なぜレンズ交換式カメラまでもが
スマホに負けたのか?

2020/02/13:発行

目次


1:はじめに
2:結論
3:撮像素子が大きい程失敗写真が多くなる
 1)撮像素子が小さいと被写界深度は深くなる
 2)失敗写真はどれくらい増えるのか
 3)ISO感度を上げたら画質はどうなるのか
  ①一眼はどれくらい高感度なのか
  ②ISO感度を上げると画質はスマホ並みになる
  ③解像度が高いと画質はスマホより劣る
4:ISO感度を上げるとどれくらい画質が落ちるか
5:RAW現像しかメリットのないダイナミックレンジ
6:幣害だらけの高解像度
 1)4Kモニターで見ても画像に差はない
 2)高画素の画像を見る方法
 3)高画素になるとスマホ以下の画質になる
 4)高画素化の幣害
7:対策
 1)ISO感度を上げる
 2)画素数優先から高感度優先にする
 3)超低画素機
 4)画素数切り替え機能
8:フィルム時代はなぜこんな事が起きなかったのか?
9:まとめ

1:はじめに


カメラの凋落が止まりません。

下はCIPA(一般社団法人カメラ映像機器工業会)がまとめた、2010年以降のカメラの出荷台数です。


CIPA集計のカメラ販売台数の推移

これをご覧いただきます様に、スマホの台頭によりコンパクトカメラが売れなくなるのは止むを得ないとしても、スマホより大きな撮像素子を搭載したレンズ交換式のカメラ(以降一眼と呼ぶ)までもが衰退の一途を辿(たど)っています。

何故なのでしょう。

誰がどう考えても、一眼の方がスマホやコンパクトカメラより明らかに性能は上の筈です。

ですので、写真に興味を持ったスマホユーザーがステップアップしてくる可能性は十分あります。

にも関わらず、販売台数は落ち続けているのです。

長い間疑問に思っていたのですが、先日別の記事を書いてようやくその答えが見つかりました。

という訳で、今回は”なぜ一眼までもがスマホに負けたのか”と題して、その原因と対策を述べてみたいと思います。

なお一眼とスマホの比較となると、レンズが交換できないとか、ストロボが使えないとか、ファインダーが無いとか、AF性能やら、手振れ補正等色々ありますが、ここでは最も重要な撮像素子の大きさに焦点に合わせて述べさせて頂きます。


2:結論


先に結論を述べますと、本書が考える撮像素子の大きなカメラがスマホに負けた理由は、以下の2点です。

①スマホに比べてピンボケやブレが起き易い(撮影が難しい)

②その割に、スマホと比べて画質の差が殆ど無い。


これだけ聞けば、大多数の方はそんな事はないだろうと思われる事でしょう。

何しろ大きな撮像素子を搭載したカメラの方が、高感度で、ダイナミックレンジが広く、諧調性に優れ、解像度も高く、画質も良い筈だからです。


実は一眼とスマホの画質の差は殆どない

ですが、よくよく考えてみると、実はスマホと画質の差は殆どないのです。

実際ネットを検索してみれば、スマホと一眼の写りに差はない、と言うよりも、むしろスマホの方が画像が綺麗だという記事の方が多いのではないでしょうか。

それらの記事は、単に撮った写真の主観的な比較でしかないと思われるかもしれませんが、実は理論的に考えてもそう言えるのです。

と言う訳で、これからその説明をじっくりさせて頂ければと思います。

長文ですが、本サイトの集大成だと思ってお付き合い頂ければ幸甚です。


2:撮像素子が大きい程失敗写真が多くなる


どなたも、似た様な経験がおありではないでしょうか?

もっと良い写真を撮りたくて、より大きな撮像素子の一眼に買い換えたのだけど、むしろピンボケやブレが多くなった気がする。

これは気がするではなく、客観的な事実なのです。

先ずはその理由からご説明したいと思います。


1)撮像素子が小さいと被写界深度は深くなる


これは既に何方もご存知の話でしょう、

スマホで撮った写真は、間違いなく被写界深度が深くなります。


キヤノン公式HPにあるスマホとの比較画像(スマホの方が被写界深度が深い)

この理由は、スマホの撮像素子は小さいので、撮像素子の大きいカメラと同じ画角にしようとすると、より広角のレンズを使う必要があるため、同じ絞り値でも被写界深度が深くなるからです。

