スマホとカメラの画質の差
目次
1. はじめに
恐らく大多数の方が気付かれている事でしょう。
スマホとカメラで撮った写真を見比べても、殆ど差がないという事を。
iPhone XS vs Sony α7III
実際上の2枚の写真は、スマホとフルサイズ一眼で撮り比べた写真なのですが、どちらがどちらのカメラで撮ったか即答できる方は殆どいらっしゃらないでしょう。
iPhone XSとSony α7III
一方大多数の方が、そうは言ってもカメラもレンズも大きくて重くて高価なカメラの方が、綺麗に撮れるはずだ、と思われている事でしょう。
では一体どちらが正しいのでしょうか?
今回はその謎に迫ってみたいと思います。
なお途中の話が長いので、もしお忙しければ一気に6. 同じ被写界深度におけるフルサイズ機と他のカメラとの比較まで飛んで頂いても結構です。
2. 画質とは
それでは先ず、画質とは何かについて考えてみます。
思い付くのは、色の再現性ですとか、諧調性、ノイズ、ダイナミックレンジ、偽色等でしょうか。
また場合によっては、感度とか解像度も画質の中に入れる事もあるかもしれませんが、両者(感度と解像度)は画質と相反する性質があるので、本書では別のもの(後ほど述べます)として扱う事にします。
スマホとカメラの最大の差は撮像素子の大きさ
それでは次に、画質に最も関係するカメラの要素を考えてみます。
そうなるとカメラとレンズのあらゆる機能や性能が関わってくるのですが、スマホとカメラの違いに絞れば、決定的な違いは撮像素子の大きさであるのにご異論はないでしょう。
ちなみに、下にあります様にスマホで一般的な1/2.3型の撮像素子とフルサイズの撮像素子の大きさはこれほど違うのです。
左から1/2.3型、1型、フルサイズの撮像素子
これだけ大きさが異なれば、フルサイズ機の方が画質が良くなるのも当たり前でしょう。
なおこれは撮像素子全体の大きさですが、直接画質に関係するのは、撮像素子の大きさを画素数で割った1画素の大きさ(面積)になります。
そんな訳で、スマホで一般的な1/2.3型1200万画素の撮像素子と、フルサイズ機で一般的な2400万画素の撮像素子における、1画素の大きさを比較すると以下の様になります。
1/2.3型1200万画素の撮像素子とフルサイズ2400万画素の1画素の大きさ比較
これをご覧頂います様に、一般的なフルサイズ機の1画素はスマホより14.6倍も大きく、1回の露出で光を取り込める量(受光量)が、スマホより14.6倍多くなります。
そうなると、当然ながら色情報も豊富になり、より正確に色を再現できますし、暗部の画像情報が増えますのでダイナミックレンジが広くなり、それに伴って諧調性も良くなります。
1画素が大きくなると色情報が豊富になり、これに伴って画質が良くなる
また受光量が多いので、電気的に大きく増幅する必要がない分ノイズも低減できるという訳で、良い事ずくめです。
ですので、フルサイズ機は、スマホより14.6倍画質が良いと言って大きな間違いではないでしょう。
そんな訳で、他のカメラの1画素の大きさをスマホと比べてみると、以下の様になります。
スマホを基準とした1画素の受光量(1画素の大きさ比較)
これをご覧頂きます様に、やはり撮像素子の大きなカメラほど画質が良いというのは、間違い無さそうです。
3. 解像度と感度
本書では余談になってしまうのですが、ついでに解像度と感度にも触れておきましょう。
解像度
先ほどのチャートを、再度見て頂く必要もないでしょう。
同じ大きさの撮像素子で画素数が増えれば、当然1画素の大きさは小さくなりますので、1画素の受光量が減って画質は低下します。
すなわち、解像度を高くすると画質が低下するという訳です。
具体的には、もし画素数が2倍になれば、画質も1/2になります。
これは簡単なのですが、分かり難いのは次の感度です。
感度
当然ながら感度も1画素の大きさに比例しますので、先ほどのチャートでお見せした様に、スマホに対して一般的なフルサイズ機の感度は14.6倍高感度という事になります。
