EOS R6の自動露出パタン

2021/1/6:発行

はじめに


カメラに付いているプラグラムモード(Pモード)ですが、初心者用と思われている方が多いのではないでしょうか。


プラグラムモード(Pモード)

確かにその通りかもしれませんが、プラグラムモードの露出パタンは、カメラメーカーがその明るさであれば最適に撮れるという露出設定ですので、それがどんな設定か知っておくのも無駄な事ではないでしょう。

またプラグラムモードであっても、プログラムシフトを使えば、絞り優先モードやシャッタースピード優先モードと同じ様に好みの設定で写真を撮る事も可能です。

むしろ自分で設定を変更する直前は、メーカー一押しの露出設定になりますので、その設定で1枚撮ってから自分の好みに変えて撮るのも一考かもしれません。

とは言いながら、そのプラグラムモードの露出設定がどんなものか全く知らなければ、結局はカメラ任せの写真になってしまいます。

そんな訳で今回EOS P6を使って、プラグラムモードの露出パタンを調べてみました。

また併せて、ISOオート時の低速限界を変えたら露出パタンがどう変わるのか、またキヤノンが新たに採用したFvモードの露出パタンについても調べてみました。

キヤノンユーザー以外の方でも、もしプラグラムモードの露出設定について詳しくお知りになりたい方は、是非参考にして頂ければと思います。


24mm 手ブレ補正なし 低速限界:中速


それでは早速、EOS R6のプラグラムモードにおける露出パタンをご紹介しましょう。

下は、標準ズームレンズのRF24-105mm F4 L IS USMを使って、焦点距離24mm、手ブレ補正なし、低速限界をデフォルトの中央設定にした場合の露出パタンです。(なお低速限界に関する説明は後ほど行ないます)


図1:24mm 手ブレ補正なし 低速限界:中速

簡単にこのチャートの見方をご説明をしておきますと、水色がシャッタースピード、オレンジが絞り値、グレーの線がISO感度を表しています。

そして水平方向のX軸がEV値(被写体の明るさを表す指標)を表しており、右にいくほど被写体が明るくなっていきます。(EV値の詳細についてはこちら

このチャートの右上をご覧頂きます様に、EOS R6にRF24-105mm F4のズームレンズを装着して、焦点距離24mmでプラグラムモードにして写真を撮ると、真夏のビーチの明るさ(EV16)では1/500秒のF11の露出設定になるという訳です。

そして徐々に周囲が暗くなると、ISO感度は100のまま、シャッタースピードと絞りが同じ様に低下していきます。

さらに絞りが開放値のF4に達すると、シャッタースピードは1/60秒に固定され、代わりにISO感度がどんどん上がっていきます。

なお本書では、この1/60秒を低速限界のシャッタースピードと呼ぶ事にします。

そしてISO感度が、ISOオート上限の12800に達すると、ISO感度と絞りは固定のまま、あとはシャッタースピードが遅くなるという訳です。

他社機の正確な所は不明ですが、恐らく似た様な設定ではないでしょうか。

ところで幣サイトの興味の一つは、この露出パタンはズームレンズの焦点距離を変えたら変化するかどうかです。

一昔前のフィルムカメラ時代でしたら、レンズを変えても露出パタンは一緒でした。

果たして変わるのでしょうか?


105mm 手ブレ補正なし 低速限界:中速


そう思ってズームレンズの焦点距離を105mmにして調べた結果が以下になります。


図2:105mm 手ブレ補正なし 低速限界:中速

するとご覧の様に、見事に変わっているではありませんか。

下にあります先ほどの24mmのときは1/60秒でISO感度が上がっていたのに対して、今回は1/125秒に達した所でISO感度が上がり始めています。


図1:24mm 手ブレ補正なし 低速限界:中速

どうやら、24mmより105mmの方がブレ易いとため、低速限界のシャッタースピードを1段上げている様です。

ちなみにここにはチャートを載せていませんが、50mmでも低速限界のシャッタースピードは広角の24mmと同じ1/60秒でした。

どうやら50mmと105mmの間に低速限界シャッタースピードのボーダーラインがある様です。

ただし、EOS R6は強力な手ブレ補正機能を有していますので、手ブレ補正をONしたら105mmでも1/15秒程度なら楽勝です。

となると、手ブレ補正をONしたらこの露出パタンも変わるかどうか知りたくないでしょうか?