ボケの量はレンズの有効口径に比例しますので、これからフルサイズを基準として、どれくらい被写界深度が深くなるかを求めると以下の表の様になります。

サイズ FULL APS-C APS-C
(Canon)
4/3 1型 1/1.7型 1/2.3型
段数 0 1.2 1.4 2.0 2.9 4.4 4.9
フルサイズを基準とした同じ被写界深度となる絞りの段数

これをご覧いただきます様に、フルサイズに対してスマホ(1/2.3型と想定)の方が絞り4.9段分も被写界深度が深くなるのです。

これは画素数には一切関係なく、撮像素子の大きさだけで決まります。

ですので、必然的にフルサイズの方が4.9段分、ピンボケが起き易くなると言えます。

だったらブレとは関係ないだろう、と思われるかもしれませんが、もし被写界深度が4.9段分も深いとなると、絞りを2段開けて、その分シャッタースピードを2段上げればピンボケと同時にブレも抑えられる事になります。

すなわち、スマホの方が、ピンボケとブレの双方に対して、トータル4.9段分も有利なのです。

そして、撮像素子が大きくなればなる程この差は大きくなりますので、良い写真を撮ろうと思って高い一眼に買い換える程、失敗写真が多くなるという訳です。

常識的には高いカメラにした方が失敗写真は少なくなると思いがちですが、実際は逆なのです。


2)失敗写真はどれくらい増えるのか


トータル4.9段分ピンボケやブレに有利と言っても、少々分かり難いと思いますので、もう少し捕捉させて下さい。

例えば明るい屋内(EV10の明るさ)で奥行のある集合写真を、フルサイズ一眼とスマホで撮り比べたとします。

その場合のレンズの焦点距離と露出設定は、いずれも以下の通りだとします。

レンズ ISO感度 絞り シャッタースピード
28mm ISO100 F4.0 1/60秒
表1:一眼とスマホの露出設定

すると、当然ながら同じ明るさの写真が撮れるのですが、お伝えしております様にスマホの被写界深度は一眼より4.9段分も深いのです。

もしフルサイズ一眼をスマホと同じ被写界深度にしたいのならば、以下の表の様にフルサイズ一眼のISO感度を3200に上げて、絞りをF22にまで絞らなくてはなりません。

レンズ ISO感度 絞り シャッタースピード
28mm ISO3200 F22 1/60秒
表2:スマホと同じ被写界深度になる一眼の露出設定

これならどんなにラフに撮っても、ピントはほぼ全域に合うのは何方も容易に想像して頂ける事しょう。

実際に計算してみると、28mmのレンズの場合、距離を1.3mに設定すると0.66mから∞までピントが合ってしまいます。

同じ露出設定でありながら、スマホは一眼を表2に設定した被写界深度の深い写真が撮れてしまうのです。

更にです。

スマホにおいては、フルサイズ一眼よりより4.9段分も被写界深度が深いので、以下の様に絞りを2段階開けて、明るくなった分シャッタースピードを2段階速くしたとします。

レンズ ISO感度 絞り シャッタースピード
28mm ISO100 F2.0 1/250秒
表3:スマホの露出設定

すると、被写界深度は多少浅くなりますが、ブレにも強くなるのです。

ちなみに、上記設定に対応するフルサイズの一眼の設定は、以下の様になります。

レンズ ISO感度 絞り シャッタースピード
28mm ISO3200 F8.0 1/250秒
表4:表3に対応するフルサイズ一眼の露出設定

何が言いたいか、分かって頂けますでしょうか?

すなわち、明るい屋内(EV10の明るさ)で奥行のある集合写真を、フルサイズ一眼とスマホで撮ったとすると、フルサイズの一眼は表1の設定にも関わらず、スマホは(露出設定が表3でありながら)フルサイズ一眼の表4と同じ写真が撮れてしまうのです。

となると、フルサイズ一眼の場合、数人がピンボケになったり、手振れや被写体ブレが発生する可能性が十分あるのに対して、スマホで撮ると、その心配が殆ど不要になるのです。

