スマホとカメラのお勧めの組み合わせ

2020/08:発行

目次



1. はじめに


読者の方より、スマホとカメラのお勧めの組み合わせはどれか、というお題を頂戴しました。

恐らくお尋ね頂いた主旨としては、こんなスマホにはこんなカメラが良いという様な具体的なご提案を期待されているとは思うのですが、生憎スマホにはさほど詳しくない事もあって、一般論としてのお勧めのカメラをご紹介したいと思います。

なお本書は”スマホとカメラの画質の差”の記事の後編になりますので、もしまだお読み頂いていないとしたら、事前にご一読頂ければ幸いです。


2. 前編のまとめ


それでは、忘れている方のために、前編の”スマホとカメラの画質の差”のまとめからご紹介したいと思います。

①フルサイズ機は画質が良いと思われているが、画質が良いのはISO100(低ISO感度)で撮影しているときだけである。

②もしフルサイズ機をISO200(正確には225)にして撮るとAPS-Cサイズ機のISO100、ISO400ならばマイクロ4/3サイズ機のISO100、ISO800(正確には740)ならば1型サイズ機のISO100で撮るのと同じ画質になる。

③故に、もしブレやピンボケを減らす事を優先するのであれば、元々被写界深度の深い撮像素子の小さな機種を選択するのが賢明である。


④フルサイズ機の魅力は、ISO100(低ISO感度)で画質が良い事と、被写界深度を浅くして(ボケを強調して)撮れる事である。

以上のまとめを後編用にアレンジすると、スマホに対するカメラの優位性は、搭載する撮像素子が大きいほど低感度撮影においてスマホより画質が良い事と、ボケを表現し易くなる事だと言えます。

ここまでご納得して頂いた所で、早速本題に入りたいと思います。

と言いたい所ですが、まだ前編でお伝えしていなかった事がありますので、それについて述べたいと思います。


3. 画質とボケは比例する


前編で述べていなかった事は何かと言いますと、画質とボケの関係です。

何方(どなた)も画質とボケは全く異なるものだと思われるでしょうが(確かにそうなのですが)、実は両者には密接な関係があるのです。

具体的には、背景がボケた写真ほど、画質は良いのです。

別の言い方をすると、背景のボケた写真にすればするほど、画質自体は向上するのです。

直感的に分かり難い話なので、順を追って説明します。

既に何度もお伝えしております様に、カメラは画質が良いのと、ボケを表現し易いのが長所です。

逆に言えば、スマホは画質がカメラより劣る事と、ボケを表現し難いのが短所と言えます。

ところがです。

カメラにおいて、どんどんISO感度を上げて、同時に絞りを絞って、スマホと同じ様に被写界深度の深い(ボケの無い)写真を撮ると、画質はスマホと同じになってしまうのです。(詳細はこちら

ですので、背景がボケた写真ほど画質は良く、背景がクッキリ写った写真ほど画質は劣るという、何とも奇妙な法則が成り立つのです。

すなわち、画質とボケは比例するのです。

これは幣サイト以外では全く述べられてない事ですし、何方も全く認識されていない事だと思いますが、紛れもない事実ですので、是非ここで覚えておいて頂ければと思います。


4. 実質的な違いはボケ


先ほど、背景がボケた写真ほど画質は良く、背景がクッキリ写った写真ほど画質は劣るとお伝えしました。

ですが、その撮った写真を見る限り、画質の差が分かる方は殆どいらっしゃらないでしょう。

実際下はフルサイズ機に85mm F1.2のレンズを付けて、絞りを変えて撮った写真ですが、背景のボケの大きさが異なるものの、画質に違いがあると分かる方は皆無でしょう。


写真が小さいからと思われるかもしれませんが、等倍にしても違いなどわかりません。

もし気が付くとすれば、ISO感度を上げ過ぎてノイズが発生したときくらいでしょう。

その理由は、本来フルサイズ機で撮った写真(RAWファイル)には1色12ビット(4096諧調)~16ビット(65536諧調)もの分解能で、ダイナミックレンジ70dB(11.6EV)以上の膨大なデータが含まれています。

ところがそれを写真の標準ファイルであるJPEGに変換すると、一般的なモニター用に1色たったの8ビット(256諧調)に圧縮され、更にダイナミックレンジを40dB(6.6EV)程度に狭められてしまうためです。

このためJPEGファイルは、例え最高画質であってもRAWファイルより容量が1/3~1/4に小さくなるという訳です。

そんな訳で、紙にプリントされた写真やモニターに映し出された写真を見る限り、スマホとカメラの実質的な違いは、ボケ具合だけだと言えます。(ただしRAWファイルを現像する場合、低ISO感度で撮った写真の方が間違いなく調整幅が広くなります)

なお上の写真の絞り値がやけに中途半端な理由は、後ほどご説明します。


5. ボケを楽しみたいならフルサイズ機


いつもの通りすっかり前置きが長くなってしまいましたが、以上を知って頂いた上で、いよいよ幣サイトお勧めのカメラをご紹介したいと思います。

ボケ難いスマホと異なり、ボケ易い(そのとき画質が一番良い)カメラと言ったら、当然フルサイズ機になります。

ではフルサイズ機と、それより小さな撮像素子を搭載した小サイズ機はどれほど、ボケ量が違うのかお見せしたいと思います。


これは先ほどお見せした写真と同じなのですが、写真の下に書かれたキャプションが異なるのに気付いて頂けましたでしょうか?

