アヒルが白鳥になってしまった
SONY α7 IIIの優位性
2018/3/26
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目次
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はじめに
2018/2/27に、α7 IIIが発表されました。
とは言え、余程SONY好きの方でも、このモデルの登場を待ち焦がれていた方は、殆どいらっしゃらなかった事でしょう。
なにしろ従来のα7は、高画素のα7Rと高感度のα7S、そして高速のα9に囲まれて、価格が安いだけが取り柄のフルサイズ普及機という、いわば日陰の存在だったからです。
ところが、α7 IIIのプレスリリースを読んでみると、予想外に魅力的なモデルに仕上がっているではありませんか。
魅力的と言うだけでなく、エポックメイキングなモデルと言っても良いくらいのポテンシャルを秘めています。
一体どこがどう魅力的なモデルに生まれ変わったのか、最新情報を盛り込みながらじっくりご説明したいと思います。
特にこれからフルサイズ一眼を購入しようと考えている方は、必見です。
結論
それでは先に結論をお伝えしておきましょう。
先ず以て驚いたのは、α7 IIIはα9に搭載された最新の裏面照射型のCMOSセンサーを搭載し、更にα7R IIIと同じ操作性を持たせ、それでいて価格を23万円と超破格の値段で市場に打って出た事です。
下はα7 III発売時点(2018年)におけるソニーストアにおける各モデルの税抜価格です。
世代 | α7 | α7S | α7R | α9 |
---|---|---|---|---|
I | 114,880 円 | 230,000 円 | 販売終了 | 498,880 円 (40万円) |
II | 164,880 円 | 298,880 円 | 278,880 円 | ー |
III | 230,000 円 | ー | 369,880 円 (33万円) |
ー |
ソニーストアの価格ですので、市場価格よりもかなりお高いのですが、SONYの他のモデルと比べるのでしたら、こちらの価格の方がより適切な様に思われます。
この表をご覧頂きます様に、α9の価格は50万円、α7R IIIが37万円です。
この両モデルの良い所取りをしたα7 IIIがたったの23万円なのですから、超破格の値段と言うのも納得して頂けると思います。
これを他社機に当てはめてみますと、例えばキヤノンEOS-1DX II(60万円)の撮像素子とEOS 5 IV(31万円)の操作性を、EOS 6Dシリーズに盛り込んで、それをEOS 6D IIの価格帯(20万円前後)で売り出したと言えば、その衝撃の大きさをご理解頂けるでしょうか。
ニコンで言えば、NIKON D5(60万円)の撮像素子とNIKON D850(40万円)の操作性をD700シリーズに持ち込んで、D750の価格帯(20万円)で売り出したと言えます。
これはもう完全に掟破りの価格破壊モデルと言っても過言ではありません。
実際幣サイトでもα7 IIIの仕様と価格を予想してみたのですが、恐らくα9に搭載された新CMOSセンサーは搭載されないだろとの結論に至りました。
何故ならば、新CMOSセンサーを採用すれば、α7 IIIの価格はどう考えても30万円近くなると予想したからです。
もちろんα9のCMOSセンサーは秒速20コマの連写性能を達成するため、メモリーと信号処理処理回路をCMOSセンサーに積層配置しているのに対して、α7 IIIのCMOSセンサーは従来タイプの非積層タイプですので、多少コストダウンが図れています。
左がα7 IIIの従来構造、右がα9の積層構造
ですが、それにしても安過ぎます。
だとすると、なぜこの様な価格設定ができたのでしょうか?