これじゃースマホに負ける筈です。

とは言え、世の中そんなウマイ話ばかりではない、当然スマホは画質で劣るだろうと思われる方もいらっしゃる事でしょう。

そんな疑問を残しつつ、次に行きます。


3)ISO感度を上げたら画質はどうなるのか


ここまで読んで頂ければ、撮像素子の大きなカメラの方が撮影がシビアになるという事は、十分ご理解頂けた事でしょう。

でもこれについては、単純明快な解決策があります。

それは前段でもご紹介した様に、ISO感度を上げて、絞りを絞るなり、シャッタースピードを上げるなりすれば良いのです。

そうすれば、スマホ並みにピンボケやブレを防ぐ事が可能になります。

なにしろ一眼の方がスマホより明らかに高感度ですので、その余裕は十分あります。

とは言っても無節操に上げる訳にもいかないので、一眼はスマホに比べてどれくらい高感度なのかを調べてみる事にします。


①一眼はどれくらい高感度なのか

カメラの感度は、1画素(受光素子)の大きさに比例しますので、1画素の大きさを比べれば、感度がどれくらい違うか計算で求められます。

例えば、フルサイズの撮像素子の大きさはスマホの29倍もありますので、同じ画素数だとすると、フルサイズの方が29倍(段数で4.9段)感度が良い事になります。


フルサイズとスマホ(1/2.3型)の撮像素子の大きさ

この1画素の面積比を表にすると、以下の様になります。

サイズ\項目 Full APS-C APS-C
(Canon)
4/3 1型 1/1.7型 1/2.3型
面積比
(ISO感度)
100% 43% 38% 26% 13% 5% 3%
段数 0 -1.2 -1.4 -1.9 -2.9 -4.3 -4.9
フルサイズを基準とした面積比とその段数(面積比の2を底とした対数)

すなわちフルサイズはスマホより、感度に対して4.9段分ものアドバンテージがあるという事です。

そしてもっと興味深い事は、この表の段数は前述の被写界深度の表とほぼ同じ値を示している事です。(値が僅かに違うのは、撮像素子の縦横比の違いによるものです)

一体これは何を意味しているのでしょうか?


②ISO感度を上げると画質はスマホ並みになる

これが何を意味しているかと言えば、撮像素子の大きなカメラにおいて感度のアドバンテージ分ISO感度を上げれば、フルサイズもスマホと同じ様にピンボケとブレを防げるという訳です

これは前項のシミュレーションで既にご納得頂いている事でしょう。

そして、もう一つ言える事があります。

同じ画素数であればスマホのISO100の画像とフルサイズのISO3200の画像は、同じ画質になるという事です。

なぜならば、もしフルサイズのISO感度を4.9段階上げ(光信号を電気的に29倍増幅して)、それと共に絞りを4.9段(1/33)絞って入ってくる光量を減らしたら、ISO感度を上げる前に対して1画素の受光量はスマホと同じになってしまうからです。

という事は、画質も4.9段低下し、結局スマホと同じになってしまうという訳です。

そう聞くと、かなりガックリではないでしょうか。

折角高い一眼を買ったのに、ピンボケとブレをスマホ並みに抑えると、結局スマホ並みの画質しか手に入らないのです。


③解像度が高いと画質はスマホより劣る

それでガッカリするのは、まだ早過ぎます。

実は、もっとガッカリさせる話があるのです。

上記は、スマホと一眼の画素数が同じ場合です。

もし一眼の画素数がスマホの2倍の2400万画素だとすると、感度は半分に低下しますので、スマホにたいするアドバンテージは3.9段に低下します。

しかしながら、被写界深度は画素数には関係しないので、スマホ並みにピンボケやブレを抑えるためには、どうしても4.9段ISO感度を上げなければなりません。

という事は、(画素数がスマホより多い場合)スマホ並みにピンボケやブレを抑え様とISO感度を上げると、画質はスマホよりも劣る事になるのです。

そんな事許せますでしょうか?

ですが、それが事実なのです。

それ故、一眼が徐々に売れなくなっているのです。


4:ISO感度を上げるとどれくらい画質が落ちるか


ここまでお読み頂ければ、次にISO感度を上げるとどれくらい画質が落ちるか知りたくなってきませんでしょうか?

そんな訳で、手元のある2600万画素のフルサイズ一眼でISO感度を変えて撮ってみました。

既にお伝えしました様に、同じ1200万画素であればフルサイズの感度のアドバンテージは4.9段なのですが、2600万画素でしたら、下の表にある様にアドバンテージは3.8段になり、本来ならばISO1250までしか上げる事ができません。