という事は、画質も14.6倍高感度で、感度も14.6倍高感度なので、14.6×14.6でトータル213倍も優れていると誤解してしまうかもしれませんが、そんな事はありません。
例えば、フルサイズ機のISO感度を、ISO100から200に変更した(2倍に感度を上げた)とします。
その場合、何もしないと露出オーバーになってしまいますので、絞りなりシャッタースピードを調整して、露光量を半分にする事になります。
という事は、1画素の面積が大きくても、1画素に届く光が半分になりますので、ISO100に対して画質も半分に落ちてしまうのです。
ですので、感度についても解像度と同じ様に、画質と反比例すると言えます。
このため、もし2400万画素のフルサイズ機のISO感度を14.6倍のISO1460まで上げると、画質は1/14.6になってスマホのISO100の画質と同じになってしまうという事です。
三者の関係
ここまでご理解頂いた所で、三者(画質、解像度、感度)の関係を図示すると、下のパイチャートの様になります。
画質と解像度と感度の関係を示すパイチャート
当然ながらパイチャートの大きさは一定で、そのパイを解像度と感度と画質が獲り合う事になります。
例えば、もし解像度を上げたとすると、感度と画質の領域が狭くなります。
そして感度を上げたとすると、(解像度の領域はそのままで)画質の領域を削る事になるという訳です。
早い話が、何かを良くすれば、何かが低下するという訳です。
これで三者の関係をご理解頂けましたでしょうか。
そしてこのパイの小さいのが、スマホになると思えば良いのです。
かと言って、スマホがカメラの画質を超えられないかと言えば、そんな事はありません。
それについて、これからじっくりお話しします。
4. スマホの優位性
ここまでの話を聞く限り、解像度や感度に多少削られるとは言え、撮像素子の大きなカメラの方がやはり画質が良いのは間違いないと思われる事でしょう。
ですが、ここでスマホの優位性についてお伝えします。
さて、これもまたどなたもご存知の事でしょう。
スマホで撮った写真は、撮像素子の大きなカメラで撮った写真より、背景までクッキリ写っています。
ですので最初にお見せした写真は、左の写真がスマホで撮った写真だとすぐに分かります。
iPhone XS vs Sony α7III
なぜなら、人物の背景をよく見ると右側の写真の方がボケていますし、手前の草も右側の写真の方がボケているからです。
なお左の写真の方が空が白く飛ばずに写っているのは、iPhoneが自動的に(勝手に)ダイナミックレンジを拡げる画像処理をしてくれているだけなので、ここでは取り上げません。
この理由は、スマホのレンズは撮像素子の大きなカメラより(同じ画角でも)広角系のレンズを使っているため、同じ絞り値であっても被写界深度が深くなるためです。
ではどのくらい被写界深度が深くなるのかを、計算で求めたのが以下の表になります。
項目\サイズ | 1/2.3型 | 1/1.7型 | 1型 | 4/3 | APS-C (Canon) |
APS-C | Full |
倍数 | 1倍 | 0.68倍 | 0.25倍 | 0.13倍 | 0.09倍 | 0.08倍 | 0.03倍 |
段数 | 0段 | -0.5 段 | -2.0 段 | -2.9 段 | -3.5 段 | -3.7段 | -4.9 段 |
スマホと同じ被写界深度になる絞り倍数と段数(スマホ基準)
この表をご覧頂きます様に、フルサイズ機でスマホと同じ被写界深度で撮るには、スマホの絞り値から更に4.9段も絞らなければならないのです。
という事は、スマホでISO100/シャッタースピード1/250秒/絞りF2.8で撮った写真と同じ被写界深度の写真をフルサイズで撮るとしたら、絞りを4.9段絞ったF16にしなければならないのです。
そのためには、シャッタースピードが同じであれば、ISO感度を4.9段上げてISO3300(100÷0.03)にして、露出を補正する必要があります。
ですから、被写界深度が深いという事はスマホの大きなアドバンテージになると言えます。
