ISO感度を上げて撮らなければカメラは生き残れない
(スマホの被写界深度が深い理由を探っていて分かった衝撃の事実)

2020/02/29:発行

はじめに


先日こちら(撮像素子のサイズと被写界深度の関係)の記事の最後におきまして、以下の様な気になる一言を付け加えさせて頂きました。

撮像素子が小さければ小さい程、ピントが合い易い、すなわち被写界深度が深くなるのは間違いありません。

ですが、一概にそう断言できるのかと言うと、実はそうでもないのです。

という訳で、ここではそう断言できない理由をお伝えしたいと思います。

と思いながら書き始めたのですが、予想外の結末に至りました。

かなりマニアックな話なのですが、もしかしたらカメラを使って写真を撮る場合の大きなヒントになるかもしれません。

手前味噌ながら、間違いなく幣サイトの最高傑作です。



前回までのあらすじ


前回の記事におきましては、スマホのカメラとフルサイズのカメラを比べると、同じ画角で同じ絞り値であっても、下の表にある様にスマホの方が絞り5段分も被写界深度が深くなるとお伝えしました。

サイズ FULL APS-C APS-C
(Canon)
4/3 1型 1/1.7型 1/2.3型
段数 0 1.2 1.4 2.0 2.9 4.4 4.9
フルサイズを基準とした同じ被写界深度となる絞りの段数

実際スマホで写真を撮ると、被写界深度の深い写真が撮れるので、ここまでは特に問題なくご理解頂けると思います。


ISO感度の差


だとしますと、被写界深度が深くなる様に撮りたいのならば、フルサイズのカメラよりスマホで撮った方が良いと、断言できますでしょうか?

その通り、と答えるのは早計です。

何故ならば、フルサイズのカメラの方がISO感度は明らかにスマホを上回るからです。

ですので、被写界深度を深くしたいのならば、スマホ以上にISO感度を上げて撮れば良いのです。

そうすれば、もっと絞りを絞って、スマホ並みの被写界深度を得る事ができるかもしれません。

ではフルサイズのISO感度は、スマホよりどれくらい上なのでしょうか?

カメラの仕様書からISO感度を調べてみても良いのですが、手っ取り早くそれを計算で求めてみたいと思います。

カメラのISO感度は、理論上撮像素子の1画素の大きさに比例しますので、もし画素数が同じで構成も同じだとしますと、撮像素子の大きさに比例する事になります。

ですので、撮像素子の大きさを比較すれば、カメラとスマホのISO感度が比較できます。

早速計算してみると、以下の様になりました。

サイズ\項目 Full APS-C APS-C
(Canon)
4/3 1型 1/1.7型 1/2.3型
横(mm) 36 23.6 22.2 17.3 13.2 7.6 6.3
縦(mm) 24 15.6 14.8 13 8.8 5.7 4.7
面積(mm²) 864 368.16 328.56 224.9 116.16 43.32 29.61
面積比
(ISO感度)
100% 43% 38% 26% 13% 5% 3%
段数 0 -1.2 -1.4 -1.9 -2.9 -4.3 -4.9
フルサイズを基準とした面積比とその段数(面積比の2を底とした対数)

上の表をご覧頂きます様に、スマホに搭載されているのが1/2.3型の撮像素子だとすると、フルサイズの撮像素子と比べるとたったの3%しかありません。


フルサイズカメラとスマホ(1/2.3型)の撮像素子の関係

という事は、スマホのISO感度はフルサイズの3%しかないという事です。

逆に言えば、フルサイズのカメラのISO感度はスマホの30倍(=864mm²÷29.61mm²)もあるという事です。

これをISO感度の段数で表すと、4.9段(エクセル表記でLOG(30,2))になりますので、フルサイズのISO感度はスマホより4.9段優れているという訳です。

ですので、被写界深度の深い写真を撮りたいのであれば、フルサイズなら更に4.9段分ISO感度を上げるアドバンテージがあり、それに伴い絞りを4.9段分絞る事ができるという訳です。

ところで、4.9段分と聞いて、どこかで似た様な数値を見た事は無かったでしょうか?


実は被写界深度は同じだった


そうなのです。

実は幣サイトもこの計算を行うまでは全く気が付かなかったのですが、先ほどご紹介した”フルサイズを基準とした同じ被写界深度となる絞りの段数”の表(下表)にあった、1/2.3型の4.9段と極めて近似しているのです。

サイズ FULL APS-C APS-C
(Canon)
4/3 1型 1/1.7型 1/2.3型
段数 0 1.2 1.4 2.0 2.9 4.4 4.9
フルサイズを基準とした同じ被写界深度となる絞りの段数

ちなみに下の表は、先ほどの面積の表から段数の部分だけを抜き出したものです。

サイズ Full APS-C APS-C
(Canon)
4/3 1型 1/1.7型 1/2.3型
段数 0 -1.2 -1.4 -1.9 -2.9 -4.3 -4.9
フルサイズを基準としたISO感度の差(段数)

上の表は被写界深度の計算から、下の表は撮像素子の面積から求めたのですが、途中の計算の桁数で多少の違いは出てはいるものの、両者の値は同じだと見て間違いないでしょう。

という事は、フルサイズのカメラにおいてアドバンテージ分ISO感度をアップさせれば、スマホと同じ被写界深度になるのです。

かなりビックリする様な事実ではないでしょうか。


ISO3200の勧め


とは言いながらも、同じISO感度で撮っている限り、スマホの方が被写界深度が深いのは変わりません。

ですが、これから一気に話題が転じます。

もしフルサイズのカメラのISO感度がスマホより30倍(4.9段)も上なのであれば、フルサイズのカメラの標準ISO感度は、ISO100ではなくその5段階上のISO3200を使うべきではないでしょうか。