撮像素子 画素数 段数 ISO感度
Full 1200万画素 4.9 3200
2000万画素 4.1 1600
2400万画素 3.9 1600
2600万画素 3.8 1250
3200万画素 3.5 1000
4800万画素 2.9 800
APS-C 2000万画素 2.9 800
2400万画素 2.6 640
2600万画素 2.5 640
APS-C
(Canon)
2000万画素 2.7 640
2400万画素 2.5 500
4/3 1000万画素 3.2 1000
1600万画素 2.5 500
2000万画素 2.2 500
1型 2000万画素 1.2 250
1/1.7型 1200万画素 0.5 160
1/2.3型 1200万画素 0.0 100
スマホ(1/2.3型の1200万画素)をISO100とした場合の同じ画質のISO感度

そんな訳で、先ずはISO100とISO1250で撮り比べた写真が以下になります


ISO100 F6.3 1/320秒           ISO1250 F11 1/1000秒

さすがにこの大きさですと違いは分かりませんが、これを拡大すると以下の様になります。


ISO100 F6.3 1/320秒           ISO1250 F11 1/1000秒

ご覧の様に、ハイビスカスのおしべが僅かながらコントラストが低下した様にも見えますが、殆ど差は無いと言った方が良いかもしれません。

これから言える事は、スマホに対する感度のアドバンテージ分ISO感度を上げても、画質には殆ど差がないという事です。

そして、ここでもう一つお伝えしたい事があります。

思い出して頂きたいのですが、前段で”同じ画素数であればスマホのISO100の画像とフルサイズのISO3200の画像は同じになる”とお伝えました。

この場合は、画素数がスマホと異なるものの、(同じ理屈で)スマホのISO100の画像がフルサイズのISO1250と同じと言えます。

ですので上のISO100の画像が一眼の画像だとすると、ISO1250の画像がスマホのISO100の画像に相当するのです。

一目瞭然でしょう。

理論上、スマホと一眼の画質の差はこんなものなのです。

一眼の方が断然画質が良いと盲目的に思ってしまいますが、これが現実なのです。

これで先の結論で述べました、スマホと比べて画質の差が殆ど無い、と言うのをご理解頂けましたでしょうか。

話は戻って、次にスマホ並みにピンボケとブレを抑えるために、ISO3200まで上げて撮った写真が以下になります。


ISO100 F6.3 1/320秒          ISO3200 F14 1/1600秒

これをISO100の写真と比べてみると、明らかに雄しべと雌しべのピントが甘い様な、コントラストが薄い様な感じに見えます。

すなわち、スマホと同じくらいピンボケとブレを防ぐためにISO3200まで上げると、スマホの画像(ISO1250の画像)よりもこれだけ画質が低下するという訳です。

ここまで読まれると、ほとんど一眼を買う気は失せたのではないでしょうか。



5:RAW現像しかメリットのないダイナミックレンジ


そうは言っても、撮像素子の大きなカメラのアドバンテージはそれだけではないと思われる方もいらっしゃる事でしょう。

そんな訳で、次にダイナミックレンジ(以下DRと記す)について考えてみます。

下はフルサイズ一眼のDR、それに写真とモニターのDRを載せたチャートです。


フルサイズ一眼のDRと写真とモニターのDRの関係

上のチャートにあります様に、もし一般的なフルサイズ一眼のDRが70dB(11.6段)あるとして、ダイナミックレンジが撮像素子の大きさに比例するとしたら、スマホのDRは4.9段(30dB)減って40dB程度になります。

かなり減った印象ですが、それでも写真にプリントしても、一般的なモニターに表示しても全く問題ありません。

何故ならば、一般的なモニターのダイナミックレンジは40dB程で、まして紙の写真の場合25dBもあれば十分だからです。

また、もしかしたらDRが70dBの一眼と40dBのスマホの画像をモニターで見ると差があると思われるかもしれませんが、モニターで見る場合は70dBの中央部分を抜き出すだけですので、何の差もないのです。