105mm 手ブレ補正:ON 低速限界:中速


そんな訳で、同じく焦点距離105mmで、手ブレ補正をONした結果が以下になります。


図3:105mm 手ブレ補正:ON 低速限界:中速

これをご覧頂きます様に、手ブレOFF時と露出パタンは変わっていません。

折角最大8段もの手ブレ補正効果があるのですから、シャッタースピードをもう少し遅くしても良さそうなもののですが、その手ブレのON/OFFは露出設定には全く反映させていない模様です。

となるとこの露出パタンは、ボディー内手ブレ補正を有しない、EOS RやEOS RPも同じかもしれません。

そして次なる興味は、ISOオートの低速限界を変えたらどうなるかです。


105mm 手ブレ補正:ON 低速限界:低速


今まで詳しくお伝えしていなかったのですが、EOS RシリーズにはISOオート時の低速限界を±3段に自動調整できる機能が備わっています。


EOS RシリーズのISOオートの低速限界設定画面

このため、今まではデフォルトの中速設定(0設定)だったのですが、今回は低速限界の自動設定を一番遅めの-3に設定してみます。

その結果が、以下になります。


図4:105mm 手ブレ補正:ON 低速限界:低速

するとどうでしょう。

先ほどの低速限界が中速設定のときは低速限界のシャッタースピードは1/125秒だったのですが、今回は一気に1/15-1/20秒まで遅くなっています。

このため、画質が一番良いISO100でEV8.3(エレベータ内の明るさ)まで撮れる事になります。

となると、もしプラグラムモードの手ブレ補正:ONで撮るとしたら、低速限界を低速限界:低速設定の-3程度に設定するのが良いかもしれません。

ただし多少動きがあるものに対しては、被写体ブレを避けるために、1/125秒を維持する中速を選択した方が無難かもしれません。

とは言え、被写体ブレも人物までの距離によって大きく変わってきますので、ここまでカメラが進化したのですから、いつか撮影距離によっても露出パタンを変えてほしいものです。

それはともかく、下にあります様にISOオートの低速限界は、手動設定でシャッタースピードを直接指定できる様にもなっています。


EOS RシリーズのISOオートの手動設定画面

ただしその場合は、レンズの焦点距離を変えても低速限界のシャッタースピードは常に一定ですので、レンズの焦点距離によってシャッタースピードが変わる自動設定の方が合理的な使い方だと言えます。

またもう一つ言える事は、今回低速限界を-3に設定してシャッタースピードが1/125秒から1/15秒に3段階下がった事から、低速限界の1目盛りがシャッタースピードの1段に当たると思って良さそうです。


24mm 手ブレ補正:ON 低速限界:低速


さほど興味は無いかもしれませんが、ついでに焦点距離24mmの低速限界:低速設定も見ておきます。


図5:24mm 手ブレ補正:ON 低速限界:低速

するとご覧の通り、中速設定では低速限界のシャッタースピードが1/60秒だったのに対して、低速限界:低速設定の-3では3段階遅い1/8-1/10秒になっています。

手ブレ補正の効果と24mmの焦点距離を考えれば、静止した被写体の撮影では、これで十分ではないでしょうか。

なお今回は、シャッタースピードの値が1/8-1/10秒とバラついた値になっていますが、この原因はカメラ内に露出パタンのテーブルが複数あるのではなく、EV値やレンズの焦点距離を元にした演算結果を使用して露出パタンを制御しているためと推測されます。


35mm 手ブレ補正:ON 低速限界:低速


ここまで分かってくると、次に明るい単焦点レンズではどうなるか知りたくなってきませんでしょうか。

そんな訳で、下はRF35mm F1.8の低速限界:低速設定-3における露出パタンです。


図6:35mm 手ブレ補正:ON 低速限界:低速

この場合、レンズが明るくなった分、4.7EVまでISO100で撮る事ができる様になっていますが、24mmと同じ様に低速限界シャッタースピードは1/8秒になっています。

