは明らかにネガティブな話をしたいと思います。
その1点目は、α9には表示パネルが搭載されなかった事です。
α9の上面には表示パネルが無い
表示パネルというのは背面のモニターではなく、本体上部にある絞り値/シャッタースピード/ISO感度/カウンター値等を表示するパネルの事です。
NIKON D5の表示パネル
α9を名乗る以上は、本体上部の表示パネルは必ず搭載されると思っていたのですが、見事に裏切られてしまいました。
初代α9000に搭載された表示パネル
確かに背面モニターやファインダーを覗けば絞りやシャッタースピードを確認できるのですが、それでも本体上面に表示されていればやはり便利ですし、かなりの確率でうっかりミスを防げます。
実際ニコンやキヤノン以外でも、上位機種には必ずと言って良い程表示パネルは付いています。
なかには主電源を切っても、表示を維持するものさえあります。
FUJIFILM GFX 50Sの表示パネルは、電源を切っても表示が維持される
α9はプロ用を意識して開発されたにも関わらず表示パネルが無いのは、どう考えても片手落ちとしか思えません。
それともSONYと付き合っているプロは、表示パネルを必要としないプロなのでしょうか?
14. 見捨てられた被写界深度
そしてもう一つの致命的な問題は、純正レンズに距離目盛と被写界深度目盛が無いという事です。
ニコンでもキヤノンでも、そしてSONYのAマウントレンズでさえ、フルサイズ対応レンズの鏡筒には距離目盛と被写界深度目盛がしっかり表示されています。
キヤノンのEFレンズには距離目盛と被写界深度目盛が付いている
にも関わらず、SONYの全Eマウントレンズには被写界深度目盛が完全に省略されているのです。
SONYのEマウントレンズには被写界深度目盛が無い
ボケ難い廉価版のレンズや、小サイズ撮像素子用レンズならまだしも、フルサイズのレンズでありながら被写界深度目盛のないレンズは他社にはありません。
AF全盛の今ならそんなものいらないという方は多いかもしれませんが、それはピント面より手前にある被写界深度や過焦点距離を使わない方ですので、それはそれで構いません。
ですがボケ易いフルサイズのカメラで、奥行のある被写体を撮ろうとすると、どうしても被写界深度を認識しておく必要があります。
例えば24mmの広角レンズを使って絞りF2.0で3m先の被写体を撮った場合、被写界深度はどれくらいか分かりますでしょうか(答えは1.5m)
或いは50mmの標準レンズを使って、奥行3m~5mの範囲にいる人物全員にピントを合わせるには、絞りは最低いくつにしなければいけないでしょうか?(答えはF6.3)
最近ではスマホのアプリで被写界深度を調べる事も可能ですが、現場でそんな事をしている余裕はありません。
ミノルタ時代からの流れを汲むAマウントのレンズが被写界深度を備えている事を考えれば、やはりSONYにおけるスチールカメラの本流はα99 IIなのかもしれません。
SONYのAマウントレンズには距離目盛と被写界深度目盛が付いている
またツァイス製のEマウントレンズは、デジタル値で被写界深度を表示している事を見れば、ツァイスの方がスチールカメラの本質を深く認識していると言えます。
ツァイス製のEマウントレンズは被写界深度をデジタルで表示する
いつかEマウントレンズにも被写界深度目盛を付けてほしいものですが、望みは限りなくゼロでしょう。
15. まとめ
いかがでしたでしょうか。
本書のまとめです。
α9はフルサイズ2400万画素で秒速20コマの動画撮影に魅力を感じる方以外には、全く魅力のないカメラである。
ですので、もし小型で高速連写可能なカメラをお探しならば、2000万画素のオリンパスOM-D E-M1 Mark IIをがお勧めと言えます。
α9 |
OM-D E-M1 II |
α7R II |
α99 II |
またもし小型でフルサイズ4200万画素のカメラをお探しならば、α7R IIがお勧めと言えます。
或いは速いAFとフルサイズ4200万画素、そして秒速12コマの連写性能を求めるのでしたら、α99 IIがお勧めと言えます。
特にα99 IIは表示パネルも被写界深度目盛も備えていますので、(重いですが)往年のスチールカメラファンはこちらを選択した方が後悔しないかもしれません。
今更ではありますが、Eマウントのミラーレス機はNEXブランド、Aマウントの一眼レフ機はαブランドにしておいた方が、ユーザーにも開発者にとっても、ポリシーや思想の違いが明確で、差別し易かったかもしれません。
16. Aマウント機への期待
さて舞台は整いました。
他のサイトでは次にα9Rやα9Sの登場を期待している様ですが、本サイトは違います。
本サイトが期待するのは、この新撮像素子を流用した、スチールカメラの本流であるAマウント一眼レフです。
当然ながらこのモデルは、α99 IIより高速指向になりますので、名称としてはα88当たりでしょうか。
高速指向のα88は縦位置グリップ一体型になるかも
ご存じの様にSONYのAマウント一眼レフは透過式の固定ミラーを搭載していますので、純粋にミラーを上下する一眼レフより高速連写が可能です。
ですので、電子式ではないメカ式シャッターを搭載した秒速20コマ対応のα88を期待したい所です。
そのためには、メカシャッターの幕速度も上げなければいけませんので、もしかしたらシンクロ同調速度1/1000秒、最高シャッタースピード1/32,000秒という、夢の様なメカシャッターが搭載されるかもしれません。
夢の様なと書きましたが、既にミノルタは1992年に発売したα9xiにおいてシャッタースピード1/12,000秒(シンクロ同調速度:1/300秒)を達成しているのです。
今もなお破られないシャッタースピード1/12,000(X:1/300)秒を達成したミノルタα9xi
1/32,000秒とは、その(ほんの)2.7倍の速度です。(それがとてつもない壁なのですが)
さすがにそれは無理だとしても、できる事ならその2倍のシャッタースピード1/24,000秒(シンクロ同調速度:1/500秒)でも、間違いなくエポックメイキングなカメラになります。
そうなるとコンパクトカメラに搭載されているレンズシャッターと同様に、日中でも常時ストロボをフル発光できますので、従来の撮影スタイルを一変させる可能性すらあります。
更にこのシャッターユニットを搭載したα99 IIIにも大きな期待が掛かります。
家電メーカーであるSONYの開発者だけでしたら、そんなメカシャッターなど決して挑戦しないでしょうが、ミノルタやコニカから移籍してきた元光学機器(スチールカメラ)メーカーの開発者達なら必ずや達成してくれる筈です。
ライバルはCANONでもNIKONでもありません。
敵は本能寺にあり。