強いて70dBの利点を探せば、RAWファイルを現像する際、露出調整の幅が広がる程度の事です。(DRの詳細はこちら

更にです。

この70dBと言うのは、あくまでもフルサイズ一眼のISO感度がISO100のときの値なのです。

もしスマホ並みにピンボケとブレを抑えるために、ISO感度を4.9段上げたとしたら、DRもスマホ並みの40dBに低下するのです。

一体どこに一眼の優位性はあるのでしょう。


6:幣害だらけの高解像度


もう一眼を買うのは止めようと思われた方も多いのではないでしょうか。

ですが一つ忘れています。

それはスマホより一眼の方が画素数が多い、すなわち高解像度だという事です。

  
高解像度                低解像度

画素数については、ISO感度を上げても変わる事がありませんので、これは間違いなくスマホに対する一眼の大きな優位性です。

そんな訳で、次は解像度についてお話させて下さい。


1)4Kモニターで見ても画像に差はない


ところで、皆さんはカメラで撮った写真を、どうやってご覧になられているでしょう。

本書をお読み頂いている方でしたら、殆の方がごくごく一般的な200万画素のPCモニターでしょうか。


一般的なPC用モニターは200万画素程度しかない

或いは、最新スマホの270万画素でご覧になっているかもしれませんし、最新のタブレットPCの300万画素のモニターでご覧になっているかもしれません。

さらに、もしかしたら最新の4Kモニター(800万画素)でご覧になっている方もいらっしゃるかもしれません。


4Kモニターでも800万画素

さて、そこで問題です。

これらのモニターを使って、スマホの1200万画素の画像と一眼の4800万画素の画像を見て、画像に差はあるでしょうか/無いでしょうか?


4モニターで見て、スマホの1200万画素と一眼の4800万画素で違いがあるか?

恐らく大半の方が、差があると思われる事でしょう。

なにしろ1200万画素と4800万画素では4倍も解像度が異なるのですから。

ですが、同じ4Kモニターで見ても、両者には何の違いもないのです。

下は200万画素のモニターに、画素数の異なる画像を映して、その一部を拡大したものです。


3968x2976 (1200万画素)   3264x2448 (800万画素)    2560x1920 (500万画素)


2048x1536 (300万画素)    1600x1200 (200万画素)    1280x960 (100万画素)

これをご覧いただきます様に、モニターの解像度(200万画素)以下の100万画素でようやく精細性の低下が認められるものの、それ以外は全く差がないのを分かって頂けると思います。

これが何を意味するかと言えば、モニターの解像度以上の高精細な画像を入力しても、映し出された画像はモニターの解像度以上にはならないという事です。

この理由は、簡単です。

モニターの解像度である200万画素以上の画像ファイルの場合、それ以上の画素は単純に間引かれる(捨てられる)だけですので、表示された画像の精細性は全く変わらなのです。(詳細はこちら


2)高画素の画像を見る方法


そうは言っても、市場には2400万画素だの5000万画素だのいった一眼が山の様にあるのですから、その高解像度を見る方法はある筈だと思われるでしょう。

おっしゃる通り、確かにあります。

その方法を示したのが下のチャートです。

プリント(解像度)      カメラ(画素数)    モニター(解像度)

カメラの画素数とプリンターとモニターの解像度の関係

これをご覧頂きます様に8K(3200万画素)モニターで見るか、A3サイズ以上にプリントすればスマホとの違いが分かります。

ですが、2019年末の時点で、4Kテレビ(800万画素)の普及率でさえ1割程度です。

そんな状況で、8Kテレビが普及するのは一体いつの事になるでしょう。(試算では2025年に2%)

また今までに、撮った写真をA3サイズ以上にプリントした事があったでしょうか?

もし無かったとすると、現状高画素の写真を撮っても、そのままの解像度で写真を見る事は無いのです。

確かに高画素はトリミングに有利なのですが、果たしてどれだけの方が撮った写真をトリミングして楽しんでいるのでしょう。

だったらスマホと同じ1200万画素にして、極力トリミングしない様にしっかりフレーミングして撮った方が余程合理的ではないでしょうか。

という訳で、期待させて申し訳なかったのですが、高解像度すら一眼の優位性と言えそうもありません。


3)高画素になるとスマホ以下の画質になる


と、ここで終わりたい所ですが、高画素化の問題はまだまだ続きます。

既に何度かお伝えました様に、 高画素にすると、1画素の面積が小さくなるので、その分感度が低下する事になります。

このため、先ほどハイビスカスの写真をお見せした様に、一眼の画素数がスマホの1200万画素を超えると、アドバンテージ分の感度が低下し、スマホ並みのピンボケとブレを抑え様とすると画質がスマホより低下するのです。

何が言いたいかと言えば、高画素は一眼の優位性ではなく、むしろ画質に関して害になっているという事です。

折角なので、高画素化の幣害を更に言わせて頂きます。


4)高画素化の幣害


次なる高画素化の幣害は、ファイル容量が大きくなるという事でしょう。

出力画像をJPEGファイルにするだけでしたら、記録画素数を落とせば良いのですが、もしRAWファイルまで出力するとなると、保存するデータ量は膨大になるし、転送時間は掛かるし、RAW現像するのにも多大な時間を要します。