普通に考えれば、ISO100が最もノイズが少なく諧調性も一番良い筈なので、気持的にはフルサイズのカメラであっても、なるべくISO100で撮るべきだと思ってしまいます。

ところが、理論的に考えればフルサイズのISO3200の画像とスマホのISO100の画像は、同じ画質になるのです。

にも関わらず、フルサイズのカメラにおいてISO100で撮り続けるという事は、スマホより30倍も多く受けている光のエネルギーをひたすら画像向上に使っていながら、撮った写真をスマホの写真と見比べてみると誰にもその違いが分からないのです。

実際フルサイズのカメラでISO感度を100~3200まで変えても、殆ど違いが分かりません。

だったら積極的にISO感度を上げるべきでしょう。

では、もしフルサイズのカメラでISO感度を3200にして撮ったら、どんな良い事があるのでしょう。

例えばシャッタースピードを5段階上げたら、1/60秒を1/2000秒まで上げる事ができますので、手振れも大幅に軽減でき、更には手振れ補正では決して対応できない被写体振れまでも抑える事ができるのです。

もっと言わせて頂ければ、高価な手振れ補正機構も不要になってしまいます。

また当然ながら、絞りを5段階絞れれば、被写界深度はスマホ並みになりますので、ピンボケはまず発生しません。

そしてもっと重要なのは、スマホはフルサイズのカメラにおけるISO3200と同じ事を既にやっているという事です。

何故ならば、同じ露出設定でもスマホの方が被写界深度が5段階も深いのですから、敢て絞りを絞らずにシャッタースピードを上げる事だってできるのです。

故に、こうも言えるのではないでしょうか。

スマホがカメラよりピンボケやブレの失敗写真が少ないのは、(スマホが価格の割に優れているのではなく)カメラが本来有している性能を使わずにISO100で撮り続けているからであると。

ならば、スマホに対抗するためには、ISO感度を常に100にするという固定観念を捨てるべきではないでしょうか。


お勧め常用ISO感度


だったら試しにISO感度を常時上げて撮ってみようかと思われた方に、機種別のお勧め常用ISO感度をお伝えしたいと思います。

先にお伝えしました”フルサイズを基準としたISO感度の差(段数)”の表は、あくまでも撮像素子の画素数も構成も同じ場合です。

ですので、仮にスマホの画素数が1200万画素だとすると、構成が同じ1200万画素のフルサイズならばISO感度を5段階上げる事ができます。

ですがフルサイズの2400万画素ですと、1画素の面積が半分になりますので、ISO感度を4段階しか上げる事ができません。

構成の違いは置いといて、撮像素子のサイズと画素数だけで、スマホに対抗できるお勧めのISO感度を算出すると以下の様になります。

撮像素子 画素数 お勧めISO感度
Full 1200万画素 3200
2000万画素 1600
2400万画素 1600
2600万画素 1250
3200万画素 1000
4800万画素 800
APS-C 2000万画素 800
2400万画素 640
2600万画素 640
APS-C
(Canon)
2000万画素 640
2400万画素 500
4/3 1000万画素 1000
1600万画素 500
2000万画素 500
1型 2000万画素 250

こうやって眺めると、かなり妥当な線ではないでしょうか。

フルサイズでISO3200と聞くと多少尻込みするかもしれませんが、2400万画素でISO1600と聞けばかなり気楽に設定できます。

ただし。

ただし、ISO1600でスマホと対等になれますが、スマホを抜くまでには至りません。

スマホを抜くには、ISO1600を超えるISO値を選択する必要があるのです。

幸いカメラには、スマホの高性能CPUよりも遥かに早い専用のプロセッサー(映像エンジン)を搭載していますので、機種によっては画質を維持したまま更にISO感度を高める事ができます。

ですので、どこまでISO感度を高められるかご自分で見極めて、スマホを凌駕して頂ければと思います。


まとめ


いかがでしょうか。

今までISO100にこだわっていた方も、ISO感度を上げて撮ってみる気になって頂けましたでしょうか。

それではまとめです。

①ISO感度が同じあれば、フルサイズのカメラよりスマホのカメラの方が、被写界深度は5段階深くなる。

②ただし、フルサイズのカメラは、スマホのカメラのよりISO感度が理論上5段階高いので、ISO感度を5段階上げて、その分絞りを絞れば被写界深度は同じになる。

③また、フルサイズのISO3200の画像は、スマホのISO100の画像と同等である。

④故に両者の画像を比べるのであれば、フルサイズはISO3200にして、絞りを絞るかシャッタースピードを上げなければならない。

⑤にも関わらず、フルサイズはISO100を標準として使っているので、(フルサイズのISO3200と同じ被写界深度とシャッタースピードを使う)スマホの方が断然が失敗写真が少なくなる。

④このため撮像素子の大きなカメラを使用する場合は、常時その性能に見合った分ISO感度を上げて撮らない限り、スマホに太刀打ちできない。


すなわち、ISO感度を上げて撮らなければ、この先カメラは生き残れない。

と言ったら、言い過ぎでしょうか?




ISO感度を上げて撮らなければカメラは生き残れない
(スマホの被写界深度が深い理由を探っていて分かった衝撃の事実)





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