ウェストレベルファインダーの話
2021/02/15:発行
はじめに
ウェストレベルファインダーをご存知でしょうか?
カメラのファインダーを上から覗き込む、あれです。
ウェストレベルファインダーにはどんなメリットがあるのか
既に年配の方しかご存知ないかもしれませんが、今回はこの話をしてみたいと思います。
ウェストレベルファインダー
このウェストレベルファインダーですが、アイレベルファインダーが一般的であったフィルム時代において、中判カメラの標準ファインダーだったと言っても過言ではないしょう。
話し出すと切りが無くなるのですが、当時は代表格のHasselblad 500 C/Mを初めとして、Kowa 6、Bronica EC、Bronica ETR、Mamiya RB67、Mamiya C330、FUJIFILM GX680等々と、それはもう中判カメラが百花繚乱の様相を呈していました。
コマーシャルフォトで一世を風靡したHasselblad 500 C/M
今にしたらこの時代が、フィルムカメラの全盛期だったのかもしれません。
また35mmフィルムを使う一眼レフにおいても、ペンタ部(ファインダー部)を交換できる高級機でしたら、このウェストレベルファインダーをオプションとして用意していたものです。
Nikon Fのウェストレベルファインダー
またペンタ部が交換できない機種であっても、主に接写用として接眼部に装着する潜望鏡の様なアングルファインダーも用意されていました。
最近すっかり見掛けなくなったアングルファインダー
ウェストレベルファインダーの欠点
さてこのウェストレベルファインダー(アングルファインダーを除く)の最大の特徴は、暗箱を通してファインダースクリーンを見るだけなので、暗箱とルーペ1枚があれば良いという極めてシンプルな構造にあります。
ただしミラーを1枚介して光軸を上側に向けているだけのため、被写体が左右逆の鏡像に見えるのです。
二眼レフカメラの構造
このため、人物が右に動くとファインダーの人物は左に動くという訳で、動体撮影には全く以って不向きな代物でした。
ウェストレベルファインダーの3大利点
ところが、このファインダーにはその欠点を補うどころか、その欠点を上回る3つの利点があったのです。
1. 胸元の高さで撮影できる
その一つ目が、屈(かが)む事無く立ったまま胸元の高さで撮影できるため、人物撮影においては抜群の利便性を備えていた事です。
ファインダーを覗いた瞬間に被写体が丁度良いフレームに収まっているのですから、後は構図を決めてシャッターを切るだけで済みます。
2. 構図に集中できる
二点目が、上からファインダーを覗く事により、水平に覗くのに比べて明らかに構図に集中できる事です。
これは実際に使ってみないと分からないと思いますので、(難しいと思いますが)未経験の方は是非一度ウェストレベルファインダーを覗いてみて頂ければと思います。
中判カメラの場合、画面(フォーカススクリーン)が大きいという事もあるのですが、ファインダーの中に全神経を集中できます。
3. 被写体をリラックスさせられる
そして三点目が、被写体をリラックスさせられる事です。
撮影に慣れていない被写体の場合、アイレベルファインダーを使って対抗して撮られると、どうしても緊張して顔が強張ってしまいますが、撮影者が下を向いている事により明らかにリラックスできます。
ウェストレベルファインダーを使うと被写体に威圧感を与えない
もし被写体が緊張している場合は、試しにウェストレベルで撮ってみて頂ければと思います。
その差は歴然です。
背面モニター
ところがご存知の様に、カメラになってからこのウェストレベルファインダーを搭載している機種が激減しています。
ですが、最近のカメラには可動式の背面モニターが装備されていますので、ウェストレベルファインダーの代わりに背面モニターを使えば似た様な効果は得られます。
チルト式モニターを使えばウェストレベルファインダーに近い効果を得られる
ただしそれはあくまでもチルト式モニターの場合です。
バリングル式モニターの場合、ウェストレベルの撮影は不可能と思った方が良いでしょう。
ウェストレベルでまともに使えないバリアングルモニター
何しろレンズの光軸とモニターの中心が大きくずれますので、これで水平を保ちながら構図を決めるのは、正に至難の業です。
確かに最近のカメラは水準器が表示されるのですが、気が付くと水準器だけ見てシャッターを押す事になりかねません。
ほんの一部の自撮りをする方のために、それ以上に遥かに多い自撮りをしないユーザーが使い難くなるバリアングル式は、いい加減に止めてほしいものです。(バリアングルに関する詳細はこちら)
