カメラにヒストグラムは必要か?
2020/08/22:発行
目次
1. はじめに
皆様は、カメラのモニターに表示されるヒストグラムを使われていらっしゃいますでしょうか。
光量分布を示すヒストグラム(画面内右上)
ミラーレス一眼でしたら、撮影中のファインダーの中にも表示できますので、使う気が無くても表示させている方も多いのではないでしょうか。
ところでこのヒストグラムなのですが、果たしてどれだけ有効なのでしょうか?
ネットを検索してみると、これを見れば写真が上達するとか、諧調性が分かるとか、白飛びを防げるとか書かれていますが、本当にそうなのでしょうか。
何でも疑って掛かる幣サイトが、今回はヒストグラムの有効性について検証してみたいと思います。
2. ヒストグラムとは
今さらとは思いますが、ヒストグラムとは何かについてお話しておきます。
ヒストグラムを日本語に直せば、度数分布図とか頻度分布図になります。(詳細はこちら)
ヒストグラム(頻度分布図)の例
ですので、カメラに表示されるヒストグラムとは、撮った写真の明るさの分布をグラフで示したものと言えます。
もっと正確に言うと、モニターに表示されている画像の真黒から真白までの明るさを256当分して、それぞれの明るさの画素がいくつあるかを示したのがカメラのヒストグラムになります。
このため、下の図にあります様に写真が明るくなるに連れてヒストグラムの山が左から右側(明部側)に寄っていきます。
写真が全体明るくなるにつれてのヒストグラムの山は右に寄っていく
またコントラストが強くて暗い部分と明るい部分が多い写真ですと、ヒストグラムの両端に山ができますし、コントラストの弱い写真ですとヒストグラムの中央にのみ山ができます。
コントラストが強いと両端、弱いと中央に山ができる
ここまでは宜しいでしょうか。
3. ヒストグラムの活用方法
ではそれが分かった所で、このヒストグラムをどう撮影現場で活用すれば良いのか考えてみます。
確かにヒストグラムを見れば露出の傾向が分かりますが、それよりも実際の画像をチェックした方が、余程正確に画像が明るいか暗いかチェックができます。
ましてや撮影者の意図や環境によっては、暗くしたいときや、明るくしたいときだってあるのですから、ヒストグラムを見た所で、そんな判断は全く下せませんし、山あり谷ありのグラフを見て諧調性と言われても何の事やらさっぱり分かりません。
早い話が、撮った写真(或いは撮ろうとした写真)の光の分布をヒストグラムで知った所で、結局の所何の役にも立たないのです。
そんな訳で幣書の結論としましては、一方的な言い方で恐縮ですが、撮影時のヒストグラムは何の役にも立たない、としたいと思いますがいかがでしょうか?
10歩譲って、あっても邪魔にはならないと言いたい所ですが、例え小さくてもファインダーや背面モニターに画像と一緒に表示されるのはどう考えても邪魔です。
ですので、どうせ何の役にも立たないのでしたら、(消せるのでしたら)消してしまった方が良いのではないでしょうか。
4. ヒストグラムで白飛びを防げるのか
ですが、こう書くと、恐らくこう反論される方もいらっしゃる事でしょう。
ヒストグラムを見る事で、黒潰れや白飛びを防ぐ事ができると。
ではその場合、どうやって黒潰れや白飛びを防ぐのでしょうか。
スタジオ撮影でしたら、部分的に多少光の当たり具合を調整できるかもしれませんが、屋外ではそんな事はできません。
だとしたら、結局の所、カメラの露出設定を変更するしかありません。
となると、適正露出から外れる可能性が高いと思うのですが、それでも良いのでしょうか?