ところで、ご存知でしょうか。

キヤノンにしろニコンにしろ、自社の最新フラッグシップ機においては、画素数を控え目の2000万画素に抑えているのです。


先代と同じ2000万画素を踏襲したEOS-1D X Mark III と Nikon D6

この理由についてキヤノンへのインタビューによれば、連写、高感度、通信性能を考慮して決めたとの事です。

更には、プロの意見を集約してこの画素数を決めたとも述べています。

プロでさえ2000万画素で十分と言っているのに、一般ユーザー向けのモデルは、これらを無視して高画素に振っているのです。

確かに業務用として高画素の一眼は必要でしょうが、入門機クラスにまで使い途(みち)のない高画素モデルを次々と上市しているのです。

ユーザーが使いもしない高画素化を進める一眼と、顧客の不満をどんどん解消するスマホ。

一眼が売れなくなるのは、当然の事と言えます。

さて、これで問題点は、ほぼ書き尽くしたと思いますので、それではそろそろ対策について述べたいと思います。


7:対策


既にお伝えしました様に、本書の考える一眼がスマホに負けた理由は以下の通りです。

①スマホに比べてピンボケやブレが起き易い(撮影が難しい)

②その割に、スマホと比べて画質の差が殆ど無い。


①に関しては、以下の対策が必要になります。

1)ISO感度を上げる


一眼の場合、ISO感度をオートに設定すると、高画質を優先するためにひたすらISO100で撮る様な露出設定になります。

例えば、曇りの屋外(EV12程度)より明るい環境でしたら、ISO感度は100に固定されると思っても良いほどです。

EV12という事は、既にお伝えしました様にISO100でF4の1/250秒ですので、(レンズの焦点距離にもよりますが)もし集合写真を撮ったらピントが外れる人もいますし、被写体が動いていたら間違いなくブレが発生します。

だったら、ISO感度を例えば800程度に上げるだけでも、絞りF8の1/8000秒に設定すれば、ピンボケも手ブレも被写体ブレも防ぐ事ができます。

機種によっては、ISOオート時におけるシャッタースピードの低速限界を設定できますので、なるべく速いシャッタースピードに設定すればISO感度を上げてブレを防ぐ事ができます。

そう言うと、画質の低下が気になる所ですが、既にお伝えしました様に、スマホ並みの感度にすれば、その差は殆ど分かりません。


2)画素数優先から高感度優先にする


既に何度もご説明しました様に、画素数を上げると、感度が低下します。

このため、少なくとも入門機から汎用機までは、低画素機にするべきでしょう。

具体的には、1200万/1600万/2000万画素程度の低画素であれば、ISO感度を上げてピンボケやブレを防止でき、高速連写も可能で、転送速度だけでなくRAW現像もサクサク動き、画像の記憶容量も削減できます。

さらに高感度に伴って、暗い所でもストロボ無しで自然な写真撮影が可能になります。

更に言わせて頂ければ、従来高感度モデルほど高価であった事を考えれば、低価格も実現できるかもしれません。

こんなカメラがあれば、スマホに対抗でいますし、もしかしたらスマホのユーザーも触手を伸ばすかもしれません。

ちなみに現行の一眼を調べた所、下の表にあります様にカメラで1200万画素以下はフルサイズとマイクロ4/3にそれぞれ1機種ずつしかありません。

サイズ 画素数
Full 1200~5000万画素
APS-C 2000~2600画素
4/3 1000~2000画素
1型 1500~2000画素
1型未満 800~2000万画素

余りに貴重なので、その2機種を下にご紹介しておきましょう。


SONY α7S II

Lumix DC-GH5S

この2機種は、入門機というより画像の読み取り速度を優先した動画用一眼の位置づけですので、値段も汎用機より高くなっています。

それより、スチール撮影優先の低画素機がほしい所です。


3)超低画素機


ここまで来ると、もっと低画素機に興味が湧いてくるのでないでしょうか。

800万画素のフルサイズ一眼

例えば、1200万画素のフルサイズ一眼で使用可能な最大ISO感度が12800だとしますと、もしフルサイズ一眼で800万画素の一眼があったとすると、使用可能なISO感度は20000に達します。