これをご覧頂きます様に、フルサイズの85mmと同じ画角で、同じ絞りF1.2のレンズを使って写真を撮ると、撮像素子が小さくなるにつれてボケの大きさが小さくなっていくのを分かって頂けると思います。

具体的には下の表にあります様に、APS-Cサイズ機のボケ量はフルサイズ機の65%になり、マイクロ4/3機でしたらその半分になるという訳です。

サイズ FULL APS-C APS-C
(Canon)
4/3 1型 1/1.7型 1/2.3型
段数 100% 65% 62% 50% 37% 22% 18%
フルサイズを基準としたボケの大きさ比較

なお上の写真をご覧になると、マイクロ4/3サイズ機でもそこそこボケを表現できると思われる事でしょう。

ですが、もう少し被写体から離れると以下の様になってしまうのです。


ですので、ボケに拘(こだわ)りたいのなら、思い切って最初からフルサイズ機を購入した方が、あとあと後悔しないで済むと言えます。

またこれから購入するとなると、当然ながら一眼レフより各社が力を入れて将来性のあるミラーレス一眼になるでしょう。


α7R IV
(6100万画素)

α7 III
(2400万画素)

Nikon Z5
(2400万画素)

EOS RP
(2600万画素)

Lumix S1
(2400万画素)

その場合、高画素モデルや標準モデルや入門モデル等、一通り揃っていますのでので、あとは懐具合と好みで選べば良いのではないでしょうか。


6. ボケが不要なら小サイズ機


先ほどはボケに拘(こだわ)るのでしたらフルサイズ機をお勧めしましたが、この場合その幣害としてピンボケ写真が多くなります。

恐らくいきなりフルサイズ機を使ってレンズの絞りを開放にしてバシャバシャ撮ると、ピントの甘い写真を量産する事になるでしょう。

例えば、人物写真において仮に瞳にピントが合っていても、髪や鼻先がボケていると、全体的にピントの甘い写真に見えてしまうのです。

また望遠レンズを使う、野鳥や飛行機、鉄道系の写真の場合、ボケよりもむしろ被写体にしっかりピントが合っている事が最優先になりますので、そんな場合は小サイズの撮像素子を搭載したカメラの購入をお勧めします。


Nikon Z50
(2000万画素)

α6500
(2400万画素)

X-T4
(2600万画素)

E-M1 Mark III
(2000万画素)

DC-G9
(2000万画素)

ところで、上の小サイズ機の値段と先ほどご紹介したフルサイズ機の値段を比べると、確かにフルサイズ機の方が高いのは間違いなのですが、思ったほど大きな差は無い事に気付いて頂ければと思います。


7. まとめ


期待された内容ではなかったとは思いますが、いかがだったでしょうか。

誰でも優秀なスマホをお持ちの今日において、フルサイズ機を購入するか、小サイズ機を購入するかとなれば、柄は大きくて高価なものの、ボケを思いっきり表現できるフルサイズ機を思い切って買った方が良いのではないかというのが本書の結論です。

なにしろ、フルサイズ機でもISO感度を上げて絞りを絞って撮れば、小サイズ機と同じ様にピントの合った写真を量産できるのですから。

一方小サイズ機は小型軽量で価格も幾分安いものの、絞りをいくら開けても、フルサイズ並みのボケを表現する事は決してできないのですから。

とは言っても、明るいレンズを含めれば間違いなく高価で大柄なフルサイズ機にするか、それとも先ずは多少財布に優しく小型軽量の小サイズ機にするか悩んでいる方に、本書取って置きの裏技をご紹介したいと

ご存知の様にソニーとニコンのミラーレス一眼は、同じレンズマウントでフルサイズ用とAPS-Cサイズ用の両方のレンズを用意しています。


α7R IV
(6100万画素)

α7 III
(2400万画素)

SONY
E16mm F2.8

Nikon Z5
(2400万画素)

NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR
αシリーズとZシリーズはフルサイズ用とAPS-Cサイズ用の両方のレンズが使える

このため両社のフルサイズ機を購入すれば、ボケを表現できる高価なフルサイズ用レンズと、(画素数は減りますが)ピントが合い易い廉価なAPS-Cサイズ用の両方のレンズが使える事になります。

フルサイズ機にするか、小サイズ機にするか、悩んでいる方にはお勧めではないでしょうか。

なお、余り知られていませんが、ライカやシグマからLマウントのAPS-Cサイズ用レンズが発売されていますので、Lumix S1シリーズでもAPS-Cサイズ用レンズは使えます。


ELMARIT TL
f2.8/18mm

SIGMA
30mm F1.4 DC DN
LマウントのAPS-Cサイズ用レンズ

ただしライカのレンズの場合、ビックリする程値段が高いので、桁を間違えない様にご注意願います。

恐らくキヤノンも、今後RFマウントのAPS-Cサイズ機を出すと思うのですが、どうなんでしょう。



スマホとカメラのお勧めの組み合わせ





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