もしかしたらキヤノンやニコンからもフルサイズ対応ミラーレス一眼が発売されると予想されるため、その対応として多少利益率を落としてでも戦略的価格を採用したと思われるかもしれませんが、それは有り得ません。
今どきどの企業でも、採算を度外視して思い付きで値付けができる余裕など全くありません。
このスペックでこの価格帯の製品を出そうというのは、今から数年前に決まっていた事で、それを実現するために地道なコストダウンを続けていたのは間違いありません。
特にSONYの場合、外販を含めて自社でイメージセンサーを製造していますので、かなり長期的に製品の仕様や製造コストを予測できるというアドバンテージがありますので、それが大きく寄与したのもあるのでしょう。
ですので、α7 IIIの仕様と価格は昨日今日に決まった話ではなく、α7が計画されたであろう2010年頃から周到に計画していた事が、ついに実現したと言えます。
間違いありません。
SONYは完全に戦闘モードです。
恐らくSONYとしては、このα7 IIIを第一次ミラーレス一眼戦線の戦略商品として捉えているのでしょう。
そしてこれは全くの偶然でしょうが、(うまい具合に)これからキヤノンやニコンのフルサイズ対応ミラーレス一眼が、満を持して発売されます。
他社のフルサイズ対応ミラーレス機の基本性能は、当然普及機クラスなのは間違いありません。
となると、この初戦はどうみてもSONYの圧勝になるのは間違いないでしょう。
なぜそう言えるのか、各仕様を見ながらじっくりお伝えしたいと思います。
2400万画素の妥当性
それでは具体的にα7 IIIのアドバンテージを見ていきたいと思います。
となると、真っ先にお伝えしたいのが、画素数です。
恐らくこれを読まれている大多数の方は、画素数が多いほど良い写真が撮れると思われる事でしょう。
すなわちα7 IIIの2400万画素より、4800万画素のα7R IIIの方が上だと思われる事でしょう。
確かに画素数が多ければ、同じ大きさのモニターに画像を映せば精細性が上がりますので、臨場感も美しさもアップします。
ただしそれはモニターにそれだけの解像力があればの話です。
4800万画素は使い切れない
下の図は、カメラの画素数によって、どれだけの大きさにプリントできるか、及びどれくらい解像度の高いモニターに出力できるかを表しています。
これをご覧頂きます様に、α7R IIIの様に4800万画素があっても、その能力をフルに使い切る確かには新聞紙大にプリントするか、まだ展示会場でしか見れない8Kテレビ(3300万画素)で見しかないのです。
すなわち折角4800万画素の写真を撮っても、結局居間にあるテレビや自宅のPCで見ている限り、200万画素の写真でしかないのです。
4800万画素を必要とする被写体は殆ど無い
そしてもう一つお伝えしたいのは、そもそも4800万画素を必要とする様な被写体は殆ど無いという事です。
下はα7R IIの広告で使われている写真ですが、こんなに精細な被写体は滅多にない事は何方もすんなり同意頂けるのではないでしょうか?
という訳で、せいぜい居間にある200万画素のハイビジョンテレビあるいは、4Kテレビで見る程度でしたら2400万画素で十分です。
4800万画素は邪魔だ
さてここまでの話でしたら、例え宝の持ち腐れであっても、いつか4800万画素が必要な事があるかもしれませんので、あながち悪い事とは言い切れません。
ですが、4800万画素ですと、RAWファイルで1枚当たり40MBもありますので、1000枚撮れば40GBにもなるのです。
ですので、HDDのメモリー容量がどんどん減っていくのです。
丁度、使いもしない服や食器を後生大事にため込んで置くようなものです。
またRAWファイルを現像したり、撮った写真をフォトショップ等でレタッチした方なら経験があるでしょうが、写真の画素数が多いと、画像処理の時間が非常に長くなるのです。
写真の明度を変えたり、ちょっと水平を直すだけで数十秒も待たされると、さすがに疲れてきます。
だったら画素数はいくらぐらいが適正かと聞かれれば、今の段階では2400万画素程度が妥当だと言えます。
ちなみにα7 IIIの直接のライバルとなるキヤノンのEOS 6D mark IIが2600万画素、ニコンのD750が2400万画素です。
ローパスフィルターの有効性
