アンブレラの理想的なセッティング方法
2019/2:発行
はじめに
暗い室内の撮影では、扱いの容易なアンブレラを良く見かけます。
ですが、アンブレラを支える市販ホルダーの構造のせいもあるのですが、意外に正しく使っていないケースも多々見受けられます。
例えば以下の様なセッティングは、(非常に良く見掛けるのですが)いくつか問題があるのをお気付きでしょうか?
一般的なアンブレラのセッティング
という訳で、今回はアンブレラの理想的なセッティング方法についてお話したいと思います。
なお本書では、アンブレラの布の部分を傘と呼び、柄や骨を含めた全体をアンブレラと呼ぶ事にします。
またここでは光量ムラが良く分かる様に透過式のアンブレラを使っています事、ご容赦願います。
照射角200mm相当
それでは、百聞は一見にしかず。
上の状態で、早速ストロボを光らせみましょう。
そうすれば問題点が一目瞭然です。
照射角200mm相当
上の写真は、ストロボの照射角を故意に200mmと非常に狭くして発光した場合ですが、これで言いたい事のほぼ全てを分かって頂けると思います。
問題点は2つあります。(実際には3点あるのですが、それは最後にお伝えします)
先ず1点目はストロボの光が傘の一部分にしか当たっていない事です。
そして2点目は、光の中心部が傘の中心からズレている事です。
ちなみ、今回使用しているアンブレラは直径120cmの透過(ルーセント)式の物なのですが、上の場合でしたら直径30cm程度の小さなアンブレラを使っているのと同じ事になってしまいます。
なお以降の写真は、ストロボの発光量も、これを撮影してカメラの露出設定も全て同じになっていますので、アンブレラやストロボのセッティングによって、傘の明るさがどれくらい変わるか比較する事が可能です。
照射角20mm相当
前述の場合、ストロボの照射角が200mmと非常に狭いので、照射角度を拡げれば、ソコソコいけるのではないかと思われる事でしょう。
では早速、照射角を拡げてみましょう。
照射角20mm相当
するとどうでしょう。
上の写真は照射角度を超広角の20mm相当に拡げているのですが、それでもこの程度にしか光は拡がらないのです。
先ほど光の範囲が直径30cm程度だとしたら、これでようやく直径50cm位といった所でしょうか。
照射角14mm相当
ならばストロボの発光部にワイドパネルを装着して、照射角を14mm相当にしたらどうなるでしょうか?
するとこうなります。
照射角14mm相当
上の写真をご覧頂く様に、左右方向には光が届く様になったのですが、傘の上下方向は相変わらず暗くなっているのが分かります。
ではどうするか。
照射方向を下げる
当然ながらストロボと傘の距離を離して、ストロボの光を更に拡げてやれば良いのですが、それは次にやるとして、先ずはストロボのヘッドを下向きにして、照射方向を傘の中心部に向けてやりましょう。
ヘッドを下向き/照射角200mm相当
生憎ストロボのヘッドは下方向にはそれほど向かないのですが、上の写真を見れば、それでも照射位置が以前より傘の中心に近くなったのが分かると思います。
これで、更に照射角を20mm相当にしたのが以下の写真です。
ヘッドを下向き/照射角20mm相当
とてつもなく改善されたとは言えないのですが、多少良くなっているのは分かると思います。
そしてワイドパネルを付けて、14mm相当にした結果が以下です。
ヘッドを下向き/照射角14mm相当
上下方向のムラは変わりませんが、傘の下側は多少明るくなったのは分かって頂けると思います。
傘とストロボの距離を離す
それでは次に、いよいよ傘とストロボの距離を離してみましょう。
果たしてどれくらい改善されるでしょうか?
下は照射角度が200mm相当の場合ですが、当然ながら以前より光が拡がって、更に光の中心部が僅かながら下がっているのが分かると思います。
ヘッドを下向き/ストロボと傘を離す/照射角200mm相当
そして照射角を20mmにすると、傘の横方向についてはほぼ全面に光を照射できる様になりました。
ヘッドを下向き/ストロボと傘を離す/照射角20mm相当
更に、ワイドパネルを装着して照射角を14mm相当にすると、以下の様に光が満遍なく行き渡る様になりました。
ヘッドを下向き/ストロボと傘を離す/照射角14mm相当
ただし14mm相当にすると、アンブレラの明るさが20mmと比べて相当暗くなる事と、依然下側が暗いのが分かると思います。
さらに周囲にある部屋のカーテンも光っている事から、ストロボの光がアンブレラの外にも漏れている事も分かります。
このため、もし直径90cm前後のアンブレラでしたら、照射角は20mm相当が適切かもしれません。
ここまでのまとめ
それでは、ここまでのまとめです。
①アンブレラを使う場合は、傘とストロボの距離を離す。
②そしてストロボの光をなるべく傘の中心部に当てる。
③更にストロボの照射角を一番ワイドに設定する。
ここまで分かってくれば、更にアンブレラに当たる光を均一にしたいと思われるのではないでしょうか?
と言う訳で、本書はまだ続きます。
改良編
それでは、アンブレラを均一に光らせるためには、どうすれば良いでしょう。
誰でも思い付くでしょうが、ストロボの光を、更に傘の中心部に当ててやれば良いのです。
具体的には、アンブレラの柄の後端にもう1個別のホルダーを差し込み、その上にストレートに伸ばしたストロボを乗せゴムバンド等で固定します。
柄の後端にもう1個別のホルダーを差し込み、その上に伸ばしたストロボを乗せる
こうすれば、ストロボの光がより傘の中心部に当たる事になると共に、もう一つのメリットがあります。
それはストロボの荷重が、アンブレラの柄の後ろ側にも掛かる事によって、アンブレラが自重で下に向くのを抑えられる事です。
ついでに言えば、アンブレラのバランスが良くなる事から、アンブレラを支えているライトスタンド自体も安定します。
この状態で、照射角を20mm相当にして発光したのが、以下の写真になります。
ストロボと傘を離す/ストロボを下げる/照射角20mm相当
光の中心が傘の中心にある事が分かると思います。
さらに照射角を14mm相当にして発光したのが、以下の写真になります。
ストロボと傘を離す/ストロボを下げる/照射角14mm相当
ストロボの発光特性(横長の配光)から、どうしても傘の上下方向が暗い傾向はありますが、下側が極端に暗いという傾向は多少改善されました。
ただし、アンブレラの上下が依然暗い(モデルの顔と足元が暗い)のは許せない、という方もいらっしゃる事でしょう。
そんな場合は、ストロボの発光面を縦にすれば、(左右は暗くなりますが)アンブレラの上下方向を明るくできます。
まとめ
それでは最後にまとめです。
問題だらけのアンブレラのセッティング
上の様なセッティングだと、
①ストロボと傘の距離が近いと、ストロボの光が傘全体に当たらない。
②ストロボの光軸と傘の中心軸が大きくズレていると、ストロボの光が傘に均一に当たらない。
③ストロボと傘の距離を離すと、傘の自重でアンブレラが下がっったり、ライトスタンドが不安定になる。
このために、以下の様なセッティングにして広角発光すれば、全てが解消する。
柄の後端にもう1個別のホルダーを差し込み、その上に伸ばしたストロボを乗せる
本書がお役に立てば、幸いです。
なお、今後アンブレラと被写体との関係についても述べたいと思いますので、気長にお待ち頂ければ幸甚です。
アンブレラの正しい使い方