800万画素という事は4Kモニターの解像度と同じですので、ISO100で撮れば4Kモニターでの最高画質を享受できる事になります。

400万画素のフルサイズ一眼

そしてもし400万画素の一眼があったとしたら、何とISO感度34800が使える事になります。

ISO34800と聞いてもピント来ないでしょうが、ISO100より10段階も高いのです。

ですのでもしEV4程度の暗い部屋(夜の電車の車内)でしたら、ISO100ですとF2の1/4秒になり手持ちでの撮影は殆ど不可能ですが、ISO34800ですとF8の1/250秒と晴れた屋外並みの撮影が可能になるのです。

となれば、夜景撮影の概念が一変してしまうのではないでしょうか。

そもそも一部のユーザーしか使いきれない5000万画素の一眼をリリースするのでしたら、それより多いであろう低画素高感度の一眼もリリースしてくれても良さそうなものです。


4)画素数切り替え機能


続いては、少々ハードルが高いのですが、1台で高画素と高感度を切り替えられる機能がほしい所です。

これは普段は1画素を単独で使い、高感度にしたい場合は、隣り合う複数の画素を合わせて一つの画素として扱い、1画素当たりの受光量をアップさせるというものです。

丁度キヤノンが採用しているデュアルピクセルCMOS AFに似た感じです。


EOS RPに搭載されたデュアルピクセルCMOS AF

これは一つの画素を2分割してAF用として使い、画像の読み込み時は二つのセルの受光量を足し合わせるというものです。

ただし本来1画素の受光面にはベイヤー配列の異なる色のフィルターが乗っているので、周囲の1画素を合算するなどという無謀な事は到底できません。


1画素の上には赤青緑の異なるフィルターが乗っている

ところが、以下の様な配列にすれば、周囲の画素を合算できるのです。


ソニーのQuad Bayer配列による解像度切り替えのイメージ図

これによって、一つの撮像素子で1200万画素と4800万画素を切り替えられるのですが、撮像素子が1/2型とかなり小さい事から、フルサイズで行なうのはかなり難しいかもしれませんが、可能性はゼロでありません。


ソニーの解像度切り替え可能積層型CMOSイメージセンサーIMX586

この場合、低解像度が基準で、高解像度においてベイヤー配列への変換誤差による画質低下が発生する事から、低解像度優先という観点からも期待が持てます。

また先ほどお話したキヤノンのデュアルピクセルCMOS AFが、クアッドピクセルCMOS AFに発展した際、間違いなくこの解像度切り替えに挑戦してくるのではないでしょうか。

そうなったら、ぜひ1200万画素と4800万画素の切り替えではなく、800万画素と3200万画素の切り替え、或いは400万画素と1600万画素の切り替えをお願いしたいものです。


4)画素数切り替え機能2

2020/3/29:追記

先ほどの画素数切り替えは、撮像素子自体を換えなければいけないので、少々ハードルが高いのですが、もう少しハードルの低い方法をお知らせいたいと思います。

それは、一般的なベイヤー配列の4素子で一つの画素として扱う事です。


ベイヤー配列は4素子で一つの色を正確に把握できる

ご存知かもしれませんが、撮像素子の上にはローパスフィルターと呼ばれるガラスが乗っています。


撮像素子に搭載されているローパスフィルター

これはモアレや偽色を防ぐ、まるで磨りガラスの様に思われている方が多い様ですが、実際には1本の光を4本に分光する2枚の複屈折板を貼り合わせた薄い透明の板なのです。


複屈折板を通して文字を見ると、文字が二つに見える

そして、これが何をしているかと言えば、1本の光を4本に分光しているのです。


屈折方向の異なる複屈折板2枚に光を通すと、1本の光が4本に分かれる

これによって、1本の光をベイヤー配列の4色の素子に同じ光を当てて、偽色の原因となる色の補完を少しでも減らして原色に近づけようとしているのです。

とは言いながらも、1画素に3色の情報を持たせているので、補完がゼロになる訳ではありません。

となったら、この4画素を1画素として、画像処理を行えば、理論的に補完ゼロの原色の色情報が入手できるのです。

ただし4画素を1画素として扱うので、画素数は1/4になってしまうのは当然ながら、物理的な1画素の大きさは変わらないため、単純に感度が4倍にはなりません。

ただし緑の画素が2個になるため、疑似的に感度を2倍にはできそうです。

これでしたら、撮像素子を変更する事もなく、(解像度は1/4に低下するものの)画像処理だけで画質は2倍良くなって、感度は2倍良くなります。

もっと言わせて頂ければ、カメラ側には何も変更を加える事なく、RAW現像ソフトだけでも画素数切り替えができるかもしれません。

何とか対応して頂けないものでしょうか。


8:フィルム時代はなぜこんな事が起きなかったのか?