次はローパスフィルターです。
ローパスフィルターとは、低周波成分を通過させて、高周波成分を遮断するフィルターの事です。
カメラの場合でしたら、撮像素子の前に設けられており、太くてぼんやりした画像は通過させ、細くてくっきりした画像は透過させない、すりガラスの様な物です。
これによって、モアレや偽色の発生を防ぐ事ができます。
繊維の画像に生じたモアレと偽色
そう聞けば、どんなたもそんな物は無い方が良いと思われる事でしょう。
このため、昨今の風潮としては、多少のモアレや偽色のリスクがあっても、分かり易い解像度の良さを求めてハイパスフィルターレスを持て囃す傾向にあります。
実際ネットで検索すると、ローパスフィルターレスの方がこんなに画像がくっり写るとした、新聞紙やビルの窓訳の画像が至る所にアップされています。
ですが、これはとんでもない誤解です。
カメラの様に撮像素子を1枚しか搭載しない場合、素子毎にフィルターの色を変えなければならないため理論上どうしてもローパスフィルターが必要なのです。(詳細はこちら)
最近ではレンズの解像度が撮像素子の解像度に追い着かない事から、高解像度カメラにおいては安易にローパスフィルターを外す傾向がありますが、この観点からもα7 IIIはお勧めと言えます。
高級機並みの連写性能
続いては連写速度です。
α9は電子シャッターながらフルサイズで20コマ/秒を達成しており、キヤノンやニコンもメカシャッターで、16コマ/秒、14コマ/秒を達成しています。
さすがにα7 IIIはそこまでは無理としても、10コマ/秒はかなり優秀です。
機種 | 最高速 | AF追随 |
α9 | 20コマ | 20コマ |
EOS-1D X II | 16コマ | 14コマ |
NIKON D5 | 14コマ | 12コマ |
EOS-1D X | 14コマ | 12コマ |
α99 II | 12コマ | 12コマ |
α7 III | 10コマ | 10コマ |
D850 | 7コマ | 7コマ |
EOS 5D IV | 7コマ | 7コマ |
EOS 6D II | 6.5コマ | 6.5コマ |
Nikon D750 | 6.5コマ | 6.5コマ |
α7 II | 5コマ | 2.5コマ |
α7 | 5コマ | 2.5コマ |
α7R II | 5コマ | 2.5コマ |
EOS 5Ds | 5コマ | 5コマ |
なにしろα7 IIIの直接のライバルとなるであろうキヤノンやニコンのフルサイズ入門機であるEOS 6D IIやNIKON D750の連写速度は6.5コマ/秒でしかないのです。
これは競合他社にとってかなり驚きの仕様であるのに間違いありません。
優れたISO感度
そして次の驚きは、ISO感度です。
既にお伝えしました様に、α7 IIIはα9に搭載された最新版の裏面照射型の撮像素子を搭載してきました。
生憎α9と同じ積層型ではないため読み込み速度の遅れによるローリングシャッター歪はα9ほど改善されてはいませんが、ISO感度は以前の撮像素子より改善されています。
それをグラフにすると以下の様になります。
これをご覧頂きます様に、さすがに各社のフラグッシプ機より劣るものの、先程お伝えした直接のライバルとなるEOS 6D IIやNIKON D750より、1EV以上常用ISO感度が高い事が分かります。
これから登場するキヤノンとニコンのフルサイズミラーレス機も当然ながらISO感度は意識しているでしょうが、そう簡単にこの常用ISO感度は抜けないでしょう。
コストダウンの背面モニター
続いては背面モニターです。
今どき背面モニターは可動式で、タッチパネルは当たり前とも言えます。
そして大きさと共に解像度と明るさが重要なファクターになります。
これらを各メーカーの主要なモデルと比べると、以下の様になります。
サイズ | 総ドット数 | タッチパネル | 可動範囲 | 明るさ調整 | |
---|---|---|---|---|---|
Nikon D5 | 3.2型 | 236万ドット | 〇 | 固定 | 可能 |
EOS-1D X II | 3.2型 | 162万ドット | 〇 | 固定 | マニュアル(5段階) |
α7 III | 3型 | 92万ドット | 〇 | 上107°、下41° | マニュアル(5段階) 屋外晴天モード |