これをチャートで表すと以下の様になります。
スマホと同じ被写界深度になる絞り倍数と段数
ちなみにこのチャートのタイトルを”スマホと同じ被写界深度になる絞り倍数と段数”としていますが、別の言い方をすると、”スマホと同じ被写界深度にする場合の1画素の受光量”とも言えます。
なぜならば、スマホと同じ被写界深度にするには撮像素子の大きな機種ほど、絞りを絞る必要があり、(シャッタースピードを遅くしない限り)撮像素子へ届く光量を減らさなければならないからです。
すなわち、被写界深度を深くすると、(光量が増える訳ではないものの)スマホは絞りを絞らなくて良い分、光量のアドバンテージがあるという事です。
その観点からこのチャートを見ると、興味深い事が分かります。
先ず1点目が、前述のスマホを基準とした1画素の受光量を示すチャートは、撮像素子が大きい機種ほど優れていたのに対して、このチャートは撮像素子が小さいほど優れているという、真逆の傾向が見られる事です。
そして2点目は、前述のチャートは解像度によっても倍率も変化していたのに対して、こちらは解像度には関係しないという違いがあるという事です。
5. スマホと同じ被写界深度にした場合の画質
以上の事から、確かに1画素の大きさからすればフルサイズの方が画質では有利なものの、被写界深度を同じにした場合を考えると、一概にフルサイズの方が有利とも言えないという事になります。
ならば、この二つのチャートをかけ合わせたものを見たくはありませんでしょうか。
そうすれば、同じ被写界深度にした場合における、スマホとカメラの画質の差を知る事ができます。
そう思って作成したのが、下のチャートになります。
スマホと同じ被写界深度で写真を撮った場合の画質の比較
いかがでしょうか?
これをご覧頂きます様に、スマホと同じ被写界深度の写真を撮ると、むしろフルサイズ機の方が画質が低下するのを分かって頂けると思います。
その理由は、フルサイズ機の方が解像度の高い機種が多いからです。
またこの時のスマホのISO感度が100だとすると、カメラのISO感度は以下の様になります。
項目\サイズ | 1/2.3型 | 1/1.7型 | 1型 | 4/3 | APS-C (Canon) |
APS-C | Full |
ISO感度 | 100 | 146 | 407 | 758 | 1152 | 1295 | 3030 |
スマホと同じ被写界深度になるISO感度
これをご覧頂くと、”あーなるほどね”、で終わる話かもしれません。
なにしろ、フルサイズ機はISO3030まで上げるのですから、画質が低下するのは当然とも言えます。
ですが、本書がお伝えしたいのは実はこれからなのです。
6. 同じ被写界深度におけるフルサイズ機と他のカメラとの比較
先ほどは、フルサイズ機とスマホの画質を比べてみましたが、今度はフルサイズ機と直近のカメラと比べてみたいと思います。
下の表は既にお見せしたスマホと同じ被写界深度になる絞り倍数と段数の表なのですが、今回は説明し易い様にフルサイズ基準にしています。
項目\サイズ | 1/2.3型 | 1/1.7型 | 1型 | 4/3 | APS-C (Canon) |
APS-C | Full |
倍数 | 30.3倍 | 20.7倍 | 7.4倍 | 4.0倍 | 2.6倍 | 2.3倍 | 1.0倍 |
段数 | 4.9 | 4.4 | 2.9 | 2.0 | 1.4 | 1.2 | 0.0 |
スマホと同じ被写界深度になる絞り倍数と段数(フルサイズ基準)
これをご覧頂きます様に、例えばフルサイズ機をAPS-Cサイズ機と同じ被写界深度にするためには、絞りを1.2段絞らなければいけません。
という事は、(シャッタースピードが同じならば)ISO感度を1.2段上げる必要があり、仮にAPS-Cサイズ機がISO100ならば、フルサイズ機のISO感度は2.3倍のISO230にしなければなりません。
するとその瞬間、同じ画素数であればフルサイズ機の画質はAPS-Cサイズ機と同じになってしまうのです。