それはむしろ、失敗写真と呼ぶべきでしょう。
そもそもダイナミックレンジで言えば140dB以上もある日常の光を、たった40dBほどの範囲の光しか保存できないJEPGファイルに押し込むのですから、1枚の写真の中に黒潰れや白飛びがあるのは当然の事と言えます。
むしろ白黒写真の時代には、1枚の写真の中に真白と真黒が存在するのが良い写真とまで言われていたほどなのですから。
白黒時代の報道写真には必ず真白と真黒が存在した
何故ならば、それによってフィルムと印画紙の諧調性をフルに引き出す事になるので、1枚の写真の情報量が最も大きくなるからです。
ですので、その二つが存在しない写真は、締まりの無い写真だとして、報道写真等に使われる事は決してありませんでした。
最近では白黒写真を見る機会はめっきり少なくなってしまいましたが、週刊誌の白黒グラビア頁に今なおその名残を見て取れるのではないでしょうか
デジタルのカラー写真が全盛の今どき、そんなのは死語だと言われるかもしれませんが、覚えておいて損は無いでしょう。
これでまとめに行きたい所ですが、その前にもう一つお伝えしておきましょう。
5. RAWファイルにはヒストグラムの幅以上の情報がある
それは、RAWファイルにはヒストグラムで表示された以上の情報が入っているという事です。
先ほどの写真をもう一度見て頂けますでしょうか。
写真全体が明るくなるにつれてのヒストグラムの山は右に寄っていく
既にお気付きの通り、これはRAWファイルを現像して露出を変えた写真になります。
この場合、中央が適正露出だとすると、そのヒストグラムを見ると白い水着の部分は白飛びしています。
ところがこれを現像して暗くすれば、ご覧の様に白飛び部分の諧調も再現できるのです。
何を言いたいかと言えば、白飛び(或いは黒潰れ)だと言っているのは、あくまでもカメラのモニターに表示された画像の中だけの話であって、それはRAWファイルとは一切関係ないのです。
すなわち、RAWファイルの中にはヒストグラムの両端の画像情報が、白飛びも黒潰れもせずしっかり残っているのです。(詳細はこちら)
稀に、白飛びしている個所の画像情報はRAWファイルにも入っていない、とするネット記事が見受けられますが、それは大きな間違いです。
ですのでもしRAWファイルで画像を記録しているのであれば、後でいかようにも調整できますので、ますますヒストグラムなど気にする必要は無いという訳です。
ついでに言わせて頂きますと、カメラには白飛び部分を表示するゼブラ表示(ハイライト警告表示)機能がありますが、これは更に目障り極まりないので消しておきましょう。
飛んでもなく目障りなゼブラ表示
この縞模様だの毒々しい赤色の点滅表示なんかを常時見させられた日には、子供でなくても光過敏性発作に陥ってしまいます。
精神衛生上の観点からも、こんな表示をさせはいけません。
そもそもハイライト警告表示という名称にも、大いに疑問を感じます。
逆光で人物を撮れば、間違いなく背景の空は白飛びします。
逆光で撮れば背景の空は白飛びする
ハイライトがあるからこそシャドーがあり、シャドーがあるからこそハイライトがあるのです。
単にハイライト表示と呼べば良いものを、何故光を扱う光学機器メーカーが、ハイライトを警告の対象にするのでしょうか?
6. まとめ
それでは、まとめです。
①カメラのヒストグラムとは、モニターに表示されている真黒から真白までの明るさ256当分して、その明るさの画素がいくつあるかを示したものである。
②ヒストグラムを見る事で、その画像の傾向を掴む事ができるものの、画像を見ても判断できる。
③ヒストグラムを見ると、白飛びを防げるとの意見もあるが、白飛びを防ぐという事は必然的に露出アンダーにする事になり、むしろ失敗写真を作る事になる。
④画像の情報量の観点から言えば、真白と真黒が適度に1枚の写真に存在しているものがベストであり、その場合諧調性も豊かになる。
④モニター表示に白飛びや黒潰れがあっても、RAWファイルにはしっかりデータは残っている。
⑤故にヒストグラムやゼブラ表示などは、不要である。
7. ヒストグラムの有効活用方法
さて、以上をご納得頂いた方に限って、(少々矛盾している様ですが)本書が考えるヒストグラムの唯一無二の有効活用方法をお伝えしたいと思います。
それは撮った写真(或いは撮ろうとした写真)において、ヒストグラムの中に真白と真黒が適度に存在するかどうかを確認する事です。
画像を見て、真白と真黒が存在するかどうかを探すのは至難の業(と言うよりほぼ不可能)ですが、ヒストグラムを見ればそれが一目で分かります。
これらが適度に存在していれば、当然ながらその間にも山が存在しますので、写真が表現できる明部から暗部までの全ての諧調を使っている事になります。
すなわち、諧調性も豊かになり情報量も多くなります。
ただし、真白と真黒が極端に多い写真は、中央の諧調が殆ど無い写真になってしまいますので、これまた好ましくはありません。
また、たとえ真白や真黒がないからと言って、露出を変えたり構図を変えたりする必要性は一切ありません。
できれば見て良いと思った画像において、適度に真白と真黒が入ってくれていれば理想なのですが、現実はそう甘くはありません。
ですので、あくまでも確認だけで、見て良いと思った構図と露出を優先すべきだというのが、本書の考えです。
大した話ではありませんが、ご賛同頂けますでしょうか?