全くの余談なのですが、この話もしておきましょう。

フィルム時代も、コンパクトカメラと一眼レフが存在しました。


以前のコンパクトカメラと一眼レフは同じ大きさのフィルムを使っていた

ですがその時代は、コンパクトカメラから一眼レフにステップアップすれば、間違いなくもっと綺麗な写真が撮れる様になりました。

その理由は、コンパクトカメラも一眼レフも同じ大きさの35mmフィルムを使っていたので、同じ露出設定でコンパクトカメラの方が被写界深度が深いという様な事がなかったからです。

このため、一眼レフのレンズやボディーの性能の高さが、直接画像に反映されたのです。

ただし、一時期それより小さなフィルムを使ったカメラがありました。

それが下にあります110フィルム(13 x 17mm)を使ったポケットカメラです。


110フィルムを使ったミノルタのWEATHERMATIC A(26mm F3.5)

フィルムサイズが13 x 17mmという事は、マイクロ4/3サイズとほぼ同じですので、これでしたら2段階分フルサイズより被写界深度が深くなり、確かに気軽に撮る事ができました。

ただしフィルムサイズが小さく大伸ばしができないので、一眼レフの脅威になる事もなく、やがて廃(すた)れていく事になります。

ですが、もしこの時点でISO100のままA3サイズまでプリントできる小型フィルムが開発されていたら、ここで下克上が起きていたのかもしれません。

スマホとフィルム

かなり大雑把な値ですが、従来のISO100程度の35mmフィルムの解像度は800万画素程度ではないでしょうか。

だとしますと、プリントできるのはせいぜいB4サイズ(257 x 364mm)程度になります。

また前述の110フィルムは35mmフィルムの1/4の大きさですので、画素数は200万画素になり、プリントできるのは頑張って葉書サイズ(100 x 148mm)程度です。

にも関わらずそれより遥かに小さいスマホの撮像素子は、1200万画素でA3(297 x 420mm)までプリントできるのです。

フィルム時代の経験則が通じないのは、こんなカラクリがあったのです。

ついでなのでお伝えしますと、35mmとフィルムサイズが異なるのは、中判カメラでも言えます。

例えば下の6x7判ですと、フィルムサイズは56×69mmになりますので、35mmフィルムに対して2段分被写界深度が浅くなります。


中判の場合、フルサイズより被写界深度が2段階浅くなる(写真はMamiya RB67)

たった2段階なのですが、現像したフィルムを見るとピントが甘く、止む無く被写界深度を深くすると、今度はシャッタースピードが遅くなってブレが目立つ事になり、室内での手持ち撮影はほとんど不可能な状態でした。

たった2段階でもこうなのですから、スマホ撮影になれた方が一眼に移行したら、それはスマホの方が写りが良かったと思うのは当然の事でしょう。


9:まとめ


さてまとめです。

①スマホの普及によって、一眼まで販売台数が落ちているのには、二つの理由がある。

一つ目は、スマホに比べてピンボケやブレが起き易い(撮影が難しい)事と、二つ目はその割にスマホと比べて画質の差が殆ど無いからである。

②一つ目の原因は、同じ露出設定の場合、スマホの方が被写界深度が深くなるので、その分ピンボケとブレを防げるためである。

③二つ目の原因は、一眼の方が撮像素子が大きい分高感度になるが、スマホと同じ様にピンボケとブレを防ぐためにISO感度を上げると、画質はスマホと同じになってしまうからである。

④更に一眼がスマホより高画素だと、ピンボケとブレをスマホ並みに抑えると、画質はスマホよりも劣る結果になってしまう。

⑤このため、スマホからステップアップしたユーザーをがっかりさせないためには、常用ISO感度をアップした自動露出のプログラムが必要である。

⑥またスマホに対抗するためには、一般ユーザーには何のメリットもない高画素化はやめ、入門機、或いは汎用機は1200万画素/1600万画素/2000万画素程度に抑えるべきである。

⑦更にスマホ迎撃用として、800万画素以下の超高感度カメラを用意し、暗闇での撮影スタイルを一変させるのも手かもしれない。

いずれにしろ、このままでは商用と趣味で光学ボケを目指す人しか一眼を買わないのではないかと危惧しているのですが、いかがでしょうか?




なぜレンズ交換式カメラまでもがスマホに負けたのか?





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