α7R III | 3型 | 144万ドット | 〇 | 上107°、下41° | マニュアル(5段階) 屋外晴天モード |
α7R II | 3型 | 123万ドット | - | 上107°、下41° | マニュアル(5段階) 屋外晴天モード |
α99 II | 3型 | 123万ドット | - | 上134°、手前180° 右180°、左90° |
オート マニュアル(5段階) 屋外晴天モード |
EOS 6D II | 3型 | 104万ドット | 〇 | バリアングル | マニュアル(7段階) |
Fuji X-T2 | 3型 | 104万ドット | 不明 | 3方向チルト式 | 不明 |
この表をご覧頂きます様に、α7 IIIの解像度(総ドット数)は断トツの低さです。
どうやら低価格を実現するためにこの部分のコストを抑えている様です。
ただしミラーレス機の場合、電子ファインダーでも画像を確認できますので、撮った写真のピントが合っているかどうかの確認は電子ファインダーを使った方がベターです。
なおαシリーズには、どれでも屋外晴天モードを搭載していますので、晴れたの日の屋外での撮影には多いに重宝します。
必要十分な電子ファインダー
電子ファインダーを他のモデルと比べると以下の様になります。
サイズ | 総ドット数 | 倍率 | 視度補正 | アイポイント | 色温度 | |
---|---|---|---|---|---|---|
α7R II α99 II α7 III |
0.5型 | 236万ドット | 0.78倍 | -4.0+3.0m-1 | 23mm(18.5mm) | 5段階 |
α7 II | 0.5型 | 236万ドット | 0.71倍 | -4.0+3.0m-1 | 23mm(18.5mm) | 5段階 |
α7R III | 0.5型 | 369万ドット | 0.78倍 | -4.0+3.0m-1 | 23mm(18.5mm) | 5段階 |
X-T2 | 0.5型 | 236万ドット | 0.77倍 | -4.0+2.0m-1 | 23mm | - |
これをご覧頂きます様に、α7R IIIと比べると見劣りするものの、殆ど問題ないレベルと言って差支えありません。
むしろα7R IIIがオーバースペックじゃないのと思ってしまうほどです。
その他の優位性
それでは、その他の優位性を簡単に見ておきたいたいと思います。
瞳AF
従来は瞳AFを登録したボタンを押して初めて瞳AFを起動できたのですが、α7 IIIにおいては”AF時の顔優先設定”をONにして、シングルAFでシャッターボタンを押すと、瞳AFが起動する様になりました。
AF性能
撮像エリアの約93%をカバーする693点の像面位相差検出AFセンサーを配置したほか、コントラストAFを従来機『α7 II』の25点から425点に多分割化し、検出精度が大幅に向上。
またAF速度は低輝度時に最大2倍に向上。
動体追従性能においては、イメージセンサーからの読み出し速度の高速化等により、従来機比約2倍に向上。
また、AF-SモードでのAF検出輝度範囲の下限値はEV-3(ISO100相当/F2.0レンズ使用)を達成。
手ブレ補正
最大5.0段の補正効果のある光学式5軸ボディ内手ブレ補正機能。
4K動画
画素加算のない全画素読み出しによる解像力の高い4K動画記録 。
操作性
マルチセレクター、タッチパネル、デュアルスロットの採用。
撮影枚数
従来機比2.2倍の高容量バッテリーの採用により、撮影枚数が710枚にアップ。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
これらをまとめると以下の様になります。
1.最新の裏面照射型CMOSセンサーで、現状では最も 使い易い2400万画素を採用。
2. モアレや偽色を防ぐため、理論上どうしても必要なローパスフィルターを搭載。
3. 秒速10コマと、高級機並みの連写性能。
4. 最大常用ISO感度51200(拡張204800)と高感度カメラに迫る優れたISO感度。
5. コストダウンした背面モニターと必要十分な電子ファインダー。
6. 改良されたAF性能、瞳AF、4K動画、操作性、撮影枚数。
なるほど、道理で売れる筈です。
アヒルが白鳥になってしまった、SONY α7 IIIの優位性