愚痴はこれくらいにして、また例えチルト式であっても背面モニターですと、ピントがしっかり合っているかどうか分からない、或いは周囲が明るいとモニターが見えない、さらにファインダー内に集中できない等、やはりウェストレベルファインダーに一日の長があります。
そんな訳で、次に現在でも入手可能なウェストレベルファインダーの使用可能機種をご紹介したいと思います。
フジフィルム
それでは先ず、本書一押しのウェストレベルファインダーをご紹介したいと思います。
それはフジフィルムの中判カメラであるGFX 50Sの電子ファインダーです。
GFX 50Sの上下左右可動式のファインダー
この電子ファインダーは、ファインダーとボデイーの間にEVFチルトアダプター(EVF-TL1)なる部品を取り付けると、上下のみならず、左右にも回転するという優れ物なのです。
GFX 50S |
EVF-TL1 |
ですのでファインダーを覗きながら、縦位置でのウェストレベルの撮影も可能になります。
電子ファインダーなので、当然ながら上から覗いても正像です。
中判サイスには全く興味が無いのですが、このファインダーは使ってみたくなります。
ただしお高いのと、ファインダーの全長がやたら長いのが玉に瑕(きず)です。
ソニー
続いてはソニーです。
ソニーも、外付け電子ファインダー(FDA-EV1MK)を用意しています。
RX1に装着した上下チルト可能な外付け電子ファインダー(FDA-EV1MK)
ただし装着できるのは、フルサイズでレンズ固定式カメラのRX1シリーズの3機種、及び1インチサイズのレンズ固定式カメラのRX100 IIだけです。
RX1R M2 |
RX1R |
RX1 |
RX100 II |
レンズ交換式のαシリーズも同じマルチインターフェースシューを採用しているので、この外付け電子ファインダーを装着できる様にすればそこそこ売れそうな気がするのですが。
と言いながら、この外付け電子ファインダーは、既に生産中止で在庫のみの扱いになっています。
キヤノン
キヤノンにもチルト式の電子ファインダーがあります、と言いたい所ですが、正確にはありましたになります。
それが2世代程前のEOS M3に装着できた外付け電子ファインダー(EVF-DC1)です。
EOS M3に装着した上下チルト可能な外付け電子ファインダー(EVF-DC1)
これは同時代のPowerShot G3 XとG1 X Mark IIにも装着可能でした。
G3 X (1インチ) |
G1 X II (APS-C) |
ただし残念な事に、最新機種においては上下固定式の電子ファインダーであるEVF-DC2に代わり、ウェストレベルでの使用は不可能になりました。
上下チルト固定になったEOS M6 IIに装着した外付け電子ファインダー(EVF-DC2)
これからすると、ウェストレベルファインダーの需要は限りなく少ない様です。
なぜなのでしょう。
パナソニック
今まではオプション扱いのウェストレベルファインダーでしたが、本体に可動式電子ファインダーを搭載した機種があります。
それがパナソニックのLumix GX7 III(マイクロ4/3サイズ)です。
本体に可動式ファインダーを埋め込んだLumix GX7 III
ただしこれは人物撮影用ではなく、スナップ写真を主眼に置いたもので、そのせいかファインダー位置も光軸からズレています。
またこの機種の前にもDMC-GX8という、同じマイクロ4/3サイズながら少し大柄のカメラもありました。
可動式ファインダーがユニークなDMC-GX8
これがフルサイズで、尚且つ光軸上にファインダーがあれば言う事ないのですが。
まとめ
それではまとめです。
①ウェストレベルファインダーは、胸元の高さで撮影でき、ファインダー内の視界に没頭でき、被写体に威圧感を与えない事から、人物撮影には持ってこいのファインダーである。
②チルト式モニターであればある程度の代用は可能であるものの、ピントの確認が難しい、或いは周囲が明るいとモニターが見えない、さらにファインダー内に集中できない等から、やはりウェストレベルファインダーの方が優れている。
③現状ウェストレベルファインダーを使用できる機種は、レンズ交換式でフジフィルムのGFX 50SとLumix GX7 IIIであるが、レンズと同軸上となると GFX 50S一択になる。
お伝えした様に色々便利なウェストレベルファインダーなのですが、状況からしてこれから復活する事はほぼ無さそうな雰囲気です。
となると、今後ウェストレベルファインダーという言葉自体、死語になっていくのでしょうか。
となると、それに変わる物が可動式モニターなのだとしたら、せめてバリアングルは止めてもらいたいものです。
とまた愚痴で終わってしまいました。