同じ2400万画素のα7 III(フルサイズ)とα6400(APS-Cサイズ)
ところがご存知の様に、フルサイズ機とAPS-Cサイズ機の価格はレンズを含めると倍以上違います。
α7 III(フルサイズ) |
α6400(APS-Cサイズ) |
にも関わらず、たった1段ほどISO感度を上げて同じ被写界深度にしただけで、画質は同じになってフルサイズの高画質神話はあっけなく崩壊してしまうのです。
またISO400に上げたとすると、同じ様にフルサイズ機はマイクロ4/3サイズ機になってしまうのです。
フルサイズ機の感度をISO400に上げるとマイクロ4/3サイズ機になってしまう
実際フルサイズ機を使っているユーザーでも、少しでも被写体ブレや、ピンボケを防ぐために、屋外でもISO感度をISO200とかISO400程度に上げるのは良くある事です。
また少し暗くなると、ISO800以上に上げて撮るのもごくごく普通の事です。
イベント撮影になるとISO800以上を使うのが当たり前
ちなみにとあるイベント会場にて、フルサイズ機に24-70mm F2.8の大口径標準ズームレンズを装着して、被写界深度を稼ぐため(ピンボケを防ぐため)にISO800のF8で撮ったとします。
2000万画素のフルサイズ機(Canon EOS -1DX III)+24-70mm F2.8の大口径標準ズームレンズ
すると、フルサイズでありながら1型コンデジ並みの画質になってしまうのです。
そう言うと、1型のコンデジもISO800に上げるから、結局画質はフルサイズ機の方が上と思われるかもしれません。
ですが1型コンデジは、フルサイズのISO800のF8と同じ被写界深度の写真を、ISO100のF2.8で撮れてしまうのです。
という事は、下の1型コンデジで全く同じ写真が撮れてしまうのです。
フルサイズ換算24-70mm F1.8-2.8のレンズを搭載した2000万画素の1型コンデジ(SONY RX100V)
俄(にわ)かに信じられないかもしれませんが、それが事実なのです。
しつこい様ですがもう一度繰り返しますと、2000万画素のプロ用フルサイズ機と24-70mm F2.8の大口径ズームレンズを使ってISO800のF8で撮った写真と、同じ画角で2000万画素の1型コンデジでISO100のF2.8で撮った写真とは、被写界深度や画質を含めて全く同じ写真になるのです。
生憎両機とも手元にないので写真をお見せできないのですが、いずれも2000万画素ですので、等倍にして見比べても違いが無いのは間違いあいりません。
大きな声ではいえませんが、そんなイベント会場に大きくて重いフルサイズ機を持ち込むのは、無駄としか言いようがありません。
その事に薄々気が付いているプロの方もいらっしゃるのかもしれませんが、周囲の目があって、止む無くフルサイズ機を使わざるを得ないのかもしれません。
7. まとめ
長くなってしまいましたが、それではまとめです。
①フルサイズ機はスマホより常に画質が良いと思われているが、画質が良いのは1画素の受光量が多いときだけである。
②すなわち同じ画素数であれば、フルサイズ機のISO感度を3200にして(受光量を減らして)撮ると、スマホのISO100で撮ったのと同じ画質になり、更に感度を上げるとスマホより画質が劣る事になる。
③またスマホが1200万画素だとすると、2400万画素のフルサイズ機でISO1600、4800万画素のフルサイズ機でISO800で同じ画質になる。
③このとき、(シャッタースピードが同じであれば)両者の被写界深度も同じになる。
③故に、もしブレやピンボケを減らす事を優先するのであれば、元々被写界深度の深い撮像素子の小さな機種を選択するのが賢明である。
では一体フルサイズ機の魅力は何なのでしょうか?
それは、低いISO感度であればスマホより画質が良い事と、被写界深度を浅くして(ボケを強調して)撮れる事です。
もしそれに興味が無ければ、撮像素子の小さな機種を選択するのが賢明です。
ご理解頂けましたでしょうか。
スマホとカメラの画質の差