すなわちレンズの焦点距離がほぼ同じ(今回は24mmと35mmの広角系)であれば、低速限界シャッタースピードは同じになるという事です。


85mm 手ブレ補正:ON 低速限界:低速


それでは最後にRF85mm F1.2を見てみます。


図7:85mm 手ブレ補正:ON 低速限界:低速

この場合も、105mmと同様に低速限界のシャッタースピードは1/15秒になる仕様となっています。

85mmは人物撮影、それも上半身以上の撮影が多くなる事を考えると、やはり低速限界は1/125秒となる中速設定が無難かもしれません。


85mm 手ブレ補正:ON 低速限界:低速 Aモード


今まではプラグラムモードで見てきましたが、本書が知りたい事がもう一つあります。

ご存知かもしれませんが、低速限界はプラグラムモードだけではなく他の自動露出に対して有効になります。

このため、例えば絞り優先モード(Aモード)における露出パタン(シャッタースピードとISO感度の関係)を知りたくはないでしょうか。

そんな訳で、早速85mmをF1.2の開放にしたままAモードで調べてみます。


図8:85mm 手ブレ補正:ON 低速限界:低速 Aモード

すると、(生憎1/8000秒はチャートからはみ出てしまいましたが)低速限界のシャッタースピードは1/10秒とプラグラムモードと同じ結果になりました。

これからするとAモードやSモードにおいても、低速限界のシャッタースピードはプラグラムモードと同じになると見て良さそうです。


85mm 手ブレ補正:ON 低速限界:低速 Fvモード


最後に確認したいのはFvモードです。

恐らくFvモードの露出パタンは、プラグラムモードと同じと思っているのですが、その認識に間違いないかどうか確認しておきます。


図9:85mm 手ブレ補正:ON 低速限界:低速 Fvモード

すると予想に反して、Fvモードは下にありますプラグラムモードとは全く異なる露出パタンを使っているではありませんか。


図7:85mm 手ブレ補正:ON 低速限界:低速 プラグラムモード

具体的には、プラグラムモードの低速限界:低速設定-3においては低速限界シャッタースピードは1/15秒だったのに、Fvモードでは1/90秒になっています。

理由は不明ですが、こうなると低速限界を中央に設定して、どうなるか見ない訳にはいきません。


85mm 手ブレ補正:ON 低速限界:中速 Fvモード


下がその低速限界を中速設定にした測定結果です。


図10:85mm 手ブレ補正:ON 低速限界:中速 Fvモード

するとご覧の様に、微妙に形状は変化するものの、低速限界シャッタースピードは1/90秒のままで変わりません。

更によくよく比べてみると、中速設定の方が明るい所でシャッタースピードが遅くなっています。

具体的には例えばEV10のとき、中速設定でのシャッタースピードは1/100秒であるのに対して、低速限界:低速設定では1/150秒になっています。

この矛盾(本来ならば低速限界:低速設定の方がシャッタースピードは遅くなるはず)の原因は不明ですが、言える事はFvモードにおいてはISOオートの低速限界の設定は無効になるという事です。

そして、レンズの焦点距離を変えてどうなるかも調べておいた方が良さそうだという事です。


24mm 手ブレ補正:ON 低速限界:中速 Fvモード


そんな訳で、RF24-105mmのズームレンズを付けて、24mmのFvモードで撮った結果が以下になります。


図11:24mm 手ブレ補正:ON 低速限界:中速 Fvモード

プラグラムモードと全く同じだと一瞬思ったのですが、しょっぱなの図1のチャートと比べてみると、暗部の露出設定が僅かに違います。


図1:24mm 手ブレ補正なし 低速限界:中速

細かい事はさておき、これから分かる事は、プラグラムモードとFvモードでは露出パタンが異なるという事です。

もしかしたら、プラグラムモードは初心者用で、Fvモードはマニア向けという違いがあうのでしょうか。

そしてもう一つ言える事は、プラグラムモード程ではないにしろFvモードでもレンズの焦点距離によってシャッタースピードを変えているという事です。

具体的には、85mmのときの低速限界シャッタースピードが1/90秒だったのに対して、24mmでは1/60秒になっています。

いずれにしろFvモードについては、もう一度じっくり調べなくてはいけない感じですが、今回はここまでとしておきます。


まとめ


予想外の事が起きて長くなってしまいましたが、それではまとめです。

①EOS R6のプラグラムモードにおける露出パタンは、レンズの焦点距離が長くなるとシャッタースピードを上げる仕様になっている。

②ただし手ブレ補正のON/OFFには関係しない。

③ISOオートの低速限界を-3に設定すると、中速設定時より低速限界シャッタースピードが3段分遅くなる。

④この事から、ISOオートの低速限界を1段変化させると、低速限界シャッタースピードが1段変化すると思われる。

⑤手ブレ補正効果を考慮すると、低速限界を低速限界:低速の-3に設定するのが妥当に思えるが、人物撮影であれば中速に設定しておくのが無難かもしれない。

⑥ISOオートの低速限界は手動設定でシャッタースピードを直接指定できるが、その場合はレンズの焦点距離を変えても低速限界のシャッタースピードは常に一定になるので、レンズの焦点距離によってシャッタースピードが変わる自動設定の方が合理的である。

⑦レンズの焦点距離がほぼ同じ(広角系もしくは中望遠系)であれば、低速限界シャッタースピードは同じになる。

⑧AモードやSモードにおいても、低速限界のシャッタースピードはプラグラムモードと同じになると見て良さそうである。

⑨Fvモードは、プラグラムモードとは全く異なる露出パタンを使っており、ISOオートの低速限界の設定は無効になる。

⑩ただしプラグラムモード程ではないにしろ、Fvモードでもレンズの焦点距離によってシャッタースピードを変えている。



おまけ


最後におまけとして、プラグラムモードにおける定速限界の自動設定値別の低速限界シャッタースピードの一覧をお付けしておきます。

自動設定 -3 -2 -1 0 +1 +2 +3
広角、標準 1/8秒 1/15秒 1/30秒 1/60秒 1/125秒 1/250秒 1/500秒
中望遠 1/15秒 1/30秒 1/60秒 1/125秒 1/250秒 1/500秒 1/1000秒
プラグラムモードにおける定速限界の自動設定値別の低速限界シャッタースピード

これをご覧頂きます様に、手ブレ補正をONにして静物を撮影する場合は、低速限界の自動設定値を-3にすれば画質優先の撮影が可能になります。

ただし既にお伝えしまし様に、人物の様に多少動きがある場合は、自動設定値を中央のゼロにしておいた方が無難かもしれません。

以上ですが、これで少しはお役に立ちましたでしょうか。




EOS R6の自動露出パタン




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